第15話 レオナード
古代遺跡調査――遺跡入り口。
セイは足元に横たわる魔獣の亡骸を一瞥し、そのまま視線を遺跡の奥へと向けた。
「この魔獣は、ここに巣食う“何か”の影響を受けただけじゃ。本命は――もっと奥におるじゃろうな」
「まだ……続くの?」
ミミが不安そうに、セイを見上げる。
「む。ここからが本番じゃな」
一行は、奥へと続く階段の前で一度立ち止まり、息を整えた。
石畳の階段は苔むして滑りやすく、古びた手すりも今にも崩れ落ちそうに朽ちている。
それでも三人は、慎重に進んでいく。
「ここ、空気が重いね……」
ミミが小さな声で呟いた、その瞬間――
頭上から、不気味な羽音が響き渡った。
「っ……リアナ、上じゃ!」
セイの警告よりも早く、天井の暗がりがざわめく。
次の瞬間、巨大なこうもり型の魔物――《グリムウィング》が、一斉に急降下してきた。
「くっ――!」
回避が間に合わない。
鋭い爪がリアナの肩口を掠め、体勢を崩したまま石段へと叩きつけられる。
「リアナちゃん!」
ミミは迷いなく駆け寄り、震える指で魔法陣を描いた。
「《防御結界》!」
光の膜がリアナを包み込み、追撃しようとした魔物の爪を弾き返す。
ミミはそのまま結界の中で両手を重ね、小さく祈るように呟いた。
「《癒しの手》……お願い、リアナちゃんを助けて……!」
温かな光が傷口を包み込み、裂けた皮膚がみるみる塞がっていく。
その様子を確認したセイは立ち上がり、魔物へと向き直った。
「ええ度胸しとるのう……わしの大事な仲間に手ぇ出したんじゃ。覚悟はできとるな?」
左手を前に突き出し、低く呟く。
「《威圧》――じゃ!」
ドン、と空気が重く震えた。
圧倒的な威圧に呑まれ、グリムウィングは悲鳴めいた羽音を立て、天井へ逃れようともがく。
「逃がすかい!」
セイは地面に転がる石を拾い上げ、軽く放った。
石は魔力をまとい、音速の弾丸のように魔物へと突き刺さる。
鈍い衝撃音が響き、グリムウィングは地面に叩き落とされ、そのまま動かなくなった。
戦いが終わり、ミミはすぐにリアナに顔を寄せた。
「リアナちゃん、大丈夫?」
リアナはゆっくりと身を起こし、ミミの手をぎゅっと握った。
「……うん。ミミさんが、すぐに結界で守ってくれたから。
傷も魔法で直せるようになって、ミミさんすごいです」
「でしょっ!」
ミミは誇らしげに胸を張り、「ちゃんと役に立てたんだもん!」と笑う。
リアナはその様子を見つめ、柔らかく微笑んだ。
「ほんとに、ありがとう。ミミさんがいれば安心ですね」
「えっ、えへへ……あ、あのさ、リアナちゃん。
こういうときって……ぎゅーってするじゃないかな、って」
「……え?」
「だから、その、えっと……はいっ、ぎゅーっ!」
ミミは勢いよくリアナに抱きつく。
リアナは一瞬驚きつつも、頬を赤らめて、そっと両腕を回した。
「……ん。ミミさん、あったかい……」
「リアナちゃんも、ふわふわで……えへへ、気持ちいいね。
セイもおいでよ。一緒にぎゅってしよ♪」
少し離れた場所で腰を下ろしていたセイは、苦笑しながら息を吐いた。
「……やれやれ、嬉しい誘いじゃが――この先が、遺跡の最深部のようじゃ。
みなのもの、気を引き締めるぞ」
名残惜しそうに腕をほどきながら、ミミとリアナが声をそろえる。
「はーい!」
「うん、行こう!」
それからしばらく、三人は言葉を控え、慎重に歩を進めた。
やがて視界が開け、遺跡の最深部――薄暗い大広間へと辿り着く。
そこは、冷え切った空気の中、ひときわ強い魔力の気配が、空間に重く漂っていた。
中央に、漆黒の毛並みを持つ巨大な魔物が悠然と立ちはだかっている。
ねじれた二本の角が天へ向かって伸び、赤く輝く双眸が不気味な光を放っていた。
筋骨たくましい体躯は、優に三メートルを超えていた。伝説の魔獣ベヒモスを思わせる威圧感だ。
あまりの存在感に、一行は思わず息をのむ。
「……こ奴が、依頼内容にあった“大型の魔物”か?」
セイが眉をひそめて呟くと、それに応えるように――
「我は魔王四天王、ダルセナ様の右腕――レオナードだ」
低く、よく通る声が大広間に響き渡った。
一歩踏み出すたび、硬い蹄が石畳を打ち、大地が微かに震える。
レオナードはその巨体を誇示するように胸を張り、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「通称レオンとでも呼んでくれたまえ。……そのほうが馴染みやすいだろう?」
「いや、知らんがな!」
セイは即座にツッコミを入れつつ、警戒を緩めぬまま問いかける。
「レオンとやら。この遺跡には何の用で?」
レオナードは鼻で笑い、わずかに首を振った。
「なに、少し探し物をしていただけだ。しかし――どうやら、ここには無かったようだ」
短く息を吐き、レオナードはふと視線をミミへ向ける。
次の瞬間、その目が細まり、表情が凍りついた。
「……その気配……まさか……!」
鋭い視線がミミを捉え、ゆっくりと言葉が続く。
「守護者が、こんなにも無防備で……」
「ミミ、下がれっ!」
セイは即座にミミをかばうように、一歩前へ出た――
◇ ◇ ◇
「えっ、えええええーーーっ!?」
けたたましい声とともに、うさ耳の少女――うさ神がセイの目の前で絶叫していた。
「おお、久しぶりじゃのう。うさ神よ」
「セイさん! っていうか清太郎さん、死んじゃったみたいですね!
