第19話 賢者の石
キルア村ギルド――応接室。
ギルドマスター・アルトの話は核心へと移っていく。
「数百年前、当時の勇者によって“魔王”が封印されたことは、ご存じですよね。
ですが――その封印の方法については、限られた者にのみ伝えられてきた機密事項となっています」
「ほう……ならワシは、聞きたくないんじゃがな」
セイのぼやきにも、アルトは真剣な面持ちで続ける。
「いいえ。セイさんは勇者です。これは、知っていただかねばなりません」
「なんか……えらい信頼を寄せられておるのう。理由を聞きたいくらいじゃ」
半ば愚痴のように言うセイに対し、アルトは一つ深呼吸をしてから、慎重に言葉を選ぶ。
「“魔王”の封印には、“賢者の石”の力が用いられています。
“賢者の石”とは、古の時代に精霊たちが鍛え上げた、全ての理を束ねる源。万象を操る智慧の結晶と伝えられています。
簡単に言えば、この世界に存在する“力の法則”そのものに干渉する、奇跡の核と言えるでしょう」
「なんとまあ……いかにも凄そうな代物じゃのう」
「ええ。その力があまりに強大であったため、魔王封印後、“賢者の石”は三つの“カケラ”へと分けられました。
そして“三大精霊”と呼ばれる守護者たちに託され、それぞれが世界の異なる地に人知れず封印したのです」
「ふむ……つまり、そのうちの一つが……」
「はい。セイさんが以前調査された“祠”こそ、そのひとつの保管地だったと考えられます。
レオナードは、それを追っていたのでしょう。遺跡ではなく、真の目的は“祠”にあった――そう判断するのが自然です」
アルトは、やや声を低くして続ける。
「……長い年月の経過により、封印の力が徐々に弱まってきたのかもしれません。
その影響で、魔王に近い存在――いわば眷属のような者たちまでも、ひとり、またひとりと封印から解き放たれつつあるのです。
レオナードも、そのうちのひとりです」
「ほう。つまり、やつは魔王復活のために“賢者のカケラ”を集め、“賢者の石”を手に入れようとしておる、と」
「その可能性が、高いと見ています」
少しの沈黙の後、セイがぽつりと呟いた。
「なるほどのう……では、その“四天王”とやらも、すでに復活しておるのか?」
「いえ。現時点で“四天王”の復活は確認されておりません。ただ――」
アルトは言葉を切り、真っすぐにセイを見据える。
「レオナードが目覚めているとなると、おそらくは……」
そして、さらに慎重な様子で続けた。
「セイさん。これからお伝えする名前を、もしどこかで耳にした場合――どんな些細な状況であっても、必ずギルドへ報告していただけますか?」
「……ほう? 名前、とな」
「はい。受付嬢にも、その名が出た場合については、あらかじめ特別なオペレーションが組まれています。
今回、セイさんたちからヒアリングさせていただいたのも、その一環です」
「なるほどな。じゃから今回、おぬしのようなギルドマスターにも、こんなにスムーズに会えたというわけか」
「ええ、そういうことになります」
セイは苦笑しつつも、納得した様子でうなずいた。
――そしてアルトは、魔王を筆頭に、四天王やその他の主要な魔族の名をひとつひとつ挙げ、セイたちへ共有していく。
やがて一通りの情報を伝え終えたところで、アルトはわずかに眉をひそめる。
「ただ、セイさんから引き継いだ祠の調査で一点――どうにも解せないことがあるのです」
「ふむ?」
「“賢者のカケラ”については、複数の魔力痕跡や構造分析により、間違いなく本物であると結論付けられました」
ひと呼吸置き、声をわずかに落とす。
「ですが不可解なのが……本来、その“カケラ”を守護していたはずの“大精霊”の痕跡が、どこにも見当たらなかったのです」
「……ほう、それは妙じゃのう」
セイは静かに頷いたものの、胸の奥に小さな引っかかりが残った。
(そう言えば、本を開いた直後、ミミが急に魔法を使えるようになっておったな……。
レオナードがミミを“守護者”と呼んでおった以上、無関係とも思えん)
内心でそう整理しつつ、セイは視線をアルトへ戻す。
「うむ、分かった。今聞いた名前が出たら、きちんとギルドに報告しよう」
「ありがとうございます。では、本日は以上となります」
アルトが軽く頭を下げると、セイは椅子を引いて立ち上がった。
「よし、みんな帰るぞ」
「なんか大事な話ばっかりで疲れたよ~! お腹もすいたし、なにかおいしいもの食べに行こうよ!」
ミミが明るく駆け寄ってくる。
セイは笑ってうなずき、もう一人の仲間へと目を向けた。
「うむ? リアナ、どうしたんじゃ?」
呼びかけに、リアナははっとして姿勢を正す。
「あ、ああ……ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「なんじゃ、おぬしには珍しいのう」
「いいでしょ、私だって、たまにはぼーっとすることくらいあるわよ!」
「ふむ、まあ、いつも通りそうで安心したわい」
三人はそのまま、ギルドの近くにある馴染みの食堂へ向かい、軽く昼食を取ることにした。
席に着いてほどなく、注文を取りに来た若い給仕の少女の視線が、セイの頭へと向けられる。
そこには、ミミが“花の戦士”として飾り付けた野花が、まだ誇らしげに残っていた。
一瞬、少女は口元を緩めたが、そのまま何事もなかったように「ご注文は?」と尋ねてきた。
