第17話 大切な仲間
古代遺跡調査――帰り道途中での野営の朝。
朝靄が晴れ、川辺を渡る風が野営地の焚き火跡をやさしく撫でていく。
草葉を揺らすその風はどこか清々しく、旅の再開を告げているようだった。
「さて……行くとするかの」
セイは背負い袋の紐を締めると、周囲を軽く見渡してから腰を上げた。
ミミとリアナもそれに続き、三人はルキア村へ向かう林道へと足を踏み入れた。
木漏れ日が降り注ぐ緑のトンネル。
ミミが元気よく先頭を歩き、リアナがその少し後ろに付き添う。
セイは二人を見守るように、やや距離を取って歩いていた。
「ねぇねぇリアナちゃん。昨日の結界、すごかったでしょ?
ちゃんとわたし、守れてたよね?」
振り返るミミに、リアナは少し照れたように微笑む。
「はい。ミミさん、本当に頼もしかったです。
結界もしっかり張れていましたし、安心して休めました」
「えへへ〜っ、やっぱり〜!
セイも見てたよね? わたし、すごかったよね?」
「む、ああ。なかなかのもんじゃったな」
その一言にミミは満面の笑みを浮かべ、得意げに胸を張った。
「わたし、もっと練習して、回復魔法もうまくなって、セイの役に立てるようになるから!」
「ふむ、それでこそ“わしの弟子”じゃ」
何気ないやり取りに、ミミの強い意欲が感じられた。
しばらく歩いたところで、ミミがひょいとリアナの腕にくっつく。
「ねぇねぇリアナちゃん。
昨日ね、セイの寝袋で一緒に寝たんだけど、すっごくあったかかったよ?」
「っ……!?」
リアナは思わず足を止め、耳まで真っ赤に染める。
「な、ななな……なんでいきなりそんなこと言うんですかっ!?」
慌てふためくリアナに、ミミはきょとんと首を傾げる。
「え? だって今朝びっくりしてたから。
リアナちゃんがへんな勘違いしてたらイヤだなって思って」
「き、気にしてなんかっ、ないですからっ!」
言葉とは裏腹に、リアナの顔はますます赤くなっていく。
セイは後方でため息まじりに呟いた。
「まったく……女子の話は、どこで足を踏み抜くか分からんのう」
「セイ、いまなんか言ったー?」
「いやいや、なんでもない。風が気持ちよいのう、うむ」
そんなやり取りを交わしながら、三人は林道を進んでいった。
やがて昼を過ぎた頃――森の切れ間から、見慣れた景色が顔をのぞかせる。
「あっ、ルキア村だー! 着いたー!」
「ふむ、ようやくじゃな」
セイが腰に手を当ててひと息つき、リアナは汗を拭いながら小さく頷く。
その傍らで、ミミは両手を大きく広げて「やったー!」と無邪気に飛び跳ねていた。
◇
ルキア村に到着すると、三人はまっすぐギルドへ向かった。
木製の大きな扉を押し開けると、聞き慣れた明るい声が出迎えてくれる。
「あっ、おかえりなさい、セイさん、リアナさん、ミミさん!」
受付嬢のカレンが、にこやかに手を振りながらカウンターの内側から駆け寄ってきた。
明るい栗色のポニーテールが揺れ、朗らかな雰囲気はいつもと変わらない。
「調査、お疲れさまでした。無事でよかったです。さっそくですが、報告をお願いできますか?」
「うむ。まず遺跡じゃが……かなり老朽化が進んでおった。
崩れかけとる箇所も多く、内部の通行には注意が要るじゃろう」
セイの言葉を受け、リアナが一歩前に出る。
「内部では、通常の生態とは異なる魔物を確認しました。
見たことのない種で、明らかに魔力の影響で変異した個体です」
続いて、ミミが勢いよく頷いた。
「なんかね、真っ黒でピカピカで……ドラゴンの赤ちゃんが怒ってるみたいだったよ。
空気がビリビリして、すっごい嫌な感じ!」
その言葉に、カレンは軽く眉を寄せる。
セイは一呼吸置いて、低く告げた。
「じゃがな……遺跡の奥、そのさらに奥に、例の“大型の魔物”がおった。
ヤツは自らを――レオナードと名乗っておったぞ」
その名を聞いた瞬間、カレンの表情がわずかに硬直する。
「レオナード……それは、かなりの大物ですね」
「うむ。そやつが言うには、魔王四天王ダルセナの右腕、とのことじゃ」
「……それは重大な報告です。本当に、ご無事でよかった」
そう言いながら、彼女は手早く報告帳を開き、要点を書き留めていく。
「調査結果は、私の方からギルドマスターに報告しておきます。
今回の依頼、危険度をはるかに超える内容でしたが、皆さんの迅速な判断に感謝します」
カレンは笑顔に戻り、カウンターの中から革袋を取り出した。
「こちらが今回の報酬です。遠征先ということで、基本報酬に距離手当を加えています」
「ふむ、ありがたいことじゃな」
セイが袋を受け取ると、カレンは少し声を落として付け加えた。
「今回の件、魔族の存在が確認された以上、ギルドでも上層部への報告と対策が必要になります。