いやぁ~、まさか本当に死ぬとは思いませんでしたよ!」
「おい、ちょっと待たれい!
危機的状況になったら、ご都合よくスキルが発現するんじゃなかったのか!?
なんでこうなっとるんじゃ!?」
セイが詰め寄ると、うさ神は「うーん……」と首をかしげ、足をすり合わせる。
「でもでも、大丈夫ですっ!」
うさ神は胸を張り、高らかに言い放った。
「コンティニューは三回までできますから!
これもテンプレ詰め込み勇者の特権です! 特別ですよ、特別!」
「……そ、それはそれでテンプレというか、もうゲームみたいじゃのう……」
「うふふっ、そうでしょ、そうでしょ?
清太郎さんはゲームの主人公ですから!」
うさ神は楽しそうに笑い、耳をぴくりと揺らす。
「なんじゃそれ……まあ、テンプレ詰め込み勇者って時点で、そういうものか……」
呆れた声をよそに、うさ神はふわりと宙へ舞い上がる。
シルクの装いを揺らしながら、楽しげに足をぱたぱたと動かす。
「んふふ~♪
大丈夫ですよ、清太郎さんなら!
こういうのは、“えいっ”てやって、“どーん!”ってなって、なんとかなっちゃいますから!」
完全に他人事といった調子で軽やかに言い放ち、くるりと一回転。
人差し指をぴんと立てた。
「じゃ、死んじゃう十分前に戻りますからね~♪」
うさ神がぱちんと指を鳴らした瞬間、少女の背後で空間が音を立ててひび割れ始めた。
次の瞬間、足元が崩れ――
「ぐああああああっ!?」
まばゆい光に包まれながら、セイは絶叫とともに宙へと放り出される。
その様子を見送りながら、うさ神は小さく肩をすくめて呟いた。
「……そう毎回、都合よく思い出せるわけじゃないみたいですね」
◇ ◇ ◇
「……やれやれ、嬉しい誘いじゃが――この先が、遺跡の最深部のようじゃ。
みなのもの、気を引き締めるぞ」
名残惜しそうに腕をほどきながら、ミミとリアナが声をそろえる。
「はーい!」
「うん、行こう!」
その瞬間、セイは何かを思い出したように、ぴたりと動きを止めた。
表情が凍りつき、頬から一気に血の気が引く。
背中を、冷たい汗がつっと伝った。
「待て、待て待て、ミミ、リアナ!
この先はダメじゃ! わしの危険センサーが、びんびん反応しとるんじゃ!」
二人の腕をがしっと掴み、その場に引き戻す。
「え、ええっ!?
せっかくここまで来たのに、あとちょっとで最深部だよ~?」
ミミが不満げに頬を膨らませる。
「そうよ、セイ。
ここまで来て引き返すなんて……理由くらい、教えてくれてもいいじゃない」
リアナも眉をひそめるが、セイは必死に首を振った。
「とにかく、今は戻るぞ!ギルドに報告じゃ!
あそこに長居すれば……わしらの命が、何個あっても足りんわい!」
その形相と、尋常ではない冷や汗に、ミミとリアナもようやく事態の深刻さを悟る。
セイに腕を引かれ、一行は足早に遺跡の通路を引き返していた。
来た道を戻っているだけのはずなのに、空気は重く、背後に何かの気配を感じるような錯覚すらある。
「セイ……本当に、何があったの?」
肩越しに問いかけるリアナに、セイはちらりと振り向き、首を横に振った。
「今はまだ話せん。
じゃが……あのまま奥に進んでおったら、わしら三人、今ごろはこの世におらんかったじゃろうな……」
「そ、そんなに……?」
ミミが不安げに、セイの背中にしがみつきながら小さく声を漏らす。
「うむ……“あれ”は……いかん。
“テンプレ”の範囲を、完全に超えとった……」
「テンプレの……範囲?」
一瞬ぽかんとしたリアナは、すぐにため息をついた。
「もう……またそういう意味不明な言い方して……」
それきり三人は、言葉少なに歩き続けた。
遺跡から数時間。
ようやく空気に安堵が戻り始めた頃、川辺の小さな開けた場所で、腰を下ろすことにした。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】15(+1)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:ちょっと高(リアナを口実にセイとぎゅってしたかった)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。結界、回復魔法の複数回の使用で魔力枯渇気味
- 補足:魔法で仲間をきちんと癒やせたことで、ヒーラーとしての自信が芽生えている
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:ちょい高めの中(大事な仲間の言葉に少しドキッとした)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。ミミの“ぎゅーっ”により内心動揺中
- 補足:ミミとの姉妹のような絆を育んでいる(と自分では思っている)
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しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。
それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、
ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。
それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




