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第47話 覚醒のチカラ

 翌朝、まだ空気の冷たい時間帯。

 セイたちは宿を出て、フェルトンの石畳を踏みしめながら東門へ向かう。


「昨日は……お楽しみだったみたいね。帰ってきたの、遅かったみたいだけど?」


 ふいにリアナの声が飛んできた。腕を組み、むくれ顔でセイをにらむ。

 昨晩、エリシアと二人でバーに行ったのをまだ気にしているらしい。


「その言い方は心外じゃのう。ワシらは真面目に情報収集してきたんじゃぞ」


 セイは大げさに胸を張ってみせる。


「……まあ、そのついでに酒も少しだけ飲んできたがな」


「情報収集、ねぇ」


 リアナがじろりと睨むが、セイは動じない。


「はい。実際に、有益なお話をたくさん聞けました」


 エリシアが穏やかに補足すると、セイは勢いよく頷く。


「そうじゃそうじゃ! ヤツらの特徴もさることながら、荷馬車が狙われやすいという情報も得たのじゃ。だから昨晩のうちに、荷馬車を借りておいた!」


「へぇ……手際はいいのね」


 一瞬だけ感心したように目を細めるリアナ。だがすぐに眉をひそめる。


「でも、それって襲われて壊されたら……弁償できるの?」


「……ぬぅっ!?」


 セイはぎょっとして、顎をさすりながら青ざめた。


「ま、まあ……みんなで力を合わせて荷馬車を守れば大丈夫じゃ!」


「……それ、もう目的変わってない?」


 リアナが呆れたように額に手を当てる。


「まあ……こうした貸し出し用の乗り物には、たいてい保険がかけられていますから」


 エリシアが落ち着いた声でフォローした。


「そっか! じゃあ安心だね!」


 ミミがぱっと笑顔を向け、場の空気を明るくする。


「荷馬車も、わたしたちも、みんな無事に帰ってこようね!」


 東門に着くと、借りていた荷馬車はすでに準備されていた。

 馬番の男から手綱を受け取り、セイたちは順に荷馬車へ乗り込む。


「よし、出発じゃな」


 セイが手綱を軽く引くと、馬が短くいななき、荷馬車はゆっくりと動き出した。


 門を抜けると、街道は草原の中を緩やかに続いている。

 昇りはじめた朝日が露を照らし、小さな光があちこちで瞬く。その中を、荷馬車はコトコトと心地よい音を響かせながら進んでいった。


 やがて依頼の地点に近づくと、セイが手綱を止め、深く息を吸い込む。


「……少し様子を探るかの」


 意識を集中させ、スキル《索敵》を発動。

 視界に浮かぶ濃い緑の気配の中、ひときわ大きな黄色の気配が混じっていた。


「……いたな。群れの中に一際強い気配――間違いなく大型個体《縞影》じゃ。危険度は高いぞ」


「え、《ボス・ダスクハウンド》じゃないの?」


 リアナが小首をかしげる。


「現地の連中は《縞影》と呼んどるらしい。こっちの方がかっこええから、縞影でええじゃろ」


 セイが肩をすくめる。


「じゃあ帰ったら、カレンさんに教えてあげよ」


 リアナがくすっと笑った。


「やめてやれ。そんなこと言ったら、また顔を真っ赤にして言い訳を始めるぞ」


 セイも苦笑する。


「――さて、冗談はここまでじゃ。行商を装って、このまま依頼場所を通り抜けるぞ」


 そう言ってセイが手綱を握り直した、その瞬間だった。


 茂みの奥から、低く唸る声。次いで黒い影が弾丸のように飛び出す。

 ――ダスクハウンドの群れだ。


「来たぞ!」


 四人は一斉に荷馬車から飛び降り、戦闘態勢を取る。


 赤い瞳をぎらつかせ、牙を剥きながら低く身を沈め、じりじりと間合いを詰めてくる。


「ミミとエリシアは後方支援! ワシとリアナで迎え撃つ!」


「任せて!」


 リアナが鋭く剣を構え、地を蹴った。


「……あ、言い忘れてたが――こやつら、陽動がめちゃくちゃ得意らしいぞ!」


