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第39話 カケラ探しへ

「この緑の気配……果たしてどれほどのものか」


 森の奥。ひんやりとした空気の中を、一行は足音を抑えて進んでいた。

 依頼は、泉の近くに棲みついた魔獣の討伐だ。水辺に近づけなくなった森の生き物たちは行動範囲を変え始め、すでに生態系にも影響が出ているという。


 正体は不明。目撃情報では危険度はCランク相当。

 だがセイの《索敵》は、視界の端で淡く揺れる緑の気配を捉えていた。


「このスキルで拾える中では低め……じゃが、感知できる時点で只者ではないのう」


 湿った土を踏みしめて進むと、やがて木々の切れ間から泉が見えた。

 静まり返った水面が、不意に大きく波打つ。


 ――次の瞬間。


 水を割って、巨大な影が跳び出した。


 四足の獣に似た輪郭。翡翠色の鱗が鈍く光り、背から尾へ並ぶ棘が軋むような音を立てる。

 湿った体からは腐葉土のような匂いが漂い、長い口の奥には湾曲した牙が幾重にも並んでいた。黄色い眼が、ぎらりと一行を射抜く。


「……どう見ても、Cランクの面構えじゃないのう」


 セイの低い声に、剣を構えたリアナが即座に答えた。


「《モスリザード》……Bランクでも厄介よ。条件次第じゃAランク相当になるとも聞くわ」


 言い終わるより早く、魔獣が地を蹴る。

 巨体とは思えない速度で間合いを詰めてくる。


 セイは身をひねり、武器で衝撃を受け流した。だが腕に痺れが走り、足元がわずかに揺れた。


「くっ……確かに、ワシ一人では骨が折れる」


 すかさずリアナが横から斬り込むも、硬い鱗に刃が滑り、傷は浅い。

 後方ではエリシアが支援魔法で防御を削ぎ、ミミが回復の光を走らせた。


 息を合わせ、セイが魔力弾を撃ち込み、リアナが再突撃する。

 エリシアの祈りが魔獣の動きを鈍らせ、押し返す手応えがわずかに生まれる。


 だが、魔獣の眼光はなお鋭い。

 低く唸り、翡翠の鱗を逆立てながら巨体をひねる。


 次の瞬間、空気が爆ぜるような衝撃とともに、巨大な前脚が横薙ぎに振るわれた。


「――リアナちゃん!」


 ミミの結界が直撃を受け止める。

 だが衝撃を完全には殺しきれず、鎧と服が肩から胸元にかけて裂け、布が舞った。


「ぁあーー、この服……買ったばかりなのにっ!」


 悔しげに唇を噛みながらも、リアナは怯まず踏み込む。

 ミミが追加の結界を張り、淡い光がセイとリアナを包む。

 エリシアは途切れなく補助魔法を撃ち込み、防御を削り続けた。


 セイは剣を握り直し、《加速支援》を発動。

 風が耳元で唸り、身体が一気に軽くなる。


 死角へ回り込み、鱗の隙間を狙って斬撃を重ねる。浅くとも、左右からの連撃で体勢を崩す。

 さらに踏み込み、《威圧》を解き放った。


 わずかに、魔獣の足が地面を掴んだまま鈍る。


「――今じゃ、リアナ!」

「任せて!」


 二人の攻撃が同時に突き刺さる。

 巨体がぐらりと揺れ、苦悶の唸りを残して土煙とともに崩れ落ちた。水辺に再び静寂が戻る。


 荒い息をつくセイとリアナのもとへ、ミミが駆け寄る。

 だがその表情は心配というより、どこか気まずそうだった。


「リアナちゃん……その、胸元……見えちゃってる……」


「――っ!」


 一瞬きょとんとしたあと、リアナは慌てて胸元を押さえる。裂けた服の隙間から冷たい空気が入り込み、頬が一気に熱を帯びた。


 そのまま真っ赤な顔で、セイを睨みつける。


「セイ、あなた……見てないでしょうね?」


 不意に向けられた疑いに、セイは慌てて視線を逸らした。


「み、見ておらんぞ! 見てても……言えるわけなかろう!」


「完全に見てるね」


 ミミが即座に突っ込み、横のエリシアも静かに頷く。


「ええ、見てますね」


「ああぁーーっ!」


 羞恥と怒りの混じった声を上げ、リアナはその場に崩れ落ちた。

 両手で顔を覆い、足元の草をかきむしりながら、小さく身を縮めるその様子は、先ほどまで魔獣に立ち向かっていた時の勇ましさが嘘のようだった。


