表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/33

第22話 おっとり聖女エリシア

 ルキア村から南東――歪みの泉へと向かう森の中。


「……のう、これ、想像以上に遠くないか?」


 木々の間を縫って歩きながら、セイは地図をくるくると丸めた。


「帰りもこの距離なんだよね……?」


 疲れた声でミミが言うと、セイは呆れたように片眉を上げる。


「文句を言うな。この泉の調査、そもそもおぬしが“行ってみたい!”と言い出したんじゃろうが。今さら弱音を吐くでない」


「えっ……えへへ……そうだったかも?」


 気まずそうに頭をかきながら笑うミミの横に、リアナがすっと並んだ。


「でも、ここまで来たんです。頑張りましょう、ミミさん! 温泉で思いっきり癒されるために!」


「そうだね……うんっ、頑張ろう!

 温泉のことを考えたら、疲れなんて忘れちゃったよ!」


 そのやり取りを聞きながら、セイは独り言のように呟く。


「……地理的に見ても、この泉は王都ギルドの担当区域のはずなんじゃが……妙に引っかかるのう」


 その背中に、リアナがふと問いかけた。


「ねえ、セイ。ところで泉の調査と温泉、どっちを先にするの?」


 振り向くと、リアナは少し頬を赤らめていた。

 平静を装ってはいるが、その視線は完全に“温泉”をロックオンしている。


「……なんだかんだで、リアナが一番温泉を楽しみにしとるじゃろ」


「う……っ、ち、ちがっ……!」


 耳まで真っ赤になったリアナに、ミミがくすっと笑った。


「でもでも、依頼終わらせないと、温泉行ってもゆっくりできないよ?」


「うむ。先に温泉に入ったら最後、そのまま帰りたくなるに決まっとる」


「……まあ、そうよね。やっぱり依頼達成のあと、よね……」


「じゃあ、さっさと終わらせて温泉だよ! リアナちゃん!」


 ミミは勢いよく手を振ると、そのまま先頭に立って軽やかに歩き出した。


 その背中を見送りながら、リアナがセイに小声で尋ねる。


「ねえ、セイ。この“泉の調査”って……結局、何を調べる依頼なの?」


「おぬし、出発前にカレンが説明しとったじゃろ。温泉のことしか頭にないから、そうなるんじゃ」


「うっ、うるさいわね! ちょっと聞きそびれただけよ!」


「まあええ。最近、この泉に向かった冒険者が戻らなかったり、戻っても様子がおかしかったりするらしくての。

 泉の周辺、あるいは泉そのものに異常がないか調査してほしい――それが今回の依頼内容じゃ」


「それ、思ったより危険度高そうね……」


「まあな。だが報酬も悪くないし、なによりミミが“どうしても行きたい”と聞かんかったからのう」


「……無事に温泉に行けることを願うわ」


 リアナがぽつりと呟く横で、ミミは振り返って明るく手を振った。


「だいじょーぶだよ! わたしがぜーんぶ調査して、さくっと終わらせちゃうからっ!」


 その言葉どおり、ミミは歩調を上げ、森の奥へと進んでいく。


 そして――木々の合間を抜けた先。

 緩やかに開けた地形の中心に、それはあった。


 歪みの泉が、静かに姿を現す。


 木漏れ日を受けて、水面は穏やかに揺れていた。

 岩場に囲まれた泉の水は青白く澄み、まるで鏡のように周囲の景色を映し出している。


 そして、そのほとりに一人の女性が佇んでいた。


「……人?」


 思わず漏れたミミの声に反応するように、女性の長い青髪が風に揺れる。

 整った顔立ちに、どこか幻想的な雰囲気を纏っていた。


「おぬし、こんな森の中の泉に一人で……危険じゃぞ」


 セイが警戒しながら声をかけると、女性はゆっくりとこちらを見て、静かに微笑んだ。


「大丈夫です。私はこの泉の守り手。

 ここに在り続けることが、私の役目なのです」


「……妙なやつじゃ。関わらんほうがよさそうじゃのう」


 セイが半歩、距離を取ろうとしたとき――

 それを察したかのように、女性はなおも語り続けた。


「この泉は、かつてはごく普通の泉でした。

 けれど、ある時から――“歪みの泉”と呼ばれるようになったのです」


「ある時から? それは、いつの話なんじゃ?」


「さあ……分かりません」


 彼女は首を横に振り、穏やかな声で続ける。


「ただ……今も、泉のそばにいるだけで、心が安らぐのです。

 それが、すべてだと思っています」


「……??

 話が噛み合っとるような、そうでもないような……」


 セイが訝しげに眉をひそめた、そのときだった。


 ミミが、ふらりと泉の縁へと歩み寄り、水面を覗き込んだ。


「この泉……なんだか、すごく懐かしい気がする。

 ミミ、この泉……ずっとそばで、見ていたいって……思うよ」


 その声はどこか虚ろで、瞳は焦点を結ばないまま、泉の奥を見つめている。


「っ、セイ! ミミさんが変よ!」


 リアナの声に、セイはすぐさま駆け寄る。


「む……これは、精神干渉か? 混乱系の魔法かのう?」


 首をひねりつつ、ミミの様子に意識を集中した、その瞬間――


【新スキル】

《状態異常回復》:対象にかけられた異常状態(混乱・沈黙・幻覚など)を解除する。呪いや精神干渉系にも対応可能。触れた相手に対して即時発動。


(……おう、このタイミングでこのスキル。やはり状態異常なのじゃな)


 セイは内心で頷き、《魔法大全》の知識と二人の状態を照合する。


「……該当する魔法は、なし。

 ……となると、魔法じゃなくて――呪いの類か?」


(まあええ。

 ここで都合よく覚えるってことは、使えということなんじゃろう)


 セイはミミの額にそっと手を添える。


「――《状態異常回復》!」


 バチッと小さな閃光が弾ける。


 次の瞬間、ミミの瞳がはっと見開かれた。


「あれ……? わたし……どうしたのかな?