「えっ――!?」


 前方の群れに意識を取られたその隙、横合いから影が飛び出す。牙がリアナの肩へ迫る――


 ぱんっ、と光が弾け、小さな結界が瞬時に展開。鋭い牙は甲高い音を立てて弾かれた。


「ミミさん……助かった!」


「ふふっ、今の展開の速さ、すごいです。特訓の成果ですね」


 エリシアの声に、ミミは照れくさそうに笑う。


「えへへ……! ――あっ、リアナちゃん、前! 来てるよ!」


 振り返る間もなく、正面からダスクハウンドが飛びかかる。

 リアナは息を吸い込み、力強く踏み込む。剣閃が走り、魔獣の首筋を断つ。血飛沫と共に巨体が崩れ落ちた。


 剣を払いつつ周囲を見渡せば、左右背後から群れが連携して包囲を狙ってくる。


「セイ! このまま押し返すわよ!」


 リアナが声を張り上げ、足を踏み出すと同時に、全身から淡い光がほとばしった。


 次の瞬間、リアナの動きが一変する。

 攻撃を読むかのように先回りし、一閃、また一閃。黒い影が悲鳴を上げる間もなく地に沈む。


「な、なんじゃあの動きは!?」


 セイも剣を振るい、リアナが切り開いた隙を補うように魔獣を斬り伏せる。


 呼吸は自然に合い、互いの間合いを埋めながら十匹近い魔獣を次々と切り崩す。

 草原に血煙が立ちこめ、ようやく場が静まった――その時。


 草むらがざわりと揺れ、空気が震える。

 風を裂いて現れたのは、一際大きな影だった。


「……来たわね、本命」


 リアナは荒い息を整え、剣先を鋭く構え直す。


 全身を覆う黒灰色の毛並み。その隙間を走る白い縞光は稲妻のように閃き、血に染まった赤い瞳が獲物を射抜く。

 口元から覗く異様に長い牙は、獰猛さそのものだった。


「こいつが……縞影か!」


 セイは目を細め、剣を握り直す。


 その巨体が一歩踏み出すだけで大地が沈み、土煙が激しく舞い上がった。


「さっきまでの奴らとは……全然ちがうね」


 ミミが息を呑み、身をすくませる。


「セイさん、リアナさん……お気を付けください!」


 エリシアの張り詰めた声が、緊張をさらに高める。


「――《加速支援》!」


 光が走り、セイの身体が一気に軽くなった。筋肉が弾み、剣筋が鋭さを増す。


「リアナ、行くぞ!」


「ええ、ここで止めるわ!」


 リアナが縞影へ駆け出し、正面から剣を振りかざす。

 爪と剣がぶつかり合い、火花が散る。


「くっ……!」


 一撃ごとに腕が痺れ、足元の土が砕ける。押し負けそうになるリアナの横へ、セイが飛び込む。


「――ぬんっ!」


 加速した身のこなしで縞影の懐へ踏み込み、鋭い斬撃を叩き込む。

 刃は浅い。だが、注意を引きつけるにはそれで十分。


「ぐぬぬっ……! 硬すぎるのじゃ!」


 歯を食いしばりながらも、セイは縞影の視線を逸らし続ける。


 その隙を狙い、リアナは大きく息を吸い込む。


「――これで終わらせる!」


 全身を包む光がさらに強まり、剣先が白熱したように輝く。

 振り下ろされる爪を紙一重でかわし、踏み込みざまに閃光の斬撃を叩きつけた。


 稲光のような刃が走り、黒灰の毛並みに深々と傷が刻まれる。

 巨体がよろめき、赤い瞳が憤怒に燃え上がる。


「まだ……倒れない!」


 リアナはさらに踏み込み、容赦なく連撃を叩き込む。

 光の残滓が弧を描き、縞影の体を切り刻むが、それでも獣は唸り声を上げ、立ち上がろうとする。


 全身に力を込め、渾身の一撃へと気力を集中。リアナを包む光が剣先へ収束し、まばゆく閃いた。


「――倒れろぉぉっ!」


 気迫の叫びとともに剣を振り抜く。

 轟音と共に縞影の首筋が裂け、巨体が地響きを立てて崩れ落ちた。


 残響の中、リアナは肩で息をしながら剣を下ろす。


「……ふぅ。これで、終わりね」


 そう言いながら自分の手を見つめた。


(……私、本当に強くなってる)