 ◇ ◇ ◇


 討伐を終えた一行は、その足でギルドへ向かった。

 受付で書類を整理していたカレンが顔を上げ、目を丸くする。


「お帰りなさい、セイさんたち」


 ほっとした笑みを浮かべ、カウンター越しに身を乗り出す。


「依頼は……無事に終わりましたか?」


 その視線が、ふとセイの頬で止まった。

 左右には、くっきりと赤い手形が残っている。


「……あの、それは一体?」


「いや……まあ、その……色々あってじゃな」


 視線を逸らすセイの背後で、ミミとエリシアが小さく肩を震わせる。

 リアナは頬を膨らませ、あからさまに顔を背けていた。


 セイは咳払いし、《モスリザード》討伐の経緯を説明する。

 翡翠色の硬い鱗、異常な膂力、そして依頼書の危険度を明らかに上回っていたこと――


 話を聞き終えたカレンは真剣な顔で頷いた。


「……やはり、出現する魔獣の危険度が上がっていますね。

 これは……魔王復活が近い兆しかもしれません」


 受付周辺の空気が張り詰める。

 だがカレンはすぐに表情を和らげた。


「いずれにせよ……ご無事で何よりです」


 カウンター越しに袋を差し出す。


「こちらが今回の報酬です。本当に、お疲れさまでした」


 一行は報酬を受け取り、ギルドを後にした。

 外は夕暮れ。橙色に染まる街路を、冷たい風が吹き抜ける。


「さあ、帰って休もう」


 セイの一言に、皆がほっとしたように笑みをこぼす。

 一行は肩を並べ、ゆるやかな足取りで家路へと向かった。


 家に戻ると、温かな匂いが玄関先まで満ちていた。

 ダイニングのテーブルには、湯気を立てるシチュー、焼きたてのパン、彩り豊かな野菜料理が整然と並んでいる。


「おお……相変わらず豪勢じゃのう」


 セイが感嘆の声を漏らすと、物陰の奥からモフルの小さく控えめな返事が届く。


「……最近は、いただいている報酬も良いので」


「でも……どうやって買い物してるんだろう?」


 ミミが首をかしげるが、その答えは返ってこない。


 やがて夕食が始まると、湯気と香草の香りが部屋を満たし、自然と会話も弾みだす。


「この野菜、すごく甘いね!」

「うむ、煮込み加減が絶妙じゃ」

「香草の香りもいいですね……」


 笑い声が重なるなか、モフルは柱の影からそっと顔を出していた。

 じっとエリシアを見つめ、耳をぴくりと動かしては、また影へ引っ込む。

 それでも視線だけは、外れない。


 皆が料理を平らげ、満ち足りた息をつく頃には、テーブルの上には空の皿と湯飲みだけが残っていた。


 そしてセイが席を立とうとした、その瞬間――《精霊感応》が意思とは無関係に発動する。


 次いでミミの身体から、淡い光がじわりとにじみ出た。

 光は肩口から頭上へとすべるように集まり、柔らかな粒子の帯となって宙へ舞い上がる。

 無数の輝きが寄り添い、小柄な人影を形作った。


「あっ……大地の大精霊様? ……やっぱり可愛い、ちっちゃいミミさん……」


 リアナが感嘆まじりに息をのむ。


「やあ、みんな久しぶり!」


 小さな精霊はくるりと一回転し、軽やかに手を振った。


「――あれ? 一人、見慣れない顔があるね」


 きらりと細めた瞳が、エリシアへ向く。


「……初めまして」


 エリシアは穏やかな微笑を浮かべ、深く一礼した。


「えらく久しぶりじゃのう」


 セイが目を細める。


「こんばんは!」


 ミミは嬉しそうに両手を振った。


「どうしたんじゃ? 精霊感応が勝手に反応したということは、おぬしが呼んだのか?」


 大精霊はふわりと漂いながら頷く。


「そうなんだ。君たちも感じていると思うけど……魔王復活の時期が、少しずつ近づいてきている」


 部屋の空気が、わずかに張りつめた。


「……そうか」


 セイの声が低く落ちる。


「だからひとつ助言しておこうと思って。魔王復活を止めたいなら――復活前に賢者のカケラを集める必要があるのは分かるよね?」