追ってギルドマスターから詳しい説明がありますので、よろしければ今日はお休みいただき、明日あらためてお越しください」
「うむ、了解した。無理して詰めてもいい結果は出んからのう」
「ありがとうございます。それでは、またお待ちしておりますね」
三人はカレンに軽く会釈してギルドをあとにした。
外の空気がほんの少し、張り詰めた緊張を解いてくれたように感じられた。
◇
ルキア村の中心から少し離れた外れ――
そこには、古びた石造りの家屋をリフォームした、セイたちのマイホームがぽつんと佇んでいた。
「ただいまー!」
真っ先に飛び込んだミミの声が屋内に響く。
その声に応えるように、奥から小さな幽霊――モフルが、ふわりと姿を現した。
「リアナさん、お帰りなさいませ」
「もーっ、なんでリアナちゃんばっかり!
わたしが『ただいま』って言ったのに!」
ミミがむくれた顔で抗議すると、モフルがぴょんとカウンターに跳び乗り、ぺこりと頭を下げる。
「あらためまして──ミミさん、セイさんも、お帰りなさいませ」
「……うんっ!」
機嫌を直したミミがにこっと笑い、リアナも苦笑しながら頷いた。
「ありがとう、モフル。ちゃんとお留守番してくれてたのね」
「はい。リアナさんのために、家中きれいに掃除しておきました」
その口調に、ミミが小首をかしげ、セイにひそひそと耳打ちする。
「……ねぇ、モフルって、こんなしゃべり方だったっけ?」
「執事ポジションで、なんとか馴染もうとしとるんじゃろうな……たぶん」
二人のささやきに、モフルの背筋がぴんと伸びたような気がした。
そして――夜。
久々のマイホームで夕食を終え、三人はそれぞれ思い思いにくつろいでいた。
ミミは絨毯の上に大の字になって寝転がり、リアナは椅子にもたれて本を読んでいる。
セイは窓際で、何やら自作の茶を煮出していた。
「ふぃ〜、やっぱりおうちって落ち着くねぇ〜」
ミミがごろごろと転がりながら言うと、リアナが微笑む。
「こうして静かな時間があるのも、大事ですね」
「それもまた、冒険の醍醐味というやつじゃな」
セイが湯気の立つカップを手に、ふうと息を吐いた。
やがて夜も更け、自然と寝る時間になる。
「じゃあ、おやすみなさーい!」
ミミは手をぶんぶん振って自分の部屋へ――と見せかけて、廊下を数歩進んだところでぴたりと足を止めた。
ちらりと振り返り、リアナの部屋の戸が音静かに閉まったのを確認すると、すばやく進路変更。
そのまま軽やかな足取りでリアナの部屋の前に立ち、軽くノックしてから、そっと扉を開けた。
「……ミミさん?」
布団の上でうつ伏せになっていたリアナが驚いたように顔を上げる。
「うん。リアナちゃんともう少し、お話したいなーって思って。入っていい?」
「もちろん、どうぞ」
そう答えるリアナの声は、少しだけ遠慮がちだった。
ミミは部屋に入り、布団の隣にちょこんと腰を下ろす。
「今回の依頼、いろいろあったもんね。リアナちゃんも、疲れたでしょ?」
「まぁ……はい。パーティを組んだのも初めてでしたし……」
そう言いながら、リアナがわずかに身じろぎする。
その様子に気づいて、ミミが首をかしげた。
「……リアナちゃん、もしかして、肩こってる?」
「えっ、わかります? ……ちょっとだけ、緊張してたからかなぁ」
「じゃあ……わたしが、もみもみしてあげる!」
ミミはにっこり笑い、リアナの後ろに回って、そっと肩に手を置いた。
「力、強すぎたら言ってね? えい……」
「んぅっ……!」
「わ、わるいっ、痛かった……?」
「ち、ちがいます……くすぐったくて……でも、気持ちいい……です」
ミミは少し照れたようにしながら、今度は指先で丁寧に肩のあたりをほぐしていく。
「リアナちゃん、細いのにがんばってたから……体もきっとびっくりしてたよ」
「……そうかもしれません。
でも、ミミさんの手、あったかくて……体が楽になっていきます」
その言葉に、ミミは自然と笑顔になった。
「じゃあ、もうちょっとだけ、頑張っちゃおっかな」
今度は背中のほうへと手を滑らせ、ゆっくりとマッサージを続ける。
リアナはうつ伏せのまま、身を任せてぽつりと呟いた。
「今日は……セイのところじゃなくて、いいんですか?」
「いーの、いーの! 今日はリアナちゃんと一緒にいたいから!」
ミミは屈託のない笑顔を浮かべて、指を背中に軽く滑らせる。
そして、照れくさそうに続けた。
「だって、みんな――ミミの大切な仲間なんだから!」
その言葉に、リアナの肩が小さく揺れた。
少し間を置いてから、そっと顔を横に向ける。
「……ごめんなさい。
実は、ミミさんとセイの関係に、ちょっとだけ――嫉妬してました。そんな自分が恥ずかしいです」
