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第44話 カレンの一日

 朝――ルキア村の空が白みはじめたころ。


 カレンはギルドの扉に手をかけ、がちゃりと鍵を外した。

 乾いた音とともに扉が開き、ひんやりとした空気がカウンターを撫でる。


 掲示板の依頼札を整え、入金帳をチェックし、昨夜届いた報告書にざっと目を通す。

 紛失物の届け出、装備修理の問い合わせ、村人同士の小さな揉め事の仲裁――


(ほんと、受付嬢の仕事は“笑顔と書類の山”でできてる……だよね)


 かつて誰かが口にした冗談を思い出し、カレンは小さく笑った。


 昼前には初級討伐隊が出発し、昼過ぎには薬草採取の一団が戻ってくる。

 処理印を押しながら聞き取りをしていると――耳に残る報告もあった。


「北の道、獣の足跡がやけに多かった」

「丘陵の方で、群れがまとまって動いてるような気がする」


 ただの思い過ごしであればいい。

 そう願いながら、カレンは注意メモにそっと線を引いた。


 やがて夕刻。人の出入りが落ち着き、窓から差し込む光は柔らかな橙色に変わる。

 書類箱を整え、ふぅとひと息ついたそのとき――カラン、とドアベルが鳴った。


 見慣れた一行が、扉をくぐって入ってくる。


「今回も大変な依頼、お疲れさまでした」


 カレンは微笑みながら迎え、依頼書に大きく「達成」の印を押す。


「遺物については、前回同様、調査部隊を派遣しますので、セイさんたちの依頼はこれでばっちりです」


「無事に帰ってこられて、本当によかったね!」


 ミミが胸に手を当て、ぱっと顔を明るくする。


「はい……でも、まあ、今回ばかりは少し疲れました」


 リアナは安堵と疲労の混じった声で肩を落とした。


「ここしばらく立て続けでしたし、少し休養を取ってもいいかもしれませんね」


 エリシアの落ち着いた言葉に、カレンも頷く。


「ええ。無理をして怪我をしたら本末転倒ですから」


 仲間たちは顔を見合わせ、自然に笑みがこぼれる。


「じゃあ、久しぶりのスローライフだね!」


 ミミが両手を勢いよく広げる。


「はい! 家でゆっくりしましょ。ずっと留守だったし、モフルもさみしがっているはずですよ」


 リアナは柔らかく微笑んだ。


「ふむ、それもそうじゃな。今度こそ“スローライフ”なるものを、しっかり理解せねば」


 セイは大げさに顎をさすり、うんうんとうなずく。


「では――それに備えて、まずは買い出しに行きましょうか」


 エリシアが提案すると、ミミはすかさず指を突きつけた。


「お酒はダメだよ、エリシアちゃん!」


「えっ! わ、私……そんな顔してました?」


 慌てるエリシアに、ミミはにっこりと言い放つ。


「うん。頭の上にね、ぽわぽわってお酒マークが浮かんでて、しかもよだれまで垂れてた!」


「そ、そんな……うそですよね!?」


 必死に口元を拭うエリシアに、三人の笑い声がどっと広がった。


 カレンはその様子を、カウンターの向こうから静かに見守る。


 冒険者たちが無事に帰ってきて、笑顔で「達成しました」と告げる――

 その瞬間こそが、この仕事を続けてきてよかったと思える瞬間だ。


(……やっぱり、この景色が一番好き)


