第13話 受付嬢カレンの催促
「おはようございます。リアナさん」
朝の澄んだ空気の中、モフルは毛並みを丁寧に整えながら、きっちりと頭を下げた。
その所作は驚くほど落ち着いていて、小さな体からは想像しづらいほど様になっている。
この短期間で自分の居場所を真剣に考えた結果、どうやら“執事”というポジションに落ち着こうとしているようだ。
気づけば、手つかずだった部屋や家具まで磨き上げられ、家の中は見違えるほど整っている。
それどころか、とりあえず外に放り出しておいた“特級呪物のカーテン”や“謎の何か”まで、いつの間にかきれいさっぱり処分されていた。
「……あれ、どうやって処理したの?」
ミミが不思議そうに尋ねたこともあったが、モフルはただ微笑み「適切に対処いたしました」と答えただけで、それ以上は語らなかった。
リアナはというと、すっかりモフルの虜になっていた。
夜になると迷うことなくモフルを抱きしめ、そのまま眠りにつく。
「ふわふわで幸せ……」
そう呟きながら頬ずりするのが、いつの間にか習慣になっていた。
そしてもう一人――問題はミミだ。
朝になれば、決まってセイの布団に潜り込み、腕にしがみついたまま眠っている。
淡い色合いの、身体にぴったりとした薄手のパジャマ姿。
「ふわぁ……セイ、おはよ……」
目を覚ましても、頬を寄せたまま離れようとしない。
嬉しいような、困ったような――
「ミミよ。ワシが本当はおじいちゃんだから良いものの……そうでなければ、どうなっていたことやら」
小さくぼやきながらも、腕を振りほどく様子はなかった。
「ねえ、セイ? どうなるの?」
「どうもならん!」
「え~、そうなの? ざんねん……」
こうして家の中では、穏やかでありながらも、どこか騒がしい日々が続いていた。
◇
――だが、ある日のこと。
「セイさん、お待ちしてました!」
ギルド前に差しかかった瞬間、やけに張りのある声が飛んできた。
受付嬢のカレンが、ここぞとばかりにカウンター越しから身を乗り出し、大きく手を振っている。
「……む? なんじゃ、やけに騒がしいのう。ワシ、また何かやらかしたかのう?」
ぱっと見はいつもの愛想のいい笑顔。
しかし、よく見れば――目だけが、まったく笑っていない。
「以前お願いしていた『遺跡調査任務』ですが……そろそろお願いできますよね?」
「あ~……その件、すっかり忘れておったわー!」
セイはわざとらしく頭を抱えてのけぞった。
ミミとリアナが、そろって呆れた視線を向ける。
「はぁ……家の改修ばっかり気にして、依頼のことなんて完全に抜けてたんでしょ?」
「うむ。その通りじゃ」
セイはあっさり認める。
「半日くらいで日銭が稼げる簡単な依頼ばかりこなしておるうちに、気づけば忘れてしもうとったわい」
そのやり取りを見て、カレンが軽く咳払いをする。
「で、お家のことはもう落ち着いたのでしょうか? でしたら、早々に――」
「分かっておるわい。今から向かうところじゃ」
セイが手をひらひらと振って答えると、カレンは待っていましたと言わんばかりに、カウンターの下から一枚の証書を取り出した。
「それと、ちょうどいい機会なのでご報告です。
以前お伝えしていた、セイさんのEランク昇格推薦ですが……正式な回答が届きました」
差し出された証書を受け取る。
「おめでとうございます。セイさんのEランク昇格が、正式に認められました!」
ミミとリアナが顔を見合わせ、思わず声を弾ませる。
「やった!」
「おめでとうございます!」
小さく手を叩きながら喜ぶ二人を見て、カレンは満足そうにうなずいた。
「次はいよいよDランクですね。昇格には実績だけでなく試験もありますから――これまで以上に、しっかり頑張ってください」
その言葉を受けて、セイはふと何かを思い出したように、ぽんと手を打った。
「そうじゃ、ちょうどいい機会じゃな。