赤くなった頬を隠すように、枕に顔をうずめる。
「ん? なんでリアナちゃんが謝るの?」
ミミはきょとんと目を丸くして、首をかしげた。
リアナは、少しだけ笑った。
「……ふふ。なんでもないです。でも……ありがとう、ミミさん」
「んー?」
首をひねりつつも、ミミはそのままリアナの肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「ま、いいや! あ、ちょっと向こう向いて? 背中のこの辺も張ってそうだし〜」
「あ、はいっ……ちょ、そこは――くすぐった……!」
「ふふふ、ここが弱点なんだ〜?」
「ず、ずるいです! やり返しますよ?」
「ええっ、やだやだっ! ミミはマッサージ係だからいいんだよ〜!」
そうして――
肩も心も少し軽くなったところで、二人の夜はゆっくりと更けていった。
◇ ◇ ◇
翌朝――朝日が差し込む頃。
「リアナちゃん、おはようーっ!」
勢いよく戸を開けて飛び込んできたミミに、リアナは一瞬きょとんとしたあと、ぱっと笑顔を咲かせた。
「おはようございます、ミミさん!」
二人の声が朝の空気を軽やかに彩る。
少しして、あくび混じりにセイも現れた。
「ふあぁ……おはよう。なんじゃ、おぬしら、朝からやけに元気じゃのう」
「うん! 今日はなんだかいいことありそうな気がするんだー!」
「そうですね。きっと、いい一日になります」
そんな和やかな空気の中、食卓にはモフルが用意した朝食が並べられていた。
焼き立てのパンに、色とりどりの温野菜、そして湯気を立てる野草スープ。どれも朝の体にやさしく沁みそうだ。
「モフル、ありがとう。とっても美味しそう」
リアナが微笑みながら言うと、モフルは誇らしげに宙をふよふよと泳いで応える。
「皆さまの健康が、わたくしの喜びです」
「うむ、今回も良い出来じゃな。やるのう、モフル」
セイがパンをかじりながら頷くと、ミミもスープを飲み干して元気に言った。
「おかわりしていい?」
「成長盛りじゃ! たんと食え、たんと!」
セイが豪快に笑う。
「そういえば今日は、ギルドでギルドマスターから説明があるって話じゃったな……
やっぱり、レオナードの件かのう?」
「まあ、十中八九そうでしょうね」
リアナがスープを一口啜りながら、ため息交じりに言う。
「ふむ……あまり気は進まんが、そろそろ腹もふくれたし、話を聞きに行くとするかのう」
その言葉に合わせるように、ミミがにぱっと笑って立ち上がる。
「しゅっぱーつ!」
元気な声につられて、リアナとセイも笑顔を浮かべて席を立つ。
「あっ、ちょっと待って」
ミミはバツが悪そうに言うと、慌てて椅子に戻り、残っていたスープを勢いよく飲み干した。
「……よしっ!」
三人は顔を見合わせ、小さくうなずき合うと――
今度こそ、本当に出発の準備を整えた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】15
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:ちょっと高
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:淡い色のぴったりとした薄手のパジャマを装備。リアナと仲直りして心穏やか
- 補足:リアナに対する思いやりが、無自覚にリアナの信頼を深めているようだ
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:中(ミミを通じて、信頼を少しだけ回復)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:ゆったりしたキャラクターもののパジャマを装備。マッサージで身体ほぐれまくり
- 補足:三人の関係に自分なりに向き合おうとする意志が芽生えてるようだ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。
もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!
しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。
それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、
ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。
それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




