第22話 おっとり聖女エリシア
ルキア村から南東――歪みの泉へと向かう森の中。
「……のう、これ、想像以上に遠くないか?」
木々の間を縫って歩きながら、セイは地図をくるくると丸めた。
「帰りもこの距離なんだよね……?」
疲れた声でミミが言うと、セイは呆れたように片眉を上げる。
「文句を言うな。この泉の調査、そもそもおぬしが“行ってみたい!”と言い出したんじゃろうが。今さら弱音を吐くでない」
「えっ……えへへ……そうだったかも?」
気まずそうに頭をかきながら笑うミミの横に、リアナがすっと並んだ。
「でも、ここまで来たんです。頑張りましょう、ミミさん! 温泉で思いっきり癒されるために!」
「そうだね……うんっ、頑張ろう!
温泉のことを考えたら、疲れなんて忘れちゃったよ!」
そのやり取りを聞きながら、セイは独り言のように呟く。
「……地理的に見ても、この泉は王都ギルドの担当区域のはずなんじゃが……妙に引っかかるのう」
その背中に、リアナがふと問いかけた。
「ねえ、セイ。ところで泉の調査と温泉、どっちを先にするの?」
振り向くと、リアナは少し頬を赤らめていた。
平静を装ってはいるが、その視線は完全に“温泉”をロックオンしている。
「……なんだかんだで、リアナが一番温泉を楽しみにしとるじゃろ」
「う……っ、ち、ちがっ……!」
耳まで真っ赤になったリアナに、ミミがくすっと笑った。
「でもでも、依頼終わらせないと、温泉行ってもゆっくりできないよ?」
「うむ。先に温泉に入ったら最後、そのまま帰りたくなるに決まっとる」
「……まあ、そうよね。やっぱり依頼達成のあと、よね……」
「じゃあ、さっさと終わらせて温泉だよ! リアナちゃん!」
ミミは勢いよく手を振ると、そのまま先頭に立って軽やかに歩き出した。
その背中を見送りながら、リアナがセイに小声で尋ねる。
「ねえ、セイ。この“泉の調査”って……結局、何を調べる依頼なの?」
「おぬし、出発前にカレンが説明しとったじゃろ。温泉のことしか頭にないから、そうなるんじゃ」
「うっ、うるさいわね! ちょっと聞きそびれただけよ!」
「まあええ。最近、この泉に向かった冒険者が戻らなかったり、戻っても様子がおかしかったりするらしくての。
泉の周辺、あるいは泉そのものに異常がないか調査してほしい――それが今回の依頼内容じゃ」
「それ、思ったより危険度高そうね……」
「まあな。だが報酬も悪くないし、なによりミミが“どうしても行きたい”と聞かんかったからのう」
「……無事に温泉に行けることを願うわ」
リアナがぽつりと呟く横で、ミミは振り返って明るく手を振った。
「だいじょーぶだよ! わたしがぜーんぶ調査して、さくっと終わらせちゃうからっ!」
その言葉どおり、ミミは歩調を上げ、森の奥へと進んでいく。
そして――木々の合間を抜けた先。
緩やかに開けた地形の中心に、それはあった。
歪みの泉が、静かに姿を現す。
木漏れ日を受けて、水面は穏やかに揺れていた。
岩場に囲まれた泉の水は青白く澄み、まるで鏡のように周囲の景色を映し出している。
そして、そのほとりに一人の女性が佇んでいた。
「……人?」
思わず漏れたミミの声に反応するように、女性の長い青髪が風に揺れる。
整った顔立ちに、どこか幻想的な雰囲気を纏っていた。
「おぬし、こんな森の中の泉に一人で……危険じゃぞ」
セイが警戒しながら声をかけると、女性はゆっくりとこちらを見て、静かに微笑んだ。
「大丈夫です。私はこの泉の守り手。
ここに在り続けることが、私の役目なのです」
「……妙なやつじゃ。関わらんほうがよさそうじゃのう」
セイが半歩、距離を取ろうとしたとき――
それを察したかのように、女性はなおも語り続けた。
「この泉は、かつてはごく普通の泉でした。
けれど、ある時から――“歪みの泉”と呼ばれるようになったのです」
「ある時から? それは、いつの話なんじゃ?」
「さあ……分かりません」
彼女は首を横に振り、穏やかな声で続ける。
「ただ……今も、泉のそばにいるだけで、心が安らぐのです。
それが、すべてだと思っています」
「……??
話が噛み合っとるような、そうでもないような……」
セイが訝しげに眉をひそめた、そのときだった。
ミミが、ふらりと泉の縁へと歩み寄り、水面を覗き込んだ。
「この泉……なんだか、すごく懐かしい気がする。
ミミ、この泉……ずっとそばで、見ていたいって……思うよ」
その声はどこか虚ろで、瞳は焦点を結ばないまま、泉の奥を見つめている。
「っ、セイ! ミミさんが変よ!」
リアナの声に、セイはすぐさま駆け寄る。
「む……これは、精神干渉か? 混乱系の魔法かのう?」
首をひねりつつ、ミミの様子に意識を集中した、その瞬間――
【新スキル】
《状態異常回復》:対象にかけられた異常状態(混乱・沈黙・幻覚など)を解除する。呪いや精神干渉系にも対応可能。触れた相手に対して即時発動。
(……おう、このタイミングでこのスキル。やはり状態異常なのじゃな)
セイは内心で頷き、《魔法大全》の知識と二人の状態を照合する。
「……該当する魔法は、なし。
……となると、魔法じゃなくて――呪いの類か?」
(まあええ。
ここで都合よく覚えるってことは、使えということなんじゃろう)
セイはミミの額にそっと手を添える。
「――《状態異常回復》!」
バチッと小さな閃光が弾ける。
次の瞬間、ミミの瞳がはっと見開かれた。
「あれ……? わたし……どうしたのかな?
