第28話 王都初日、テンプレ的な洗礼
ルキア村から南西――交易の町ラーストを出発する朝。
窓の外から差し込むやわらかな光が、部屋の中をゆるやかに染めていた。
ミミがもぞもぞと寝返りを打ち、掛け布団の中からふわりと顔を出す。
「……んぅ~……」
まだ夢の余韻を引きずったまま、開き切らない目で周囲を見渡す。
その視線の先、カーテンの前に立つ人影があった。
「おはよう、リアナちゃん……」
眠たげに声をかけると、振り返ったリアナが柔らかく微笑む。
「あっ、おはようございます、ミミさん。エリシアさんなら、もう起きて散歩に出かけましたよ」
「そっかぁ……。昨日、夜更かししちゃったからなぁ……朝がつらいよ」
伸びをしながらぼやくミミに、リアナは呆れたように目を細める。
「夜更かしって……“寝かせないよーっ!”なんて言ってた本人が、布団に入った瞬間に寝てましたけど? ほとんどおしゃべりできてないです」
「えへへ……だって、昨日はずっと歩いてたじゃん? そりゃ疲れるよー」
照れ隠しに頬をかき、ミミはベッドからぽんと飛び降りた。
「よーしっ。じゃあ、セイのとこ行ってこよーっと!」
ぱたぱたとスリッパを鳴らして廊下へ出る。
扉を開けると、ちょうどセイが窓辺で背伸びをしていた。
「セイ、おはよー!」
「おお、ミミか……うーむ。昨日は、ちと飲みすぎたかのう」
頭を押さえながらも、表情はどこか穏やかだ。
ミミはその隣にするりと座り、袖をくいっと引いた。
「ふふっ、二日酔いなの? じゃあミミが元気、分けてあげよっか?」
そう言って、ぴとっと体を寄せる。
無邪気な笑顔とは裏腹に、距離だけは妙に近い。
「まったく……朝から距離が近すぎるんじゃが……」
「えー? だって、こうしてると元気出るんだもん。……ね、いいよね?」
「……調子が狂うのう。
まあ――元気をもらえている気は、せんでもないがな」
そのとき、廊下の奥から小さな咳払いが聞こえた。
「……セイ、いつまでデレデレしてるのよ。早く着替えて」
腕を組んだリアナが立っており、呆れたように首を振っている。
「別に、いちゃついてないもん! 元気チャージだよ!」
「はいはい。そろそろ朝食の時間ですから、食堂に行きましょう」
リアナに促され、ミミとセイも宿の食堂へ向かう。
テーブルには、香草の香る豆と野菜のスープ、焼き目のついた肉まんじゅう、干し魚の燻製が並んでいた。
昨夜の喧騒が嘘のように、食堂には穏やかな空気が流れている。
「おはようございます」
エリシアは穏やかな笑みを浮かべながら席についた。
散歩で少し頬を紅潮させた姿は、どこかいつもより生き生きとしている。
「おはよう、エリシアちゃん! 何か面白いものでも見つけた?」
「ふふっ。この町の教会に、少しだけ立ち寄ったんです。小さな礼拝堂でしたけど、神父様がとても優しくて……子どもたちの祈りの歌が、朝日に照らされて響いていて……とても幻想的でした」
「へぇ~、わたしも見たかったなー!」
「王都の教会は、きっともっと素敵ですよ。一緒に行きましょうね?」
「うんっ、約束だよ!」
そのやりとりに、テーブルの空気がふわりと和らぐ。
笑い声が交じるなか、朝食は和やかに進んでいった。
やがて一行は食事を終え、身支度を整える。
雲ひとつない青空の下、活気に満ちた足取りで、彼らはラーストの町を後にした。
◇
緩やかな丘陵地帯を越えて進むうち、やがて遠くにその姿が見え始める。
高くそびえる白壁。幾重にも重なる塔屋根。
門の外には人の往来が絶えず、旗や看板、装飾を施した馬車までもが忙しなく行き交っていた。
「――わあ……!」
真っ先に声を上げたのはミミだった。
次いでリアナも目を見開き、思わず息を呑む。
「これが……王都、アストリオ……」
「すごい……人が、いっぱい……」
エリシアもまた、初めて目にする王都の光景に胸を高鳴らせていた。
「ふむ……思ったより派手じゃのう。城下の活気も悪くない」
セイは腰に手を当て、満足そうに頷く。
「さあ、参るぞ。目的地はギルド王都支部じゃ」
「うんっ!」「はいっ!」
王都アストリオ――その壮麗な門をくぐった瞬間、一行は思わず足を止めた。
石畳の大通りを埋め尽くす人の波。
行き交う馬車、物売りの呼び声、屋台から立ち上る湯気と香ばしい匂い。
耳慣れない楽器の音色までが混ざり合い、町そのものが生きているかのようだった。
「うわぁ……やっぱり王都って、ぜんぜん違うね……!」
ミミは目を輝かせ、きょろきょろと周囲を見回す。
リアナも人混みに戸惑い、無意識にミミの腕を取った。
「すごい人……これ、ちゃんと歩けるの?」
「油断するな。こういう場所では――」
セイが言いかけた、その瞬間。
「きゃっ……!? な、なに今の……!」