 なんだか、記憶がふわって飛んじゃってた気がする……」


 ミミが戸惑いがちに辺りを見回すのを見て、セイはほっと息をついた。


「ふむ、ちゃんと戻ったようじゃな。……となると」


 視線を泉のほとりに佇む女性へと向ける。


(状況からして……あやつも同じ状態異常になっとるようじゃ)


 セイは女性へ歩み寄り、そっと彼女の額に手を添えた。


「おぬしもじゃな。《状態異常回復》――発動!」


 淡い光が弾け、女性の身体が一瞬びくりと震える。


 その目が見開かれ、やがて戸惑いを浮かべながら自分の頬に触れた。


「……あ……私、今まで……」


 状況を飲み込むようにしばらく黙った後、彼女ははっと顔を上げた。


「あなた方は……? いえ、意識が戻ったということは……助けてくださったのですね」


 ゆっくりと息を整え、彼女は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」


 その姿に、ミミがぱっと笑顔を浮かべた。


「こんにちは! 私はミミ。この人はセイで、こっちはリアナちゃん!」


 明るく指を差すミミに、リアナは少し驚きながらもぺこりと頭を下げる。

 女性は戸惑いながらも、柔らかい笑みを浮かべた。


「私は……エリシアと申します。

 この近くの教会で、“聖女”をやっておりました」


 その言葉に、セイがわずかに眉を寄せ、腕を組み直す。


「聖女って職業なんか?」


 問いかけに、エリシアは少し困ったように目を伏せ、ゆっくり首を横に振った。


「いえ……元は、ただのシスターだったんですが……

 いつの間にか、皆さんにそう呼ばれるようになって……」


 その瞬間、セイの脳裏に、転生前の“うさ神”の声が鮮明によみがえる。


『異世界テンプレ、フルセット!

 最初の村に“記憶喪失の奴隷少女”、

 次に“ツンデレ騎士”、

 さらに“おっとり聖女”、

 もちろん温泉回も完備だよ!』


(奴隷少女はミミ……ツンデレ騎士は……まあ、リアナでギリギリ合っとる。

 となると――最後は、このおっとり聖女じゃな)


 セイは納得したように頷いた。


「なるほどのう……。

 どおりで、この依頼が“ルキア村ギルド案件”だったわけじゃ。

 テンプレ展開、実に抜かりなしじゃな……」


 エリシアは、そんなセイの独り言には触れずに続ける。


「この泉は、“魔王四天王”と呼ばれる者によって──“惑心の呪い”をかけられたそうです」


「ほう……」


「その調査のため、聖女と呼ばれていた私が泉を訪れたのですが……

 結果は、ご覧のとおりです」


 自嘲気味に微笑むエリシアを見て、セイは肩をすくめた。


「見事にかかっとったわけじゃな……。

 完全に“うっとり顔”になっとったぞ」


「そ、それを言うならセイ!

 ミミさんの方がずっとうっとりしてたわよ!?

 もう、ほんと抱きしめたくなるくらい!」


 リアナがぴしっと指を差すと、ミミは照れたように笑う。


「えへへ~。

 だって、なんだかすごく落ち着く感じだったんだもん。

 ふわふわしてて……ちょっと夢の中みたいだったよ」


「……それが“惑心”じゃ。

 心地よさに身を任せるうちに、少しずつ自分を見失っていく。

 そういう性質の呪いじゃな」


 腕を組んだまま言い切るセイに、エリシアは頷き、柔らかな笑みを浮かべた。


「……お三方のおかげで、ようやく目が覚めました。

 本当に、ありがとうございました」


「むう……ところでエリシアよ。おぬし、“聖女”なんじゃろう?

 この呪いも……なんとかできるのではないか?」


 真顔で問いかけると、エリシアはわずかに視線を落とし、控えめに首を振った。


「……そうできたらよかったのですが……。

 さすがにここまで強い呪いは、私には手に負えず……先ほどのような有様になってしまいましたし……」


 その言葉に、セイは小さく頷き、表情を引き締める。


「まあ、そういうことじゃな。

 依頼はあくまで調査。泉の状況は確認できた。これで大筋は達成じゃ」


 そう言って、セイはくるりと踵を返す。


「――あとは、“泉の周辺”を軽く調べて、調査完了としようかの!」


「ってことはっ!?」


 リアナが目を輝かせながら、勢いよくセイに詰め寄る。


「……ようやくじゃ。温泉ターイムじゃあああ!!」



────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】18(+1)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復(New)


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:かなり高(呪いを解除してもらいとても感謝)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人風の白いワンピースを装備。徒歩移動が意外と足にきてる

 - 補足:誘惑への耐性なさすぎ。心地よさに流されやすいようだ


 ・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)

 - 好感度:ちょい高めの中

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。温泉を楽しみにしすぎ

 - 補足:リアナも泉をちょっとだけ覗き込んだけど大丈夫だった。耐性あるみたい


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