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第4話 テンプレ勇者の初仕事

 ルキア村を発って北東の林道を行く。

 雲ひとつない空は高く、頬を撫でる風はやわらかい。初めての冒険にはこれ以上ないほどの好日だ。


「ミミ、足元に気をつけるんじゃぞ。苔で滑りやすいからな」


「はいっ!」


 元気な返事とともに、ミミは小石をぴょんぴょん飛び越えて進む。

 ときどき足を取られかけては、くるりと振り返って照れ笑い。

 その無邪気な仕草は、見ている側の保護欲をいやでも刺激してくる。


「セイって、優しいね!」


「ワシはの、孫に甘い性分でな。ミミも孫みたいなもんじゃし」


「ほら、また変なこと言ってるー。

 しゃべり方はおじいちゃんっぽいけど、まだ若いんだから孫なんて分からないでしょ?」


「なんじゃと? ワシは若くとも“経験者”じゃぞ。

 孫というのはこう……ちっこくて、元気で、目が離せん――」


 セイの言葉にかぶせるように、ミミがぱっと声を上げる。


「じゃあ……おじいちゃん、って呼んでもいい?」


「呼ばんでよろしい。ワシは今、若いんじゃから」


「ふふっ、やっぱり意味分からないよ」


 そんな軽口を交わしながら歩くうちに、林道はだんだん薄暗くなっていく。

 気づけば、周りは鬱蒼とした森へと変わっていた。


 そのとき――


 ――ガルルル……!


 茂みの奥から、地を這うように低い唸り声が響く。

 セイは反射的に腕を広げ、ミミをかばう。直後、木陰を裂いて三つの巨体が飛び出した。


 野犬――だが、受付嬢カレンの言葉を思い出せば、この異様さも頷ける。

 並の犬とは比べものにならない。二倍、いや三倍はある巨躯に、鋭く光る眼光と牙。


 何より、その体は骨ばってやせ細り、皮膚の下から肋骨が浮き上がっていた。

 飢えと狂気が混じった動きは、獣というより理性を失いかけた魔物だ。


「っ、ミミ、下がれ!」


「ひっ……!」


 ミミを背へ押しやり、セイが一歩前へ出る。

 獲物を狙う野犬三頭の眼には、食らいつこうとする意思がむき出しだった。


「……三頭か。しかし――」


 セイの目が細まり、空気が一変する。

 その瞬間、周囲に緊張がぴたりと張りつめた。


「――スキル《威圧》、発動」


 その瞬間、足元から立ち昇るような見えない力が野犬たちを押し潰す。


 ガゥッ! ガインッ!


 一頭は自ら木へ頭を叩きつけ、もう一頭は腹を見せて転がった。

 それでも最後の一頭は怯まず、牙を剥き出しにして飛びかかってくる。


「根性あるのう……」


 地を蹴る音と同時に、野犬の牙が目前に迫る。

 セイは体をひねってかわす――だが、ほんのわずかに遅れた右腕に鋭い痛みが走った。裂けた袖から、赤い滴が地面へぽたりと落ちる。


「ちぃと……動きが追いつかんのう。反応が遅れとるわ」


 よろめき、膝をついたセイへ、野犬は低く唸りながら距離を詰めてくる。

 濁った唸り声は、今にも喰らいつかんとする気配そのものだ。


 胸の奥に、一瞬だけ弱気がよぎる――しかしセイはそれを噛み殺す。


(……いや、ここで退くわけにはいかん。わしは“勇者”じゃろうが)


 その瞬間。


【新スキル】

 《加速支援》:身体動作を短時間だけ加速させ、回避や反撃を補助する。戦闘中、自身の意思と連動して自動発動する。


(……なぬ? また都合のええスキルが出おったか!)


 セイの口元がわずかに吊り上がる。

 意識を研ぎ澄ますと、体内を駆け抜ける力がはっきりと分かった。

 筋肉がきゅっと反応し、視界が一段と鮮明になる。


「さあ、次はそう簡単には噛みつけんぞい!」


 野犬が再び跳ぶ。その軌道がゆっくり見えるほど、動きが読み取れた。


(――間に合う!)