リアナの肩をかすめるように、影がすり抜けた。
痩せた体に深くフードを被った男が、背を向けて駆け出していく。
その手にあるのは――リアナのポーチ。
「ちょっ、返しな――!」
セイはとっさに前へ出るが、男はすでに人混みに紛れている。
露店のひさし、荷車、通行人――追うには障害が多すぎた。
「……くそ、早いのう」
目で追いながら、人の流れと通路の構造を把握する。
右は混雑、左の路地は比較的空いている。正面からは無理――ならば。
素早く迂回し、先回りできる位置へ。
呼吸を整えながら、タイミングを見計らう。
「――スキル《時間停止》」
小さく呟くと同時に、男の動きがぴたりと止まった。
セイは人混みをすり抜け、男の背後に無言で立つ。
その手からポーチを引き剥がすように取り返すと、数歩下がって小さく息を吐いた。
「ポーチは返してもらった。……二度はないと思え」
そう言って、セイはリアナのもとへ戻り、ポーチを差し出す。
リアナは、まだ驚きの残る表情のまま、それを受け取った。
震える指で中を確かめ、一つひとつを確認するように見つめる。
小さな布袋、手帳、銀細工の指輪――そして、小さな子供と母親らしき女性の写った写真。
それらをそっと胸に抱き寄せた。
「セイ……ありがとう、ほんとに……すごく、大事なものだったの……」
「そこまで大事なもんじゃったか。まあ、戻ってきて何よりじゃ。
この人の多さじゃ、スリの一人や二人、おって当然じゃしな。……油断するでないぞ」
「……うん」
自分でも気づかぬうちに、素直な気持ちが口をついて出ていた。
リアナははっとして目を見開く。
「あっ、ちが……! べ、別にそんなこと分かってるわよ!」
ぷいっと視線をそらす横顔が、みるみる赤く染まっていく。
その様子を見て、ミミがにやりと笑った。
「ははーん、リアナちゃん、まさか……♪」
「なっ……!? な、何ですか、ミミさんっ!」
耳まで真っ赤に染めて、リアナはばたばたと手を振る。
その慌てふためく様子が楽しくて、ミミは「えへへ~」と嬉しそうに笑った。
リアナは両手で顔を覆い、深呼吸。
気持ちを切り替えるように、セイを振り返る。
「……ところで、ギルドはどこなのよ、セイ!」
「ん? おお、そうじゃったな……ちと待て、地図を見るぞ……んん、あれじゃな、あの大通りの先に――」
そう言って指差した先には、堂々たる石造りの建物がそびえ立っていた。
広々とした門構えに、人の出入りもひっきりなし。
屋根には紋章が刻まれ、冒険者たちの声があちらこちらから響いている。
「……あれが、ギルド王都支部か……」
ぽつりと言葉が漏れた後、セイはふと足を止めた。
(……スリの男。ポーチの中身にあの写真があった)
リアナがあんなに狼狽えた顔で抱きしめていた、小さな子どもと母親の写真。
あれほど大事そうに持ち歩いているのに、彼女はそれについて何も話したことがない。
(……まあ、聞くのも野暮じゃしな。時がくれば、本人が話してくれる頃もあるじゃろ)
達観した老人は、そっと視線を大通りへ向けた。
人混みの向こうに、石造りのギルドがどっしりと構えている。
「……行くぞ」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】18
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高(相変わらず距離感がバグっている)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。何だかんだでしっかり睡眠をとり、元気いっぱい
- 補足:元気チャージはミミの回復スキルのひとつらしい
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:高(大切なものを取り戻してくれた姿に一瞬……)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。瞬間的な緊張で精神的に少し疲弊
- 補足:セイに対しても、ちょいちょい女の子らしい一面を見せ始める
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高(「お酒のお供」として親密さを育みたい)
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。憧れの王都に感動しすぎて少し疲れ気味
- 補足:絵本や聖典で夢見た景色に心を震わせつつ、今夜の一杯にもほんのり期待している
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