 積み重なる書類も、慌ただしい手続きも、すべてはこの笑顔のためにある。


 セイたちが楽しげにギルドを出ていく背中を見送り、カレンは深く息を吐いた。


「はぁ……おひさま団の皆さん、ほんとすごいなぁ」


 処理を終えた書類を棚に戻し、机の上を片づける。

 ふと、さきほどのやり取りが脳裏をよぎった。


「……スローライフ、かぁ」


 小さくつぶやき、思わず苦笑がこぼれる。

 村に戻ったばかりなのに、またすぐに依頼を受けて危険に身を置く――それが冒険者だ。

 それでも“スローライフ”なんて言葉を信じて笑い合える彼らを、カレンはどこか羨ましく感じていた。


 片づけを終え、帳簿を閉じたそのとき――入口から重い足音が響く。


 がっしりとした体格に、色褪せたスカーフを何本も腕に巻き、顔には獣の爪痕のような三本の古傷。

 ギルド内でも知らぬ者はいない、Bランク冒険者のドルクだった。


「おう、カレン。もう閉めるとこか?」


「はい、そろそろです。……でも、ドルクさんなら特別です」


 彼女が笑みを返すと、ドルクは豪快に笑った。


「気を遣わせたな。用件は依頼達成の報告だったんだが……“おひさま団”、最近どうなんだ? さっき入口でちょっとすれ違ったが、とてもじゃないが前回見たときのレベル2の新顔には思えなかったぞ」


「ドルクさん、“キラキラ☆おひさま団”ですよ。ちゃんと言わないとミミさんに怒られます」


 くすりと笑いながらたしなめると、ドルクは肩を揺らして笑った。


「はは、すまんな」


「そうですね。ドルクさんも長く遠征されてましたし、ご存じないですよね。

 おひさま団のみなさんは、この前Dランクに正式昇格しました。

 でも実際はCランク依頼どころか、つい先日はBランク相当の依頼もきっちりこなしていただいて……

 今、本ギルドで一番注目されている急上昇パーティなんですよ」


「ほぅ……珍しいな。お前がそんなふうに褒めちぎるなんて」


 片眉を上げるドルクに、カレンは即座に答えた。


「だって、本当のことですから」


 その真っ直ぐな言葉に、ドルクはしばし顎をさすり、やがてニヤリと笑った。


「……なるほど。面白そうな連中だな。今度、一緒に酒でも飲んでみたいもんだ」


「ふふ、きっと賑やかになりますよ」


 そう返すカレンの声には、どこか誇らしさがにじんでいた。


 ◇


 やがてギルドを閉め終えたカレンは、腰の小袋に鍵をしまい、大きく伸びをする。


「ふぅー……やっと終わったぁ。お腹すいた……」


 夜風がひんやり頬を撫で、商店街にはまだ灯りが点々と残っている。

 自然と足取りは遅くなり、まず立ち止まったのはパン屋だった。


 窓から漂う香ばしい匂いに思わずショーケースを覗き込む。


「……誘惑が強い……!」

 