(……おい、そろそろ誰か突っ込んでくれ)
しばらくして、今度は料理を運んできた女将風の女性が、やはりセイの頭に視線を向ける。
ほんの一瞬、やさしげに笑みを浮かべてから、ひと言。
「あら、可愛らしいお花だこと」
セイの目頭が、ほんのりと熱くなった。
テーブルに運ばれてきたのは香ばしいパンと煮込みスープ。湯気とともに、ほっとするような空気が広がる。
だが、リアナの様子は相変わらず、どこか上の空だった。
セイがパンをちぎりつつ、ちらりと視線を向ける。
「リアナ、どうしたんじゃ? さっきから様子が少し変じゃぞ」
リアナはスプーンを止め、しばらくしてから小さく口を開いた。
「……大丈夫よ。ただ、さっきの人……」
隣でふうふうとスープを冷ましていたミミが顔を上げる。
「えっ、アルトさんがどうしたの?」
リアナはわずかに頬を染め、視線を落とした。
「……私が、騎士を目指そうと思ったきっかけをくれた人なんです」
ミミが目を輝かせながら身を乗り出す。
「えーっ! じゃあ、アルトさんってリアナちゃんの憧れの人なんだ!」
リアナは少し照れたように目を伏せ、スプーンの縁を指先でなぞる。
「……まあ、違うとも言えませんが。……そんな感じです」
その返事に、ミミが楽しそうに笑った。
「なんか、ちょっと嫉妬しちゃうな! で、どういった馴れ初めだったの?」
リアナは記憶を辿るように目を細める。
「あの人と初めて会ったのは、私がまだ十歳のころでした」
「へえ、それでそれで? 騎士団の訓練場で会ったの? それとも、魔物に襲われてたところを助けてもらったとか?」
「いえ……誕生日にお兄ちゃんに買ってもらった“月刊ナイト”の王国騎士団特集で、記事を見たのが最初です」
ミミが思わず口を尖らせる。
「リアナちゃん、それ……会ってないよ」
「分かってます。実際に会ったのは、今日が初めてでした」
リアナはそう言って、そっと視線を落とした。
「王国騎士団の団長を務めていた方なんです。
でも、五年前に不慮の事故に巻き込まれて引退されたと聞いていたので……まさか、ギルドにいらっしゃるなんて」
「なぬっ。あやつ、あんな華奢な体で騎士団長だったのか?」
セイの言葉に、リアナは小さく笑った。
「ええ……ああ見えて相当なやり手なのよ」
ふと、ミミがテーブルに肘をつき、顔を覗き込む。
「そういえばさあ、リアナちゃんは、まだ騎士を目指してるの?」
「……実は、ずっと悩んでました。騎士になりたいと思っていたけれど、それが本当に自分の意志なのか、ただの憧れなのか、分からなくって……」
リアナはスプーンを置き、まっすぐ前を見つめて続けた。
「でも……今日、目の前で憧れの人に会って、はっきりしました。私、やっぱり騎士になりたいんだって」
ミミの表情が、わずかに揺れる。
「リアナちゃん。それって……いなくなっちゃうってこと?」
「いえ。冒険者は、まだしばらく続けるつもりです。王国騎士団の次の募集も、何年も先になりそうって聞きましたし」
「うーん……応援したいけど、ちょっと寂しいな」
「まあ、気にすることはない。おぬしはどこにおっても、ワシらの大切な仲間じゃ。
もし本気で騎士を目指すなら、そのときは全力で支えよう」
「もう……あなたに協力してもらわなくても、大丈夫……。でも、ありがとう、セイ」
リアナは、どこか照れくさそうに笑った。
「じゃあ、ごはんも食べ終わったし……次の依頼をもらいに行くとするかのう」
セイが背伸びをしながら言うと、ミミが元気いっぱいに手を挙げた。
「よーし、“キラキラ☆おひさま団”、出発ーっ!」
セイが思わず振り返る。
「なんじゃ、“キラキラ☆おひさま団”とは?」
「パーティ名だよ? 今、決めたの!ずーっと保留になってたからさ」
リアナが吹き出すように笑いながら、うなずく。
「ミミさんらしくて素敵すぎます!」
セイは肩をすくめ、ため息交じりに苦笑した。
「いやいや……まあ、ええか。どうせパーティ名なんて、そんなに使うこともないじゃろ」
こうして、“キラキラ☆おひさま団”の三人は、次なる冒険に向けて、再びギルドの扉をくぐるのだった。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】15
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:高
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。大事な話ばかりで精神的に疲弊継続中
- 補足:リアナの夢を応援したいが、それに対して寂しさを感じている
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:ちょい高めの中(素直にありがとうが言える)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。憧れの人物との対面で胸の鼓動が高鳴りっぱなし
- 補足:セイのどこにいても大事な仲間という言葉が胸にささる
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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