第21話 大地の精霊
ルキア村の中心から少し離れた外れ――セイたちのマイホーム。
「ただいまー!」
玄関の扉を開けると同時に、ミミが元気よく声を上げた。
それに応じるように、ふわりと一匹の小さな幽霊モフルが姿を現す。
「リアナさん、あとミミさんも。お帰りなさいませ」
「うん!ただいま!」
ミミの声が響いた瞬間、薄暗かった室内が、ほんのり明るくなるような気がした。
ひと息ついたところで、セイがミミに向き直る。
「ミミよ。この前の祠調査――あのとき、あの本を開いてから、何か変わったことはなかったか?」
「うーん……よく分かんないけど、魔法を使うとき、頭の奥のほうで、誰かが囁いてるみたいな感じがするの」
リアナが怪訝そうな表情でセイを見る。
「……セイ、それってつまりどういうこと?」
「ギルドマスターが言っておったじゃろう。あの祠の“カケラ”からは、大精霊の痕跡が確認できなかったと」
「ああ、アルトさんね。確かに言ってたわ。でも、それと何か関係あるの?」
「遺跡でレオナードと対峙した際、ヤツはミミのことを“守護者”と呼んでおった」
「――えっ!? ミミさんが、守護者?」
リアナが思わず目を見開く。
「ワシの考えではな……あのとき“大精霊”は、“賢者のカケラ”からミミへと宿り先を移したのではないかと思うておる」
説明を聞いたミミは、ぽんっと手を打った。
「な、なるほど……! つまり、大精霊がミミに移ったってことだね! ……って、えぇぇっ!?」
「でもでも、確かに……その頃からミミさん、魔法使えるようになってたよね?」
リアナの指摘に、ミミがうんうんと頷く。
「うむ、そうじゃ。それでじゃな――」
セイは胸を張り、口元をにやりとゆるめた。
「今回、久々に――新しいスキルを覚えたんじゃ!」
「えっ!? なになに!? どんなの〜?」
ミミがぱっと目を輝かせ、身を乗り出す。
「その名も――《精霊感応》じゃ!」
「なんか……今回のお話のためだけに用意されたみたいな名前だね」
「都合がええじゃろ。細かいことは気にせず、まあ、見ておれ」
セイはミミの正面に立ち、軽く息を整えると、両手をそっとかざす。
「――《精霊感応》!」
その瞬間、ミミの身体から淡い光がにじみ出した。
光は肩口から頭頂へと集まり、やがてふわりと宙へ舞い上がる。
光の粒が寄り集まり、次第に小さな人型を形作っていった。
その姿はミミを小さく、幼くした姿のようにも見えた。
「きゃっ……な、なにこれ……?」
ミミが思わず声を上げる。
「……ちっちゃい、ミミさん……? これが……大精霊!? めちゃくちゃ可愛い!」
リアナが両手で口元を押さえ、見とれる。
「おう、ワシのスキルでは、その光から精霊の力がビンビンと感じられるわい」
「ずるい〜! わたしも見たーいっ!」
ふわふわと漂う小さな精霊は、嬉しそうにミミの頭上でくるりと一回転し、羽ばたくように手を振った。
「うん! ボクは“三精霊”のひとり、大地の精霊だよ!」
「やはりの……じゃが、その“大精霊様”は、賢者のカケラを守っておるはずじゃ。
あの本――いや、カケラは大丈夫なんか?」
精霊は胸の前で手を組み、にこりと笑う。
「大丈夫だよ! カケラってのは“チカラ”であって“モノ”じゃないんだ!
だからその“チカラ”は今、ボクが宿ってるこの子が持っているってこと」
「ふむ……なるほどのう。
……して、なぜミミを選んだんじゃ?」
「それはね――……」
精霊は言いかけて、少し困ったように笑う。
「あ、ごめん。そろそろ時間切れだ。
精霊が人の姿を保つのって、すっごく疲れるんだ。だから、続きはまた今度ね!」
小さな光はやさしく瞬き、ふっと空気に溶けるように消えていった。
「……ということでじゃな。今のミミは――守護者を宿した“賢者のカケラ”そのものということじゃ!」
セイの言葉に、ミミがきょとんとした表情を浮かべる。
「ってことは……あれからずっと、わたしには精霊さんがついてたってこと……?」
呟いた直後、ミミの頬がじわりと赤く染まっていく。
「ミミさん? どうかしました?」
リアナが首を傾げると、ミミは目をまるくし、勢いよく手をぶんぶんと振り始めた。
「ってことは、ってことはだよリアナちゃん!!
