第40話 光の洞窟へ
ノキア村ギルド――依頼掲示板前。
セイは掲示板から依頼書を一枚引き抜き、そのまま受付へ向かった。
カウンターの奥で帳簿を整理していたカレンが顔を上げ、差し出された紙に目を通す。
「……あれ? こんな依頼、出てましたっけ?」
首を傾げ、ちらりと掲示板へ視線を送る。
「距離を考えれば、ここの依頼にしては少し遠すぎるが……まあ、これをやりたいんでな」
セイが肩をすくめると、カレンは一瞬目を瞬かせ、それからにこりと笑った。
「かしこまりました。手続きしますので、少々お待ちくださいね」
横からミミがひょこっと顔を出し、目を輝かせる。
「ねぇねぇ、これって光の精霊さんの洞窟なんでしょ? 中、きっとキラキラしてるんだよね!」
「観光ではありませんよ、ミミさん」
エリシアが穏やかにたしなめる。
「でも……洞窟って聞くだけで、少しわくわくしますね」
そのやり取りにカレンは小さく笑い、受注印を押して依頼書を差し出した。
「では――お気をつけて行ってきてくださいね。キラキラ☆おひさま団のみなさん」
「うむ、行ってくるぞ」
一行は手を振り、ギルドを後にする。
外に出ると、昼下がりのやわらかな陽光が街路を照らしていた。
依頼書を見ながら、セイがぼそりとつぶやく。
「さすがに歩いて十日は骨が折れるな。往復で二十日……途中の休憩や天候も考えれば、ざっとひと月の大仕事じゃ」
「……でしたら、他の移動手段を考えたほうがよさそうですね」
エリシアが両手を胸の前で組む。
「馬車を雇うか、商隊に同行させてもらうか、ね」
リアナが現実的な案を出すと、ミミがぱっと顔を輝かせた。
「じゃあさ! 馬に乗っていこうよ! ほら、かっこいいし!」
「おぬし、馬に乗ったことは?」
「……ない!」
「では却下じゃな」
セイは小さく笑い、依頼書を軽く振る。
「馬車を仕立てたほうが早いじゃろう。体力も温存できるしの」
「いいわね。現地での行動に集中できるわ」
リアナが頷き、ミミも「わーい、馬車ー!」と飛び跳ねる。
「では決まりですね。明日の朝に出発できるよう、今日のうちに手配しておきましょう」
エリシアが穏やかにまとめる。
こうして一行の西の洞窟行きは、本格的に動き出した。
決まるやいなや、一行は街外れの馬車宿へ向かう。
石畳を抜けると、荷馬車と馬のいななきが響く広場が広がる。干し草と革の匂いが鼻をくすぐった。
「おや、珍しい顔だな。どこまで行くんだい?」
人懐っこい笑みを浮かべた御者の男が声をかけてくる。
「西の山岳地帯にある洞窟までじゃ」
セイが依頼書を見せると、男は眉を上げ、口笛を吹いた。
「そりゃ遠いな……だが馬は元気だ。明日の朝には出せるぞ」
「では、それで頼む」
セイは頷き、前金を手渡す。
最近の依頼で積み上げた報酬が、こういうときに役立つ。
手配を終えた一行は、買い出しを済ませて自宅へ戻る。
玄関を開けた瞬間、奥の影がわずかに揺れた。――モフルだ。
エリシアが来てからは顔を出さなかったが、今日は少しだけ勇気を出したらしい。
「……おかえりなさい」
壁の影から半分だけ顔を出し、ちらりとエリシアを見る。耳が落ち着きなくぴくりと動いた。
「ただいまじゃ、モフル。少し長旅になる。留守番を頼むぞ」
セイが声をかけると、モフルは一瞬迷い、それでもこくりと頷く。
「……おみやげ、買ってきてね!」
小さく笑い、ミミとエリシアを交互に見る。
「もちろん! 楽しみにしてて!」
ミミが満面の笑みで答えると、モフルは「うん」とだけ言って、また影の奥へ引っ込んだ。
「エリシアちゃん! モフル、今ちょっと顔出してくれたよね! ……緊張しすぎて執事キャラ忘れてたみたいだけど」
ミミが振り返って声を弾ませる。
「ええ、そうですね」
エリシアは穏やかに頷く。