 ぐうぅぅぅとお腹が盛大に鳴り、慌てて両腕で押さえる。


「き、聞こえてないよね!?」


 耳まで赤くなり、小走りでその場を離れた。


 ◇


 次に立ち寄ったのは酒屋。

 棚に並ぶ瓶がランプの光を受け、琥珀色にきらめく。


「んんん……今日は控えめにしようって決めたのに……一本くらいなら……」


 しばらく葛藤した末、結局小瓶をひとつだけ手にして満足そうに抱える。


「ほら、控えめにできた! ……たぶん」


 ◇


 さらに進むと、雑貨屋の軒先に吊るされた小物が目に入った。

 猫の刺繍入りのポーチや、花柄の布地が風に揺れている。


「……かわいい……!」


 目を輝かせ、ポーチをそっと手に取り、頬にすりすりする。


「この子を連れて帰ったら絶対癒される……でも……」


 財布の重みを思い出し、名残惜しそうに棚に戻す。


「……お給料日まで我慢。我慢……!」


 そうして寄り道を繰り返していると、通りの向こうから仲睦まじい二人組が歩いてきた。

 両手いっぱいに野菜の袋を抱えるミミと、きっちり包みを胸に抱えたエリシアだ。


「カレンさーん!」


 ミミがぱっと笑顔を見せて駆け寄ってくる。


「お仕事、お疲れさまです。今ちょうど夕食の買い出しを終えたところなんです」


 エリシアがにこやかに会釈した。


 カレンは慌てて酒の小瓶を背中に隠し、照れくさそうに笑う。


「え、ええ……お疲れさまです」


「カレンさん、ごはんもう食べた?」


 ミミが首を傾げる。


「いえ、ちょっと寄り道していたら、食べそこなってしまって」


「じゃあさ、カレンさんも一緒にごはん食べよ! ね、エリシアちゃん!」


「……はい。もしお時間があるなら、ぜひ」


 顔を輝かせるミミに、エリシアも柔らかく頷く。


 突然の誘いに一瞬ためらったが、その時――ぐぅ、と無情な音が鳴り響いた。


「……っ!」


 慌ててお腹を押さえ、耳まで赤くなるカレンに、ミミがいたずらっぽく笑う。


「もう準備ばっちりだね、カレンさん!」


 エリシアも口元に手を添えて、穏やかに笑った。


 観念したカレンは肩をすくめる。


「……じゃあ、お言葉に甘えます」


 三人は肩を並べて歩き出す。

 袋の中でパンや野菜がころんと揺れ、そのたびに笑い声が茜色の空へ溶けていった。


 村の中心から外れへ進むにつれ、家々の灯りはまばらになり、道の両脇には畑や草原が広がり始める。

 夕暮れの風が心地よく吹き抜け、橙に染まる景色はどこか懐かしく、心をほっとさせた。


「この先に……セイさんたちのお家があるんですか?」


 カレンが袋を抱え直しながら尋ねる。


「うん! ほら、あそこ!」


 ミミが胸を張って指さした。


「ちょっと古いけどね、みんなで頑張ってリフォームしたんだ!」


 歩いていくうちに、遠くに見えていた石造りの家が目の前に近づいてくる。

 改装されたその家は夕陽を受け、窓が柔らかく輝いていた。

 周囲には小さな畑と木柵が広がり、どこか懐かしく温かな空気が漂っている。


「……素敵。村の賑やかさから少し離れてるのに、光がこんなにやさしいなんて」


 カレンが感嘆の声をもらす。


 石段を上がり、木の扉の前でミミが声を張り上げた。


「ただいまー!」


 勢いよく扉を押し開け、満面の笑みを浮かべる。


「今日はね、スペシャルゲストを連れてきましたー!」


 そう言って後ろから手を引き出したのは――少し気恥ずかしそうに立つカレンだった。


「お、おじゃまします」


「おう、カレンか! ギルド以外で会うのは初めてじゃな?」


 セイが豪快に笑いながら迎える。


「……こ、こんばんは。突然すみません」


 カレンはぺこりと頭を下げ、頬を赤らめて微笑んだ。


 その姿にリアナの瞳がぱっと輝く。


「カレンさん……普段着は、すっごくかわいいんですね!」


「えっ……! そ、そんな……ギルドの制服より地味ですよ?」


 慌てて両手を振るカレン。その仕草がかえって愛らしく、自然と皆の頬に笑みが浮かんだ。


 その時――奥の影から、丸い瞳がじっとこちらを見つめていた。


 ふわふわの毛並みに、ちょこんとした耳。

 まるでぬいぐるみのような姿――モフルだ。


「あ、紹介するね!」


 ミミが勢いよく指を差す。


「あの子はモフル! 魔獣の幽霊なんだけど、見た目はほとんどぬいぐるみ! でも家のことはぜーんぶやってくれる、超やり手なんだよ!」


「……幽霊、なんですか?(かわいい)」


 カレンは思わず首を傾げた。


「そうなの。だからエリシアちゃんとは相性が良くなくて……」


 ミミが小声で耳打ちすると、横のエリシアは苦笑で「……否定はしません」と答える。


 リアナが補足するように言った。


「でも最近は少しずつ打ち解けてきたようにも見えますよ。多分」


 その時、台所から香ばしい匂いがふわりと漂ってくる。


「……いい匂い」


 カレンがつぶやくと、モフルが姿を現した。


 小さな手に木のお玉を抱え、背筋をぴんと伸ばし――まるで「準備完了!」と宣言するかのように胸を張っていた。


 すぐにテーブルには温かな料理が並ぶ。

 彩りも香りも豊かで、見ているだけでお腹が鳴りそうだった。


「……これ、全部モフルさんが?」


 カレンが目を丸くすると、モフルはちょこんと頷き、木のお玉を胸の前で掲げる。


「はい。初めてのお客様ですので、張り切りました」


(しゃ、しゃべった……!?)


