第23話 温泉タイム
ルキア村から南東――歪みの泉。
「温泉ターイムじゃあああ!!」
セイが拳を突き上げると、ミミも両手を上げてはしゃいだ。
「やった~! リアナちゃん、温泉だよ、温泉っ!」
「よ、ようやくですね……! もうずっと待ってました……!」
こうして三人は泉周辺の調査に取りかかった。
危険な魔物の痕跡はなく、呪いの源らしき異常も見当たらない。
一通り確認を終えた彼らは、再び泉のほとりへと戻ってきた。
「……さて。依頼内容は、これにてひとまず達成じゃろうな。
呪いの影響も確認できたし、周辺に異常もなかった。報告内容としては十分じゃ」
そう言い終えると、セイは泉のそばに佇むエリシアへと視線を向ける。
「エリシア。おぬし、これからどうするつもりなんじゃ?」
「……実は、私……この泉の呪いを“完全に解除するまで帰ってくるな”と言われていまして……」
困ったように眉を下げるエリシアに、セイは思わず口をとがらせた。
「なんと……聖女様に向かって、えらい言いようじゃのう?」
「いえ……それも当然のことです。聖女ですので……」
「だからって、“完全に解除するまで帰るな”はブラックすぎでしょ!?
っていうか、さっきまで完全に呪われたじゃない!」
リアナが即座にツッコミを入れると、ミミがぽんっと手を打った。
「じゃあさ、エリシアちゃんも一緒に温泉いこうよ!」
あまりに唐突な提案に、三人は一瞬固まる。
「……おい、ミミ。いま話しておったのは呪いの話じゃぞ?」
「うん! でも、呪われた体には温泉が効くかもだし!
エリシアちゃん、ずっと外で立ってたんでしょ? 冷えちゃうよ?」
「まあ……確かに、ちょっと寒いです……」
「ほら~! じゃあ決まりっ!」
ミミは満面の笑みでエリシアの手を取った。
不意を突かれたように、エリシアは一瞬きょとんと目を瞬かせる。
だがすぐにその表情はやわらいだ。
「ふふ……では、少しだけ。お言葉に甘えさせていただきますね」
「よーし、温泉じゃー!」
軽く荷物をまとめ、一行は泉を後にして温泉へ向かう。
山道は緩やかで歩きやすく、木々の間から差し込む木漏れ日とひんやりした空気が心地よい。
「なんだか小旅行みたいですね」
エリシアのその一言に、誰からともなく笑みがこぼれた。
◇ ◇ ◇
ごぽんっ――
湯面に小さな波紋が広がり、心地よい湯気がゆらりと立ち上る。
大きな岩に囲まれた露天の女湯で、ミミは湯船にぷかりと身を預けていた。
「ふあぁ~……しあわせ~……」
両腕を伸ばし、力の抜けた声を漏らす。
湯からのぞく肩先は、ほんのりと桜色に染まっていた。
「本当に……いいお湯ですね」
隣で肩まで浸かるエリシアも、ふぅっと息を吐き、柔らかく微笑む。
「ただ温かいだけじゃなくて……全身を優しく包まれているようです」
「そうだよね~。なんだかぽかぽかしてて……このまま溶けちゃいそうだよ」
ぱしゃぱしゃと湯を揺らしながら、ミミはリアナのほうへ寄っていく。
「ねえねえ、リアナちゃんも気持ちい〜い?」
「……べ、別に。普通です、普通。ちょっと熱いけど……
その、優しく温めてくれてて、落ち着くって言うか、気持ちがすごく安らぐって感じです」
「ふふっ、じゃあ“とても良い”ってことだね♪」
耳まで赤くなるリアナを見て、ミミは満足そうに笑った。
その様子に、エリシアも思わずくすりと微笑む。
「お二人は……本当に仲がいいのですね」
その言葉に、ぱしゃん、と湯をはねさせて、ミミが勢いよく立ち上がる。
「そうなんだよ。
だからね、今日はエリシアちゃんとも仲良くなるために――ミミが背中、流してあげるよ!」
「えっ……わ、私の、ですか?」
突然の申し出に、エリシアは目を瞬かせる。
少し頬を染めながらも、やがて小さくうなずいた。
「あ、ありがとうございます……では、お願いしてもいいでしょうか」
「うんっ! ミミさんに任せなさい」
洗い場にちょこんと座ったエリシアの背後に、ミミがそっと膝をつく。
たっぷり泡立てたタオルを手に取り、そっと肩に添えた。
力を入れすぎず、ゆっくり、丁寧に背中を洗っていく。
「わぁ……エリシアちゃんの肌、透明感がすごい……さすが聖女さまだね!」
「ふふっ……ありがとうございます。でもなんだか、懐かしい感じがします」
「懐かしい?」
「はい。小さい頃、母がよく……こうして背中を洗ってくれていたんです。
少し早い時間にお風呂に入って……」
その言葉に、ミミの手が自然とやわらぐ。
「お湯の音と、母の手のぬくもりが……とても安心できて、幸せだったのを覚えています」
「そっかぁ……」
ミミは小さく呟くと、タオルに泡を立て、その泡を両手ですくい取る。
そして、その手をエリシアの背中にぴとっと乗せた。
力を込めず、円を描くように――ゆっくり、やさしく。
「えっ……あ、ミミさん?」
「……こうして手で洗うほうが、あったかいでしょ?