「少しずつ慣れてきてくれているのかもしれません。……嬉しいですね」
その夜は簡単に夕食を済ませ、装備と荷物の最終確認を行う。
それぞれが部屋へ戻り、出発前の静かな時間が流れていった。
――しばらくして。
セイが明かりを落としかけたところで、扉が控えめに二度叩かれる。
「セイ、ちょっといい?」
「ん? リアナか、どうしたんじゃ」
「いや、ちゃんと準備できてるかなって思って」
「ああ、ばっちりじゃ。あとは明日に備えて寝るだけじゃな」
「そっか、そうだよね……じゃあ、おジャマしたわね」
「? 何か話があったのではないのか?」
「うん、まあでも大丈夫。昨日さ、大精霊様が私のこと言ってたの、ちょっと気になってただけ」
セイは一瞬だけ目を細め、それから肩をすくめて笑った。
「あやつも悪気があったわけではなかろう。それに何かあればワシがおる。気にするな」
リアナは小さく息を吐き、ふっと口元を緩めた。
「……うん」
頷いて部屋を後にする。
そうして夜は、静かに更けていった。
◇
翌朝。
澄んだ朝の空気に白い吐息が混じり、馬車宿の広場では出発の支度が整っていた。
荷を積み終えた馬車の前で、車引きの男が手綱を握りながら軽く手を振る。
「じゃあ、行くぜ。西方までは長旅だ、しっかり掴まってな!」
「うむ、頼むぞ」
セイが頷き、一行は車輪のきしむ音とともに馬車へ乗り込んだ。
木製の座席はひんやりとしていて、わずかに干し草の匂いが鼻をかすめる。
ミミは荷台から身を乗り出し、朝日に照らされる街路を名残惜しそうに見渡す。
「いってきまーす!」
高く伸びた声に、通りがかりの村人たちが笑顔で手を振り返す。
馬車はゆっくりと村を離れていった。
◇ ◇ ◇
最初の中継地――小さな宿場町 《ラシェ》。
石造りの井戸のまわりには水桶を抱えた人々が集まり、通りには焼きたてのパンの香りが漂っている。
屋台を見つけたミミが、ぱっと目を輝かせてセイの袖を引いた。
「ねぇねぇ、これ食べていい? ほら、チーズたっぷり!」
「……移動中に食べるのは構わんが、服に落とすでないぞ」
「だいじょーぶ! ……あっ」
言ったそばから、とろけたチーズがぽたりと服に落ち、ミミが慌てて押さえる。
「ほら、言わんこっちゃない」
リアナが布を取り出し、丁寧に拭き取ってやる。
「えへへ……ありがと、リアナちゃん」
「まったく……子どもじゃないんだから」
呆れた口調とは裏腹に、その手つきはやさしい。
セイは肩をすくめ、エリシアはくすりと笑った。
◇ ◇ ◇
二つ目の寄り道先――交易で賑わう町 《バルド》。
香辛料の匂いが鼻をくすぐり、金糸を織り込んだ布地や、見たことのない形の楽器が露店に並び、通りを鮮やかに彩っていた。
その中で、ふとセイの視線が止まる。
ある店先で、エリシアが店主から小瓶を受け取っていた。
「……エリシア、おぬし、それは酒ではないか」
「えっ……あ、はい。夜に少しだけ……と思いまして」
頬をわずかに染め、瓶を袋へしまう。
「まったく、生臭坊主め」
「なまぐさぼうず……? なにそれ?」
ミミがきょとんと首を傾げる。
「修行そっちのけで酒やら娯楽にうつつを抜かす坊主のことじゃ」
「へぇー……じゃあエリシアちゃんは、おさけ坊主だ!」
「ちょ、坊主じゃないし、うつつ抜かしてないよぅ」
慌てるエリシアに、周囲から小さな笑いがこぼれる。
セイは口元を緩め、そのまま歩き出した。
◇ ◇ ◇
夕暮れ前、一行は西方の山岳地帯へ続く街道沿い――洞窟の手前にある小さな村に宿を取った。
谷を渡る風は涼しく、遠くの切り立った岩壁が夕日に赤く染まっている。
食堂の片隅で翌日の予定を確認していると、不意にミミが椅子の上に立ち上がった。
「よーし! 明日はいよいよ洞窟だよね! ぜーんぶやっつけちゃうんだから!