「……ふむ。おそらくは、それで賢者の石を作り、封印をやり直すのじゃろう」


「うんまあ大体そんな感じだね。だから、次のカケラを探してほしいんだよ」


「魔族たちも血眼で探しておろう。奴らにはまだ見つかっておらぬのか」


「封印されているのは普通の祠なんだけど、魔族に簡単に見つかるようにはしていないからね」


「ほう……では、ワシらはどこへ向かえばよい?」


「ここから少し遠いけど、西の洞窟の奥に“光の精霊”の気配があるね。多分、そこにカケラが眠っているはずだよ」


 セイが眉を寄せる。


「西の洞窟か……洞窟の構造や入り口の場所はわからんのか?」


 大精霊はふとリアナを見る。


「光の精霊といえば……そっちの赤い髪の子――」


「リアナがどうしたんじゃ?」


 セイが問い返し、リアナも小首をかしげる。


「ううん。今はまだ、何でもないよ」


 大精霊は意味深に微笑むだけだった。


「まあええ。じゃが、今日はやけに口数が多いのう。時間は大丈夫か?」


「うん。この子の中でゆっくり休ませてもらって、たっぷり元気をもらったからね。でも……大事な時に出られなくなると困るから、普段はやっぱり眠っていることにするよ」



 翌朝。


 一行はギルドの掲示板を見上げていた。

 掲示板には、今日も色とりどりの依頼書がずらりと並んでいる。


「とりあえず……西の洞窟に関係ありそうな依頼を探してみるかの」


 セイが呟き、目を細めて掲示板を見渡す。


「まあ、あなたの“勇者パワー”でそれっぽいのを受ければ……多分あたりじゃない?」


 リアナが軽く肩をすくめてからかう。


「そこまで都合よくはなかろう。いくらテンプレといえど、それはやりすぎじゃ」


 セイは苦笑しつつ、一枚一枚依頼書を確かめていく。


 ――数分後。

 彼の手には「西方の山岳地帯に位置する洞窟の調査依頼」と記された紙があった。

 洞窟内部で発光現象が観測され、調査と安全確保を求む――と記されている。


「これ、歩いて行ったら十日はかかるわよ」


 リアナが半ば呆れたように眉をひそめる。


「そもそも……なぜそんな場所の依頼が、ノキア村のギルドに?」


 エリシアが不思議そうに首をかしげた。


「まあ、そういうことなら……この依頼で間違いなさそうじゃの」



 ────────────────

 ▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】30(+2)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:かなり高(激戦後の興奮で、セイの近くに自然と寄っていた)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人風の白いワンピースを装備。ランク以上の敵を撃破し少し興奮気味

 - 補足:ちゃんとヒーラーとして活躍できている自分を褒めてあげたいと思っている


 ・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:高(見られてしまったからにはと、妙に意識してしまう)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。色々あったけど、大精霊の可愛さに癒された

 - 補足:スライム討伐後に新調した服が、モスリザードにまたダメにされて少し意気消沈


 ・エリシア(元聖女様/24歳)

 - 好感度:かなり高(魔獣を撃破する姿がかっこいいと思う)

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。大精霊の可愛さに少し高揚

 - 補足:チームとして連携がしっかり取れてきて、仲間という認識を新たにしてる


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

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