「よくやったな、リアナよ」


 セイが満足げに頷くと、ミミとエリシアが駆け寄ってくる。


「……すごい、リアナちゃん」


 瞳を輝かせたミミが感極まったように声を漏らす。


「はい。自分でも信じられないくらいです」


 リアナは疲労で頬を紅潮させながらも、誇らしげに答えた。


「これがリアナさんの覚醒した力……以前とは見違えるようでした」


 エリシアが柔らかく言いながら、掌からほのかな光を広げ、傷や疲労を癒す。


 一方、ミミはリアナの腕にぎゅっと抱きつく。


「リアナちゃん、ケガはない?」


「ええ、大丈夫。……今回は、敵の動きが全部見えてて」


 自分でも不思議そうに呟くリアナ。ミミはさらに抱きしめる力を強めた。


「でも、無茶はだめだからね!」


「わかってますよ……って、ちょっと、汗だくのところに抱きつかないで!」


 リアナが慌てて顔を赤くする。


「べつに気にしないよ?」


 ミミは悪びれることなく笑顔を見せた。


「いや、私が気にするんです!」


 リアナは必死に突っぱねるが、寄せられた温もりは心地よく、口元がほころびそうになるのを隠す。


「しかし……縞影か」


 セイが真顔に戻り、低く呟く。


「今回の依頼はCランクじゃったが、こやつは別格じゃったな。リアナが覚醒しておらねば危なかったかもしれん」


「はい。魔物そのものが強くなっているように思えます。やはり……魔王復活が近いことと関係があるのでしょうか」


 エリシアの声音に、わずかな緊張がにじむ。


「じゃろうな。ならば最後の《賢者のカケラ》も、早く集めねばならんのう」


 セイの言葉に、エリシアの胸がどきりと跳ねた。


 ――やがて朝日がさらに昇り、草原を黄金に染め上げる。

 戦いの痕跡を照らす光は、勝利を讃える証のようだった。


「じゃあ……帰ろっか。荷馬車、ちゃんと無事だといいなぁ」


 ミミがふいに漏らす。


 その瞬間、一同は顔を見合わせた。


「……!」


 セイが青ざめた顔で駆け出す。


「い、いかん! あやつらの狙いは荷馬車じゃった!」


「ちょっ、セイさん!?」


 慌てて後を追う仲間たちの声が、黄金色の草原に響き渡った。


 荷馬車に戻り、状況を確認したセイは大きく息を吐く。


「……ふぅっ。危うく弁償するとこじゃったわい」


 どうやら群れの一部が襲いかかったようだが、馬が後ろ足で蹴り飛ばして撃退したらしい。


「荷馬車、壊れてない……! よかったぁ!」


 ミミが笑顔で駆け寄る。


「ええ、馬も怪我はなさそうです。……本当に賢い子ですね」


 エリシアが首筋を撫でると、馬は安心したように鼻を鳴らした。


「まったく……命がけの依頼より心臓に悪いわい」


 セイが苦笑しながら腰に手を当てる。


 そして仲間たちへ振り返り、力強く言った。


「よし、それじゃあ荷馬車を返して、朝ごはんを食べたらルキア村に帰るとしよう!」


「やったぁ! じゃあ朝ごはんはパンとスープと……デザートもいいよね?」


 ミミが両手を広げ、満面の笑みを浮かべる。


「もちろんじゃ」


 セイが満足げに頷くと、仲間たちは顔を見合わせ、思わず笑みをこぼした。


 草原を渡る朝日が、荷馬車と、戦いを終えた仲間たちをやさしく照らしていた。



────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】34(+2)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:かなり高(成長した自分をセイにたくさん褒めてもらいたい)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人風の白いワンピースを装備。しっかり睡眠をとり、特訓の疲れは解消済み

 - 補足:エリシアの指導で想像以上に魔法が上達していたことに内心びっくり。自分の力に自信を持ち始める


 ・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:好き(セイとエリシアが酒場に行ったことが気になって仕方ない)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:黒を基調とした剣士風ドレスを装備。セイとエリシアのことが気になりすぎて、少し寝不足気味

 - 補足:ずっと実感はなかったらしいが、実戦を経て覚醒の力をようやく自覚


 ・エリシア(元聖女様/24歳)

 - 好感度:かなり高(何気にまずはセイを回復していく)

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。お酒のチカラでリラックス済み

 - 補足:セイが口にした最後の《賢者のカケラ》探索が近づいていることに緊張を覚えている


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

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