なんだか、記憶がふわって飛んじゃってた気がする……」
ミミが戸惑いがちに辺りを見回すのを見て、セイはほっと息をついた。
「ふむ、ちゃんと戻ったようじゃな。……となると」
視線を泉のほとりに佇む女性へと向ける。
(状況からして……あやつも同じ状態異常になっとるようじゃ)
セイは女性へ歩み寄り、そっと彼女の額に手を添えた。
「おぬしもじゃな。《状態異常回復》――発動!」
淡い光が弾け、女性の身体が一瞬びくりと震える。
その目が見開かれ、やがて戸惑いを浮かべながら自分の頬に触れた。
「……あ……私、今まで……」
状況を飲み込むようにしばらく黙った後、彼女ははっと顔を上げた。
「あなた方は……? いえ、意識が戻ったということは……助けてくださったのですね」
ゆっくりと息を整え、彼女は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
その姿に、ミミがぱっと笑顔を浮かべた。
「こんにちは! 私はミミ。この人はセイで、こっちはリアナちゃん!」
明るく指を差すミミに、リアナは少し驚きながらもぺこりと頭を下げる。
女性は戸惑いながらも、柔らかい笑みを浮かべた。
「私は……エリシアと申します。
この近くの教会で、“聖女”をやっておりました」
その言葉に、セイがわずかに眉を寄せ、腕を組み直す。
「聖女って職業なんか?」
問いかけに、エリシアは少し困ったように目を伏せ、ゆっくり首を横に振った。
「いえ……元は、ただのシスターだったんですが……
いつの間にか、皆さんにそう呼ばれるようになって……」
その瞬間、セイの脳裏に、転生前の“うさ神”の声が鮮明によみがえる。
『異世界テンプレ、フルセット!
最初の村に“記憶喪失の奴隷少女”、
次に“ツンデレ騎士”、
さらに“おっとり聖女”、
もちろん温泉回も完備だよ!』
(奴隷少女はミミ……ツンデレ騎士は……まあ、リアナでギリギリ合っとる。
となると――最後は、このおっとり聖女じゃな)
セイは納得したように頷いた。
「なるほどのう……。
どおりで、この依頼が“ルキア村ギルド案件”だったわけじゃ。
テンプレ展開、実に抜かりなしじゃな……」
エリシアは、そんなセイの独り言には触れずに続ける。
「この泉は、“魔王四天王”と呼ばれる者によって──“惑心の呪い”をかけられたそうです」
「ほう……」
「その調査のため、聖女と呼ばれていた私が泉を訪れたのですが……
結果は、ご覧のとおりです」
自嘲気味に微笑むエリシアを見て、セイは肩をすくめた。
「見事にかかっとったわけじゃな……。
完全に“うっとり顔”になっとったぞ」
「そ、それを言うならセイ!
ミミさんの方がずっとうっとりしてたわよ!?
もう、ほんと抱きしめたくなるくらい!」
リアナがぴしっと指を差すと、ミミは照れたように笑う。
「えへへ~。
だって、なんだかすごく落ち着く感じだったんだもん。
ふわふわしてて……ちょっと夢の中みたいだったよ」
「……それが“惑心”じゃ。
心地よさに身を任せるうちに、少しずつ自分を見失っていく。
そういう性質の呪いじゃな」
腕を組んだまま言い切るセイに、エリシアは頷き、柔らかな笑みを浮かべた。
「……お三方のおかげで、ようやく目が覚めました。
本当に、ありがとうございました」
「むう……ところでエリシアよ。おぬし、“聖女”なんじゃろう?
この呪いも……なんとかできるのではないか?」
真顔で問いかけると、エリシアはわずかに視線を落とし、控えめに首を振った。
「……そうできたらよかったのですが……。
さすがにここまで強い呪いは、私には手に負えず……先ほどのような有様になってしまいましたし……」
その言葉に、セイは小さく頷き、表情を引き締める。
「まあ、そういうことじゃな。
依頼はあくまで調査。泉の状況は確認できた。これで大筋は達成じゃ」
そう言って、セイはくるりと踵を返す。
「――あとは、“泉の周辺”を軽く調べて、調査完了としようかの!」
「ってことはっ!?」
リアナが目を輝かせながら、勢いよくセイに詰め寄る。
「……ようやくじゃ。温泉ターイムじゃあああ!!」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】18(+1)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復(New)
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高(呪いを解除してもらいとても感謝)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。徒歩移動が意外と足にきてる
- 補足:誘惑への耐性なさすぎ。心地よさに流されやすいようだ
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:ちょい高めの中
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。温泉を楽しみにしすぎ
- 補足:リアナも泉をちょっとだけ覗き込んだけど大丈夫だった。耐性あるみたい
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しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。
それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、
ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。
それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




