第5話 初仕事の夜に
初依頼を終えた満足感を胸に、セイとミミは和やかな雰囲気のままギルドを後にする。
「よし、ミミよ。ご褒美じゃ! チーズがのびるヤツを食いに行こうぞ」
「うん!」
通りを曲がると、香ばしい匂いが風に乗って漂ってきた。
ミミが鼻をひくつかせ、足取りが自然と速くなる。
「この匂い……絶対あれだよ!」
匂いをたどって歩くこと数十歩。
灯りに照らされた小さな屋台が見え、鉄板の上ではチーズがとろりと伸びていた。
「おやじ! そのチーズがのびるヤツ、二つくれんか」
「まいどっ! 熱いから気をつけるんだぞ」
セイは代金を払い、品物を受け取る。そして一つをミミに手渡した。
ふたりは熱々を頬張り、しばし無言で幸福を噛みしめる。
ミミが最後のひと口を飲み込み、満足げに息をついた。
「ふぅ……おいしかった……!」
「うむ。初依頼にふさわしいご褒美じゃったな」
屋台を離れ、夕暮れの通りをゆったり並んで歩き出す。
「よし……じゃあ今日は、ゆっくり休むとしようかの……」
「うんっ! わたしもすっごく疲れちゃったよ」
「…………」
「……セイ?」
「…………」
「…………」
「……宿、とってなかったーーーーッ!!」
その場にがっくり膝をつくセイ。
天を仰ぎ、両手を広げて嘆きの姿勢で固まった。
「なんという失態……! 旅の基本すら押さえられておらんとは……!」
「ねぇ、セイ。 わたし、お外でも大丈夫だよ?」
無邪気な声に、セイは慌てて手を振った。
「いやいや、依頼の報酬も入ったんじゃ。ちゃんと宿をとって休もう」
「そっか……うん。ふかふかのベッドで休も!」
「ぬぬ……ふかふかかどうかは、お財布と相談じゃが……」
ぶつぶつ言いながら、セイは通りがかった村人に声をかけた。
「すまん、宿屋はどこに?」
「宿ならこの村に一軒だね。入口から少し戻ったとこに《こもれび亭》があるよ」
「恩に着る!」
教えられた道順をたどり、ふたりは村の端に建つ小さな宿へ向かう。
木造の外壁には花が飾られ、窓からは柔らかい灯りがこぼれていた。
「……おかえりなさいませ。お二人ですか?」
ふくよかで朗らかな女将が、ほっとする笑顔で迎える。
「一泊二食、二人分で銀貨四枚になりますよ」
「ふむ、それなら──」
セイが銀貨を差し出したところで、女将がミミへ視線を向け、目を細めた。
「まぁまぁ、可愛らしいお嬢ちゃんだこと。あんたたち、新婚さんかい?」
「えっ!?」
ミミは跳ねるように固まり、顔を真っ赤に染めた。
一方のセイは表情を崩さず、穏やかな笑みを浮かべる。
「その認識で問題ない」
「ちょ、ちょっとセイっ!?」
ミミが慌てる横で、女将はくすくす笑った。
「若いっていいねえ、見てるだけで腰の痛みが引くようだよ……って、あら? 本当に?」
女将が不思議そうに腰を押さえて首を傾げる。
(……《魅了体質》と《おじいちゃんの優しさ》、あとは他の“テンプレ詰め込み効果”の影響かのう?)