 地面を強く蹴り、一歩で素早く身をずらす。

 すれ違いざま、反転した勢いのまま渾身の拳を叩き込んだ。


「お返しじゃ!」


 加速で強化された一撃が、鈍く爆ぜる音とともに野犬の顎を打ち抜く。

 巨体はくるくると転がり、草の上で静止した。


 肩で息をしながら、セイは空を仰ぐ。


「……ふぅ。スキルさまさまじゃの。まったく便利な世の中になったもんじゃ」


 森に、再び静けさが戻る。


「す……すごい……!」


 ミミがぱちぱちと拍手を送る。

 その顔は恐怖から解放された安堵と、純粋な憧れで輝いていた。


「セイ、かっこよかった! 本当にすごかったよ。なんか、ビリビリってした!」


 そう言いながら腕を取ったミミが、倒れた野犬へ歩み寄ろうとする。


「む……待て。まだ近づくな。……気配が残っとる」


 森の奥――その向こうに潜む、もうひとつの視線を確かに感じていた。


 ミミは立ち止まり、セイの袖をぎゅっと握る。

 小さな声だったが、不安の揺れを隠していない。


「……さっきね、すごく怖かった。でも、セイがいたから……大丈夫だったよ」


 その声には、不思議な芯の強さがあった。


「だからね、わたし思ったの。セイがいれば……なんでもできるって」


 セイはわずかに目を細め、苦笑する。


「……ふっ。《強制ハーレム誘導》、発動中じゃな」


「なにそれ?」


「いや、なんでもない」


 森の奥に潜んでいた気配は、やがて霧のように薄れていった。

 先ほどの戦いぶりを見て、群れの残りが身を引いたのだろう。


 ほっと息をつこうとしたその瞬間、ミミが小さく息を呑んだ。


「……セイ、その腕、血が……!」


「ん? ああ、ちぃと噛まれただけじゃ。大したことは――」


「動かないで」


 ミミはセイの腕をそっと取り、迷いなく傷口へ唇を寄せる。

 舌先が血の滲む肌をなぞった。


 ぺろり、と。

 そのたび淡い光がにじみ、裂けた肉がゆるやかに塞がっていく。


 セイは大きく息を吐き、肩の力をすっと抜いた。


「ふぅ……毎度ながら、見事なもんじゃな」


「……うん。もう少しで終わるから」


 ミミは表情を変えず、もう一度縁を舐める。

 穏やかな光が消えたころには、傷跡はきれいさっぱり消えていた。


「よし、完了。……セイ、大丈夫?」


「ああ、助かったわい。ありがとな」


 ミミは照れくさそうに笑い、そっと袖を整える。

 倒れた野犬を確認し、証拠となる牙を三本回収――初めての依頼任務は無事に完了した。


 ギルドへ戻る頃には、空はゆっくりと茜色へ変わりつつあった。


「ふぅ……やっぱり疲れたのう」


 腰を伸ばすセイに合わせて、ミミも「わたしもー」と背伸びをする。

 帰路の道中、ミミは長い草をぶんぶん振り回しながら歩き、ときどき川面へ石を投げては「おおっ」と嬉しそうに声を上げた。


「ミミよ……おぬし、少々はしゃぎすぎではないか?」


「へへっ、いいでしょ。帰り道は“冒険のおまけ”なんだから」


 だが、そんなふたりの楽しい空気も、ギルドの扉をくぐった瞬間に変わった。


「おい見ろ、帰ってきたぞ」

「まさか野犬退治、本当にやったってのか?」

「証拠がなけりゃ口だけだってすぐバレるさ」


 セイは無言でカウンターへ向かい、袋から牙を取り出して並べた。


「これは……確かに野犬の牙。三体分……すごい、初依頼でこれは見事です!」


 受付嬢カレンの声が広間に響く。

 その一言で、周囲の視線が一斉に集まった。


「マジかよ……」

「新人がやり遂げたってのか……?」

「フッ、俺は最初からわかってたぜ」


 冷笑は、いつの間にか警戒と驚きへ変わっていく。

 そのざわめきを割るように、ひとりの男がカツカツと足音を響かせて近づいてきた。


「ほぅ……お前が“野犬退治の新顔”か」


 がっしりとした体格に、色褪せたスカーフを何本も腕に巻き、顔には獣の爪痕のような三本の古傷。

 ギルドでも名を知らぬ者はいない、Bランク冒険者ドルクだった。


「名は?」


「セイじゃ。……そちらは?」


「ドルク。まあ、ギルドの“顔”みたいなもんだ。

 で、見せてもらったが……面白いもんだな。レベル2で野犬三体。まさか本当に討伐するとはな」


 賞賛の言葉とは裏腹に、その視線は完全に“値踏み”していた。


「俺の目は誤魔化せねぇ。テメェ、スキル隠してるだろ?」


 セイは答えず、ただニヤリと笑う。


「ふむ、ワシの何が見えておる?」


「“隠してる”ってことだけだ。無能じゃねぇのはわかった。……次のランク試験、楽しみにしてるぜ」


 それだけ告げ、背を向けたまま歩き去るドルク。


「……あのドルクが認めたのか……」


 広間に小さなどよめきが広がった。


「お二人とも、お疲れさまでした。こちらが報酬です」


 カレンが差し出したのは、銀貨五枚。


「ミミ。今日は好きなもんを食ってええぞ」


「ほんと!?」


 ぱあっと笑顔が咲く。


「わたし、チーズがのびーるやつ食べたい!」


「それは少々高いが……まあ、今日くらいはよかろう」


 カウンターを離れ、外へ出たところでミミがぽつり。


「ねぇセイ、みんなの顔、さっきと違ってたね」


「うむ。人は強さに従い、力に屈する。だが、それだけでは足らん」


 夕焼け空を見上げ、セイは続けた。


「次は“信頼”を得ねばならん。“なろう”とは、そういう流れじゃ」


「なろう……?」


「いや、独り言じゃ」


「ふふっ……セイって、やっぱりちょっと変だね」


 和やかな雰囲気のまま、ふたりは初仕事達成の充実感を満喫しながらギルドを後にした。



 ────────────────

 ▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】5(+3)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援(New)


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:中(「セイがいればなんでもできる」と信頼)

 - 能力傾向:回復系(未覚醒)/ヒーラー適性あり

 - 状態:枷は外され、衣服・装備・金銭あり(セイによる支援済)

 - 補足:強制ハーレム誘導のせいか、無自覚に距離を詰めがち


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

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