ミミの、あんなことやこんなこと――いろんな恥ずかしいとこ、ぜんぶ見られちゃってたってことだよね!?」
慌てた様子に、リアナはぽかんと目を瞬かせる。
「……ミミさん、そんなに恥ずかしがるようなこと、してるんですか?」
「い、言えないけど! してないけどっ! けどぉぉぉ……!」
顔を真っ赤に染めたミミは、その場にしゃがみ込むと、ぷしゅ〜っと湯気でも出そうな勢いでうずくまる。
セイはそれを見て、肩をすくめながら小さく笑った。
「……まあ、ミミの恥ずかしいことはひとまず置いておいてじゃ。
このことは――しばらく、ワシら三人だけの秘密にしておこう。時がくれば、いずれ皆に話さねばならんときも来るじゃろうて」
それでもミミは立ち上がれず、
「……昨日のあれは……大丈夫だよね……? お布団、ちゃんとかぶってたもんね……」
と、壁に向かってぼそぼそ呟き続けていた。
◇
話が一段落したその頃、キッチンのほうから張りのある声が響いた。
「皆様、夕飯の準備が整いました!」
テーブルのそばには、出来栄えに満足げな様子でこちらを見守るモフルの姿がある。
香ばしい匂いを立てるシチューに、焼きたてのパン。彩り鮮やかな野菜の炒め物まで並んだ食卓。
誰からともなく「いただきます!」の声があがり、賑やかな夕餉が始まった。
スプーンを口に運びながら、セイがふと思い出したように呟いた。
「しかしのう……あの精霊じゃが、姿はミミがちっこくなったような感じじゃったな。言葉遣いも――ほれ、“ボク”っ子じゃったし」
「ミミは頭の上だったから見れなかったよー」
そんなやり取りに、食卓には和やかな空気が流れる。
「ところでじゃ。
前回と今回の依頼報酬で、当面のローン返済は何とかなりそうじゃ!」
その一言に、ミミがぱっと顔を上げる。
「えっ、それって……もう働かなくていいってこと?」
「まあ、スローライフとまではいかんが、少しはゆっくりできるじゃろ」
ミミはぱちぱちと瞬きをしながら、しばらく考え込む。
そして、思いついたように勢いよく手を挙げた。
「だったら、遠征してみようよ!」
セイとリアナが、同時に動きを止める。
「……は?」
「たとえば、今朝ギルドで見た“泉の調査”とか! あれ、やっぱりちょっと気になるんだよね~!」
即座に、リアナが突っ込んだ。
「ミミさん、それ、泉って言っても温泉じゃないんですってば!」
「リアナちゃん、それ今朝も聞いたよ~」
しょんぼりとうつむくミミの横で、なぜかリアナが得意げに続ける。
「でもでも! 調べてみたらですね、近くに温泉、本当にあるみたいです!」
言うが早いか、彼女は手元の地図をバッと広げ、くるりと回してセイとミミに見せつける。
“歪みの泉”と記されたすぐそばに、“山の湯”という文字がしっかりと記載されていた。
「でかした! リアナちゃん!」
ミミの声とともに、セイの顔もぱっと明るくなる。
「よし、次の冒険の舞台は――温泉じゃ!!」
「いや、泉調査だからね」
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】17
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。戦いの疲労は残っているが美味しい夕食を食べて元気回復
- 補足:本の遺跡から大精霊が移り宿り、いつのまにか賢者のカケラとなっていた。恥ずかしいことは多分している
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:ちょい高めの中
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。小さなミミを想像し胸の鼓動が高まる
- 補足:一番温泉に行きたかったのは彼女かもしれない。情報収集能力の高さを見せつけた
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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