第46話 北の街道
一度家へ戻って準備を整えた一行は、北の街道を歩き出した。
陽射しを浴びた草原がどこまでも続く。軽い荷物を背負っての旅路は、思っていた以上に快適だった。
「ねえセイ、セイが“お金使ってスローライフ”してた間、わたしエリシアちゃんと魔法の特訓してたんだよ!」
ミミが胸を張る。
「おい、“お金を使って”は余計じゃろう」
セイがむっと眉を寄せると、隣のエリシアがくすっと笑った。
「ふふ……でも本当です。ミミさん、とても筋がいいんです。今まで、きちんと魔法を教えてくれる人がいなかったんですね」
「うぬぅ……ミミと出会った頃から、ずっとワシが教えておったはずじゃがの」
セイがじろりと抗議の視線を送ると、エリシアは慌てて両手を振った。
「えっ、あっ……そ、そうでしたね! と、とにかく……いい天気ですね!」
あまりに強引な話題転換に、一行は思わず吹き出した。
「まあええ。そういえば、リアナ」
セイが歩きながらふと振り返る。
「えっ? な、なに?」
「おぬしが覚醒してから初めての依頼じゃな。どれほど強くなったか楽しみじゃわい」
「そ、そんなに期待しないでよね! 正直、まだ実感なんてほとんどないんだから」
そう言いながらも、リアナの表情はどこか嬉しそうだった。
和やかなやり取りを続けるうち、道の周囲には背の高い草や茂みが増え、獣が潜んでいそうな影が目につくようになってきた。どうやら目的の場所に近づいてきたらしい。
「……獣の気配。一つ、二つ……そこそこ潜んでおるな」
セイが目を細める。
「ですが……噂にあった大型個体は感じられませんね」
エリシアの声は落ち着いていたが、眉をわずかにひそめていた。
周囲を警戒しながら調べていくと、やがて巣と思しき気配の集まりを見つける。だが、そのころには日も傾きはじめていた。
「今日はここまでじゃ。討伐は明日にして、《フェルトン》で休むとしよう」
「そうね。地図だと、この丘を越えた先よ」
リアナが指差す。
しばらく進むと、街道は石畳へと変わり、荷馬車や人通りが一気に増えていった。
遠くには白壁に囲まれた倉庫群と、大きな市場の屋根が並んでいる。商人たちの声や鐘楼の音色が風に乗り、街の活気がこちらまで伝わってきた。
日没前にフェルトンへ到着した一行は、まず宿を確保する。
「わぁ……すごい賑やか!」
ミミが部屋の窓から身を乗り出し、通りを見下ろす。露店には灯りがともり、呼び込みの声が夜の始まりを告げていた。
荷を下ろして身支度を整えると、一行は夕食を求めて外へ出た。
香ばしい匂いに誘われて足を止めたのは、活気にあふれる食堂だった。
料理を待つあいだ、エリシアがそっとセイの袖を引く。
「……あの、さっき宿の人に聞いたんですけど。この街には、冒険者や商人に人気のバーがあるそうなんです」
「ほう……酒の席なら情報も集まるかもしれんな」
セイは頷き、軽く笑った。
「あとで覗いてみるとするか」
その会話に、斜め向かいのリアナが気づかないはずがない。小さく眉をひそめ、口元をむっと引き結ぶ。
「……ふぅん。二人だけで行っちゃうんだ?」
「り、リアナもどうじゃ?」
聞いていたのかとばかりに、セイが慌てて取り繕う。
「何言ってんの? 私、まだお酒飲めないわよ」
リアナは呆れたように肩をすくめた。
すると背後から、ミミが勢いよく抱きついてくる。
「リアナちゃーん、ひとりにしないでー!」
「大丈夫ですよ、ミミさん」
リアナは苦笑しながら頭を撫でた。
「私はセイと違って、ミミさんを一人にはしませんから」
「……なんか、すごく既視感あるぞ」
セイがぼやく。
リアナはミミの頭を撫でながら、むっと唇を尖らせてそっぽを向いた。
「ほんと……私だって大人になったら連れてってよね」
拗ねるリアナと、うっとりと目を細めるミミ。
対照的な二人の姿に、セイは思わず肩をすくめた。
やがて食事を終えると、セイとエリシアは軽く身支度を整え、夜の通りへと出る。
「さて……その噂のバーとやら、確かめてみるとするか」
「はい。よい情報が得られるといいのですが」
二人は並んで歩き、灯りが揺れるフェルトンの繁華街へ向かった。通りは笑い声と歌声であふれ、熱気が路地にまで漂っている。
やがて酒場に入ると、冒険者風の一団が卓を囲んで盛り上がっていた。セイは空いていた席に腰を下ろし、カウンターへ軽く合図する。
「マスター、こちらの方々に一杯頼む」
突然の申し出に、男たちは訝しげに目を細めた。
だが、隣に腰掛けたエリシアがそっと微笑む。
「少し……教えていただきたいことがあるんです」
落ち着いた雰囲気と柔らかな声に、男たちの態度はすぐに和らいだ。
「おう、姉ちゃん。何でも聞いてくれ!」
「へへっ、きれいな人に頼まれちゃ断れねぇな」
「ありがとうございます」
エリシアが軽く会釈すると、隣でセイが本題を切り出す。
「おぬしら、北の街道に出る《ダスクハウンド》を見たことがあるか?」
男の一人がジョッキを傾け、声を潜めた。
「……ああ、あるぜ。やつらは朝方か夕暮れによく現れる。特に群れを仕切るボスみてぇなでかい奴は、朝方に出ることが多いな」
「ボス、ですか?」
エリシアが問い返すと、男は腕を広げて大きさを示す。
「見りゃ一発でわかる。他のより二回りはでけぇ。毛並みは灰色で、背に縞模様が走ってる。だから“縞影”なんて呼ぶ奴もいる」
隣の仲間が口を挟んだ。
「しかも大抵は群れで動く。十体前後ってとこだな。狩りみてぇに連携して襲ってくるらしい。陽動して、横から噛みついてくるんだとよ」
「やつらの狙いは人か?」
セイが低く問うと、男は苦笑して首を振る。
「いや、むしろ荷馬車だ。特に食料や物資を積んでると血眼になって追ってくる。先週も商隊がやられたばかりでな。護衛が半分以上やられて、荷も根こそぎ持ってかれたって話だ」
冒険者たちの表情が、わずかに曇った。
「なるほど……」
セイは顎に手を当て、満足げに頷く。
「助かった、礼を言う」
エリシアも静かに微笑み、頭を下げた。
「教えてくださって、ありがとうございます」
「へへっ、礼なんていらねぇさ。美人に頼まれりゃ、いくらでも話すさ!」
男たちはすっかり上機嫌になり、再びジョッキをあおる。
セイとエリシアは顔を見合わせ、小さく頷き合った。
「……十分な手掛かりは得られたな」
「はい。これで備えも整えられますね」
二人は静かに席を立ち、賑やかな喧騒の残る酒場をあとにした。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】32
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。休暇中の特訓疲れが少し残っている
- 補足:魔法の特訓の成果を早くみんなに見せたくて、内心うずうずしている
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き(セイとふたりの時間を作れるエリシアが羨ましい)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:黒を基調とした剣士風ドレスを装備。体調は万全
- 補足:「大人」として扱われたい盛りで、置いていかれた寂しさをミミの可愛さで癒す
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高(調査を大義名分に二人でバーにしっぽりしたい)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。体調は万全
- 補足:荒くれ者たちから情報を引き出す「交渉役」の才能に自分でも驚いている
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