「わぁ! 今日も美味しそうだね、モフル!」


 ミミが嬉しそうに声を弾ませる。


「ありがとうございます。皆さまのお言葉こそ、わたくしの喜びです」


「本当にいつも感謝しています」


 エリシアが穏やかに微笑むと、モフルはぴゅーっと奥に隠れ、半分だけ顔をのぞかせる。

 ただ、そっと差し出された小さな手は……親指を立てているようにも見えた。


 湯気の立つ皿が次々と空になり、笑い声と食器の触れ合う音が心地よく重なる。


 しばらく賑やかに食事が進んだあと、カレンがスプーンを置き、小首を傾げた。


「セイさんたちって、どういう経緯でパーティを組まれたんですか?」


「うーん……そうじゃな」


 セイは短く息をつき、ミミへ視線を向ける。


「始まりは――盗賊にさらわれ、奴隷として売られそうになっていたミミを、ワシが助けたところからじゃ。ミミはそれ以前の記憶をなくしておっての」


「えっ……ミミさん、奴隷だったんですか?」


 リアナが手を止め、目を見開く。


「うん。セイに助けてもらってなかったら、今もそうだったかも」


 ミミは照れ笑いを浮かべ、パンをちぎってシチューに浸した。

 その笑顔は明るいのに、どこか胸の奥をきゅっと締めつける。


「それからすぐ、このルキア村のギルドに来て、あとはカレンも知っておる通りじゃ」


 セイは指を折って数えていく。


「森で魔獣に襲われとったリアナを助け、仲間になり――」


「助けられたのは一度だけじゃないけどね」


 リアナが照れくさそうにツッコむ。


「それから泉で呪いに惑わされていたエリシアを救い、これまた仲間になった」


「……今思い返すと、本当に不思議な縁ですよね」


 エリシアがそっと微笑み、カレンも思わず頷いた。


「書類で見る“達成報告”より、ずっと……大変な冒険だったんですね。皆さんがこうして笑って座っていることが、どれだけ大切で特別なのか分かります」


 言い終えると、カレンはグラスをそっと掲げる。


「そんな出会いと今日のごはんに――乾杯、してもいいですか?」


 ミミがぱっと笑顔を咲かせ、リアナもグラスを手に取る。

 エリシアは小さく微笑み、セイがうんうんとうなずいた。


 台所でモフルが一呼吸置き、トレイを持ち直してパン籠をテーブル中央へ滑らせる。

 その仕草に、皆の表情が自然と柔らいだ。


「出会いと、ごはんに――乾杯!」



────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】32

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:かなり高(今の自分があるのはセイのおかげだと改めて認識)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人風の白いワンピースを装備。光の洞窟からの帰路も結構長旅でしっかり疲れた

 - 補足:久しぶりにスローライフ気分を味わえると大はしゃぎ。なぜかカレンだけ「さん」付けで呼んでいるのは謎


 ・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:好き(今まで助けられてきたことは全部覚えている)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:黒を基調とした剣士風ドレスを装備。光の洞窟からの帰路も結構長旅で少し疲れた

 - 補足:「スローライフ」と言いつつ、それが何か分かっておらず少し悩んでいる……ようでいて、案外気にしていない


 ・エリシア(元聖女様/24歳)

 - 好感度:かなり高(不思議な縁を大切にしている)

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。光の洞窟からの帰路も結構長旅でしっかり疲れた

 - 補足:おっとりした表情の裏から酒好きの本性がちらほら顔を出し始めている


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

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