第43話 光の精霊
ルキア村から西方――光の洞窟前。
朝日が差し込み、森を抜けた風が草を揺らす。
鳥のさえずりが遠くに響き、野営地はやわらかな光に包まれていた。
リアナは大きく伸びをすると、勢いよくテントから飛び出した。
「ふーっ、よく寝た! 空気が気持ちいいわね!」
その声に、寝ぼけ眼のミミがゆっくりと顔を上げる。
「……リアナちゃん、朝から元気いっぱいだね」
セイとエリシアは顔を見合わせ、ほっとしたように微笑んだ。
昨日の震えはもうない。その笑顔を見て、二人はようやく肩の力を抜く。
支度を整え終えると、セイが声をかけた。
「さて、では行くとするかのう」
一行は再び洞窟へ向かった。
朝の光が入口を照らしても、奥はやはり闇が濃く、冷気と湿気が肌を撫でる。
「昨日の続きじゃな。気を引き締めていくぞ」
セイの言葉に、皆が頷いた。
やがて岩壁が途切れ、小さな祠が姿を現した。
苔に覆われた祭壇は、長い時を経ても崩れていない。淡い光が静かに周囲を縁取っていた。
四人は互いに視線を交わし、慎重に足を踏み入れた。
祠の内部はしんと静まり返り、聞こえるのは滴る水音と自分たちの足音だけ。
幸い、昨日遭遇したクリスタルウルフ以外に、「守護者」の姿はなかった。
「うわぁ……しん、としてるね」
ミミがきょろきょろと辺りを見回し、小声でつぶやく。
「……まあ、魔物がいないなら助かりますけれど」
エリシアは胸に手を当て、ほっと息を吐いた。
「でもさ、昔話だと……こういう静けさのあとに必ず何かが起きるんだよね」
リアナが小声でぼそり。
「うぉい、そんなフラグを立てるでない!」
即座のツッコミに、三人の肩が小さく震えた。
気を取り直し、一行は手分けして祠を調べ始める。
苔を払い、石を動かし、隙間を覗き込むが、それらしいものはなかなか見つからない。
「うーん……あっ!」
ミミが祭壇の隅を覗き込み、小さな隙間に手を差し入れた。
「これ……剣じゃない!?」
迷いなく手を伸ばすミミに、セイが慌てて声を上げた。
「こら! 勝手に触るでない!」
しかし時すでに遅し。
「えへへ……もう触っちゃった」
ミミは苔まみれの剣を両手で掲げ、得意げに笑う。
「ねえ、これが……賢者のカケラかな?」
瞳を輝かせるミミに、セイは腕を組んだ。
「うむ。この前は本の形をしておったし、剣の形でも不思議はない。……じゃが、本当に触って大丈夫なんか?」
「うん、へいき! ほらっ」
ミミはにこにこと笑いながら、そのままセイに剣を差し出す。
「お、おお……確かに、変な気配もせんし……」
恐る恐る剣を受け取ったセイは眉をひそめ、重みを確かめるように握り直す。
古びた刀身は不思議な存在感を放っていた。
それに目を奪われたリアナが、思わず一歩踏み出す。
「ちょっと、私にも見せてよ」
「はは……やっぱり剣と聞いたら黙っておれんようじゃのう」
苦笑しながらセイが差し出す。
――その刀身に、リアナの指先が触れた瞬間。
バチン、と空気が弾け、祠全体を裂くような閃光が走る。
「きゃっ――!?」
リアナの身体が光に包まれ、そのまま力を失ったように崩れ落ちた。
「リアナ!」
「だいじょうぶ!? リアナちゃんっ!」
セイはとっさにリアナを抱き留め、ミミが慌ててそばに駆け寄る。
エリシアも息を呑み、心配そうに揺らめく光を見つめていた。
光はなおも強まり、祠の壁に反射しながら内部を白く染めていく。
だが次の瞬間――嘘のように静まり返った。
残ったのは、耳鳴りのような余韻だけ。
やがて、リアナがゆっくりと瞼を開く。
「……ここは……? あれ、私……?」
ぼんやりとした声。しかし意識ははっきりしている。
「大丈夫か?」
覗き込むセイに、リアナは小さく瞬きを返した。
「ええ……ちょっと眩しかっただけよ。心配するほどじゃないわ」
張りつめていた空気が緩む。
ミミが大きく息を吐き、頬をふくらませた。
「もう〜、心配させすぎだよ〜……」
セイも安堵の息をつき、一歩踏み出す。
――その瞬間、《精霊感応》が彼の意思とは無関係に発動した。
リアナの胸元から淡い光がにじみ出る。
それは身体に沿ってゆるやかに立ちのぼり、やがて頭上へと集まっていく。
散った粒子が寄り集まり、ひとつの輪郭を形作った。
小さな少女とも、勇ましい戦士とも見える光の姿。
「大精霊? やはり賢者のカケラで間違いなかったか」
光の存在は、やわらかな声で名乗る。
「……こ、こんにちは。ボクは“三精霊”のひとり、光の精霊です」
「光の大精霊様……なんだかリアナちゃんに似てるね」
「えへ……そう見えますか?