セイは小さくため息をついた。
どうやらこの勇者の力、本人の意思とは関係なく周囲へ作用する――そういう仕様らしい。
◇ ◇ ◇
その夜。
小さな部屋の中、お風呂上がりのミミが、バスタオル一枚で布団の上をごろごろと転がっていた。
「ふかふかだねー! やわらかいー!」
「おぬし、ちと無防備すぎではないか……?」
「へへっ。セイはそういう目で見ないもん。えっちじゃないって、ちゃんとわかってるよ」
「まあ、ワシはおじいちゃんなのでな」
「……それさ、言葉づかいだけじゃなくて、都合いいときだけ“おじいちゃん”って言ってない?」
「……む、バレたか」
二人してくすくす笑ったあと、ミミが布団をポンポンとたたいた。
「セイ、ちょっとここにうつぶせに寝転んで?」
「……なんじゃ急に?」
「いいから、ほらっ! おつかれさまのマッサージ、してあげるの!」
そう言うなり、ミミはセイの背にちょこんと腰をおろし、両手で肩を押しはじめた。
小さな手のひらなのに、不思議と芯のある力が入っている。
指先は迷わずツボをとらえ、じわじわと凝りをほぐしていった。
しばらく続けてから、ミミの声がほんのわずかに低くなる。
「ねえ、セイ……ずっと気になってたんだけど、本当はどこから来たの?」
「……むう」
(正直に言うべきか、ぼかすべきか……いや、今さら隠す理由もあるまい)
「遠い、遠い世界からじゃ。……ある子の代わりに、この地へ来たんじゃよ」
「代わり……?」
「うむ。その子がこの世界に呼ばれかけたとき、ワシが――代わってやった。代役としての“使命”を背負ってな。……転生という形で」
ミミの手がぴたりと止まる。
「……転生って、じゃあセイって、前は……?」
「ふむ。元の世界では、ただの年寄りじゃった。
白髪まじりで、腰も曲がった、“おじいちゃん”。
孫と暮らしながら、穏やかに余生を送っておった……つもりじゃったがの」
短い沈黙のあと、ミミは小さく笑った。
「……だから、おじいちゃんみたいな話し方なんだね」
「おう。見た目は若返ったが、中身までリセットされんかったようでな。しゃべり癖ってのは、そう簡単には直らんもんじゃ」
「でもね、なんか落ち着くよ。セイの声、安心する」
セイは鼻を鳴らし、わずかに目をそらした。
「それにな、不思議なことがあってな」
「なに?」
「この世界に来てから、ピンチのたびに……まるで用意されていたみたいにスキルを覚えるんじゃ。“威圧”やら“加速支援”やら……『ここでこれがあればええ』と思った瞬間に、勝手に手に入る」
「えっ、それすご……ほんとに都合よく?」
「まったくじゃ。“テンプレ詰め込み勇者”という肩書きは伊達ではないようじゃの」
ミミはぷっと吹き出し、くすくす笑う。
「セイって、やっぱりおじいちゃん。あと、ちょっとズルい」
セイも笑い、肩をすくめた。
「まぁ、それでも……運ばれた先で出会えたのがおぬしでよかったわい」
セイは表情を引き締める。
「この世界の運命を狂わせてしまう選択を、正しい方向に導くこと。鍵となる少女たちに出会い、支え、見極めること――それが、ワシに託された“使命”じゃ」
ミミはしばらく黙り、ぽつりと呟いた。
「わたしも……その“鍵”のひとり、なのかな」
「ふむ、可能性はあるかもしれんのう。でもな」
セイは肩越しに振り返り、穏やかに笑う。
「それが使命であろうとなかろうと……おぬしを見捨てるつもりは、最初からないぞ」
ミミの目がぱっと輝く。
「うんっ……! じゃあ、わたしも“正しい選択”ができるように頑張るね!」
「頼もしいのう。肩たたきと一緒に、ワシの背中まで押してくれるとは」
「うん、全力で押しちゃうよ! ……でもセイ、たまにはズルしないで頑張ってね?」
「お、おぬし、先ほどからズルと言っておるが、ワシはズルなどしておらんぞ!」
笑い声と共に、夜は静かに更けていった。
◇ ◇ ◇
やがてミミがすうすうと寝息を立てる頃、セイは布団からそっと抜け出し、窓辺へ歩く。
空には無数の星が散らばっていた。
異世界の空であるはずなのに、その星の瞬きはどこか懐かしい。
「強制ハーレム誘導……着々と進行中、か。まったく、楽じゃないわい」
苦笑しながら、セイは掌を見つめる。
「使命も、冒険も、ぜんぶまとめて背負う……それが、テンプレ勇者の定めじゃな」
そのとき――
遠くで、夜気を裂くような小さな悲鳴が響いた。
セイの背筋がピンと伸び、目は鋭さを帯びる。
「……ふむ。どうやら、もうひと仕事ありそうじゃ」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】5
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:中(新婚さんという言葉に敏感に反応)
- 能力傾向:回復系(未覚醒)/ヒーラー適性あり
- 状態:枷は外され、衣服・装備・金銭あり(セイによる支援済)、お疲れ気味は変わらず
- 補足:セイの背中を揉んで癒すなど、日常的な親和イベント進行中
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