お母さんの手も、きっと……こんな感じだったんじゃないかなって」
その言葉に、エリシアの肩からふっと力が抜ける。
湯の音と、やさしく触れる手の感触。
「ちょっとだけだけど……エリシアちゃんが、そのときに戻れたらいいなって思って」
「……はい。ありがとうございます、ミミさん……すごく気持ちいい」
そう答えて、エリシアは湯気の向こうに微笑んだ。
リアナは水面を揺らしながら、ミミに洗われるエリシアの背中をどこか羨ましげに見つめている。
「はい、おしまい!」
明るい声とともに、ミミの手が離れた。
「じゃあ、次は私が……」
立ち上がったエリシアは、少し照れたように視線を伏せる。
「えっ、いいの?」
「はい。お返し、ですから」
控えめな声に、エリシアなりの感謝が込められていた。
「じゃあ、ミミさんを任せたっ!」
「はいっ、任されました」
場所を入れ替え、今度はエリシアの指が、ぎこちなくミミの背に触れる。
「ちょっと、エリシアちゃん。
エリシアちゃんはタオル使っていいんだよ?」
「ふふっ。気持ちよかったですか?」
確かめるような問いかけに、湯気の向こうでミミが小さく笑った。
背中を洗い終え、ミミとエリシアが立ち上がる。
湯船に戻ったエリシアが、ふと気づいたように周囲を見渡した。
「……あれ? ミミさんは?」
「えっ? さっき、すぐ後ろにいたはず、ですけど……?」
◇
──場面が変わり、男湯。
ごぽんっ……と音を立てて、セイが肩まで湯に浸かっていた。
岩に背を預け、目を細めながらひとり、のんびりと湯を楽しんでいる。
「ふう……静かでええ湯じゃ……。
あっちはあっちで、女子トークで盛り上がっとる頃かのう」
肩を軽く回し、ぐっと背筋を伸ばす。
「さて……そろそろ身体でも洗って、上がるとするかの――」
そのとき、男湯の戸が勢いよく開いた音が響いた。
「セイーっ! 背中、わたしが流してあげるーっ!」
「ぬおっ!? お、おいおいおい!?」
ずぶ濡れのタオル姿で乱入してきたミミに、セイが慌てて身を起こす。
タオルの端がぴらりと揺れ、思わずセイは目を逸らしてしまう。
「おぬし……何を考えとるんじゃ! ここは男湯じゃぞ!?
他のお客がおったらどうするつもりなんじゃ!」
「えっ……? セイ以外に、誰か……いるの……?」
その場でぴたっと足を止め、きょとんと見上げるミミ。
その頬がじわじわと赤く染まっていく。
「……ま、まあ今はワシだけじゃが、年頃の女子が入ってくるのはちと問題じゃろ……」
セイは湯の中で肩をすくめる。
「これ以上は……さすがに、怒られそうじゃしのう」
「……う、うん、たしかに……」
ようやく自分の無茶に気づいたミミが、もじもじと頬を赤くしながら視線を泳がせた。
「セイってば、そういうことは早く言ってよぉ……」
「……いや、普通は言わんでもわかるじゃろ。まったく、おぬしは……」
男湯に、ほんのりとした沈黙と湯けむりが立ちこめていた――
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】18
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高(温泉で背中流す作戦は失敗)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:男湯で濡れたタオルを一枚装備。温泉で体がぽかぽか
- 補足:泡立て名人。背中流しを通してエリシアとも急接近
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:ちょい高めの中(温泉への期待に意気投合)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:女湯で何も身に着けていない。温泉で体がぽかぽか
- 補足:自分もミミに背中を流してもらいたいと言い出せずにいた
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:??
- 能力傾向:??
- 状態:女湯で何も身に着けていない。温泉で体がぽかぽか。呪いの後遺症も見られない
- 補足:ミミとの入浴をきっかけに幼い頃の記憶を思い出し心がやわらいだ
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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