ボクたちはヤドリギから力を分けてもらって存在してるから、自然と似ちゃうんですね。
君に宿っている精霊も……きっと同じじゃないかな」
リアナがはっと目を瞬かせる。
「……なるほど。だから大地の大精霊様、ミミさんに似てあんなに可愛かったんですね!」
はしゃぐリアナを横目に、セイは表情を引き締める。
「で、おぬしがリアナに宿ったということは……つまり、ミミのときと同じく、リアナが賢者のカケラになった、ということか?」
「うーん……まあ、大体はそういうことになりますね」
光の精霊は曖昧に笑い、視線をそらす。
「それと、そっちの精霊からも聞いていると思うんですけど……このところ、封印が少しずつ揺らいでいるんです。
だから……賢者の石で、もう一度しっかり組み直さなきゃいけなくて」
「ふむ。カケラも残りひとつじゃな。やるしかなかろう」
「はい……勇者セイ。だから、またあなたの力を貸してもらいたいんです」
「……なぜワシの名を知っておる?」
「――あっ」
精霊は慌てて口元を押さえ、ぱちぱちと瞬いた。
「ご、ごめんなさい……もう、姿を保っていられなくて。また近いうちに、お会いできると思います」
そう言って小さく一回転すると、光の粒となってふわりと空気に溶けていった。
「なんじゃ、あやつは……。まあ、確かにリアナに似て可愛らしかったがの」
セイが肩をすくめると、隣でリアナが真っ赤になってうつむく。
エリシアがそっと口を開いた。
「……光の精霊様も、セイさんのことをご存じのようでしたね。以前の、あの魔族の方と同じように」
「ダルセナか……」
セイは一瞬だけ表情を引き締めるが、すぐに首を振る。
「まあ考えても仕方あるまい。次に会うときにでも、大精霊に聞いてみるとしよう」
「ところでリアナちゃん!」
ミミがぱっと目を輝かせ、勢いよく身を乗り出す。
「なんか魔法、使えるようになったんじゃない? ね、ね!」
「うーん……なんというか、体の奥でざわざわしてる感じがします」
胸に手を当てたリアナが、不思議そうに眉を寄せる。
セイは眉根を寄せ、前へ一歩進む。
「ふむ。ミミのときと同じじゃな。少しじっとしておれ、確かめてやろう」
そう言って手をかざし、《魔法適性鑑定》を発動する。
【対象:リアナ】
・属性傾向:雷/風(親和度:高)
・適性魔法:貫通/加速/麻痺
・覚醒状態:第二段階解放(潜在身体能力大幅強化)
「ねえ、どうだった? すごくなってる?」
期待に目を輝かせるリアナ。
「うむ。……分からん!」
セイがあっけらかんと言い放つ。
「えぇぇっ!?」
「リアナはもともと魔法が使えたからのう。細かい違いが分からんのじゃ。
……でも、魔法よりも身体能力の覚醒が大きい。ワシなんかより、よほど強くなっとるかもしれんぞ」
「すごいね、リアナちゃん!」
ミミがぱっと両手を合わせる。
「うーん……実感はないけど。ありがとう、ミミさん」
リアナは少し照れくさそうに笑った。
「これで残りはあとひとつですね。みなさん、頑張っていきましょう」
エリシアが穏やかに告げる。
「うむ。この流れじゃと――最後はエリシアになるんじゃろうな」
「えっ……わ、私ですか?」
不意に視線を向けられたエリシアは、小さく肩をすくめて髪先をいじる。
驚くエリシアをよそに、セイは「テンプレとはそういうものじゃ」と言わんばかりに、ひとり満足げにうんうんと頷いていた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】32
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。ひと晩寝て、それなりに体力回復
- 補足:無邪気さ全開。祠の剣を勝手に触るなど典型的な“フラグ行動”にためらいなし
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当ては破損。精神的な回復にはもう少し時間が必要
- 補足:ミミのキラキラした期待のまなざしに思わず“何か変わった”ように口走ってしまったが、実際は覚醒の自覚はない。
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。ひと晩飲んで寝て、結構体力回復
- 補足:テンプレ的には「次は自分の番」……?と、胸の奥では動揺を隠せていない。髪先をいじる仕草に不安が滲む
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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