シュッシュ! シュッシュ!」
両手で素早く空を切り、気合十分の顔。
「おぬし……洞窟は敵を倒す場所ではないぞ。調査が目的じゃ」
セイが呆れ半分に言うと、ミミは胸を張る。
「わかってるけど、気持ちの準備は大事なんだよ!」
「ほんと、ミミさんは見ているだけで元気をもらえますね」
リアナが目を細め、エリシアもくすりと笑う。
「とても頼もしいです。でも、危ないところは無理しないでくださいね」
「はーい!」
元気な返事とともに、再び空を切る音。
笑い声に包まれながら、洞窟を前にした最後の夜は静かに更けていった。
◇
翌朝、岩肌を削るように口を開けた洞窟の前に一行は立っていた。
昼なお薄暗く、奥からは冷えた岩の匂いと湿った空気が流れ出している。外の風とはまるで別物だった。
「昨日、町の人たちに聞き込みしたんだけど――」
リアナが腰に手を当て、洞窟を見上げる。
「この洞窟、昔は精霊様を祀ってたって話みたいね。……あなたの勇者パワー、ちょっと、やりすぎじゃない?」
「やりすぎじゃのう」
セイはわざとらしくため息をつき、口元をゆるめた。
「このご都合展開、ほんに恐ろしいわい」
「まあ、見つからないよりは全然いいよね!」
ミミが明るく笑って、洞窟の入り口へ駆け寄る。
「ええ、セイさんのお力あってこそです」
エリシアは穏やかに頷き、そっと続けた。
「……でも、油断は禁物ですよ。導きも、試練の一部かもしれませんから」
「遠路ではあったが、報酬は破格じゃ。みな、用心せいよ」
「「「はい!」」」
短い返事のあと、全員の視線が自然と暗い洞窟の奥へ向く。
「でも……ぜんぜんキラキラしてないね、この洞窟」
ミミが唇を尖らせて中を覗き込む。
「ふふ……奥に進めばきっとキラキラしてるはずですよ。私も楽しみです」
エリシアはおっとりと目を輝かせた。
リアナがふと洞窟の奥を見やる。
「そうだ、セイ。例の精霊を感じ取るスキルで、この洞窟ちょっと確認してみてよ」
「……あれは視えるようになるだけで、気配を探るような都合のええ力ではないのじゃがな」
「でも、試してみても損はないでしょ?」
にやりと笑うリアナに、セイは小さく肩をすくめる。
洞窟の正面へ進み出て、息を整え、両手をかざす。
「《精霊感応》」
指先から淡い光がにじみ出し、洞窟の入り口にかすかな揺らぎが走る。
奥の闇がわずかに照らされたが、反応はない。ほどなくして光は消えていった。
「……ふむ。やはり入り口では何も感じんのう」
「じゃあ、中に入って確かめるしかないね!」
ミミが笑い、一行は互いに頷き合う。
そうして一行は、暗く口を開けた洞窟の奥へと足を踏み入れていった――
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】30
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高(馬車ではしっかりとセイの横を確保)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。長距離の馬車にて少し酔い気味
- 補足:寄り道や会話の中で、リアナの保護者欲をいちいち掻き立てていく
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:かなり高(悩みや不安を自然と相談しようとしてしまう)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。精霊の言葉が気になって夜しか眠れない
- 補足:モフルとエリシアとの距離がほんの少しだけ縮まったことを、すごく嬉しく感じている
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高(ちゃんと?叱ってくれるのが嬉しい)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。長距離の馬車にて少し酔い気味
- 補足:お酒の買い出しがバレたが、何本も買っていたことまではまだバレていない
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
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もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!
しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。
それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、
ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。
それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