ミミ、おぬしも魔法を覚えたことじゃし、この際、正式にギルドへ登録してはどうじゃ?」
「えっ、わたしも?」
突然の話にミミは目を丸くする。だが、次の瞬間にはぱっと表情が明るくなり、身を乗り出した。
「うん、やるやる! 正式に冒険者になれるんだよね?」
「うむ。いつまでも仮登録のままというわけにもいかんじゃろ」
ミミは勢いよくリアナの手を取ると、嬉しさを隠しきれない様子で声を弾ませる。
「リアナちゃん、一緒に手続き見ててね!」
リアナもつられるように笑顔になり、「うん、もちろん」とミミの手をやさしく握り返した。
その様子を見ていたカレンは、柔らかな笑みを浮かべながら、机の引き出しから小ぶりな魔石を取り出す。
セイのときに使ったものより一回り小さく、可愛らしい装飾が施されていた。
「では、ミミさん。こちらの魔石に手をかざしてください。ステータスの確認を行いますね」
「は、はいっ!」
ミミは少し緊張した面持ちで、そっと両手を魔石の上にかざした。
すると、魔石が淡い桃色の光を放ち、ふわりとステータス情報が浮かび上がる。
【名前】ミミ
【職業】未登録(適性:ヒーラー)
【レベル】6
【スキル】癒しの手
【属性傾向】光/水
【適性魔法】回復・浄化・支援・結界
【称号】迷子の天使/仮のお名前
「わあ……」
思わず声を漏らし、ミミは自身のステータス表示をじっと見つめる。
「すごい……私、ちゃんと“ヒーラー”なんだね!」
胸の前で両手をぎゅっと握り、小さく跳ねるように喜んだ。
それを見て、カレンが穏やかな笑みを浮かべながら補足する。
「ええ、しかも回復だけでなく、浄化や結界まで適性があるなんて、とても珍しいんですよ。
ミミさんなら、きっと立派なヒーラーになれますね」
「ほんとに? 私、ちゃんとみんなの役に立てるんだね!」
ミミの瞳がきらきらと輝く。
そのまま隣にいたリアナの手を取って、嬉しそうにぶんぶんと上下に振った。
「セイ、リアナちゃん、これからも一緒によろしくね!」
リアナはその手をしっかりと握り返し、やさしく微笑む。
「ふふ、こちらこそ。ミミさん、一緒にたくさん思い出を作りましょうね」
少し離れたところで、セイは腕を組み、満足そうに鼻を鳴らした。
「うむ、改めて頼もしい仲間が増えたわい。
……じゃが、ワシに無理はさせんでくれよ? 最近は若いもんのペースに付いていくのが大変でな」
ミミは嬉しそうに笑い、リアナも思わず吹き出した。
「セイ、最近ほんとにおじいちゃんに見えてきたよ」
その言葉に、セイがむぅっと口を尖らせた、ちょうどそのときだった。
カレンが手元の書類に視線を落としたまま、自然に会話へ割って入る。
「そういえば……パーティ名はどうされますか?
正式にパーティを組まれていると伺っていますが、まだ登録が済んでいないようですね」
セイは腕を組み直し、小さく唸った。
「む……そういえば決めておらなんだな。どうするかのう」
すると、ミミが勢いよく手を挙げる。
「じゃあ、『もふもふ絶対正義団』とかどうかなっ!」
リアナはすかさず両手を打ち合わせて、目を輝かせる。
「さすがですミミさん! 最高に可愛いです!」
「待て、待てい!」
セイが両手を広げて大げさに制止した。
「そんな名前では、どう見ても怪しい教団じゃろうが!
もう少しこう……普通に勇ましいものはないんか!」
リアナは呆れたようにセイを睨みつけ、ぷいっと顔をそらして言い放つ。
「文句ばっかり言うなら、あなたがいい名前出しなさいよ!」
セイは再び腕を組み、顎に手を当てて考え込んだ。
「……ふむ、では“おじいちゃんと愉快な仲間たち”とか――」
「却下っ!!」
ミミとリアナが息ぴったりに即座に否定の声を上げ、ギルドの空気がぱっと和やかな笑いに包まれた。
その様子を見て、カレンは楽しそうにくすくすと笑いながら話をまとめる。
「決まったら、また手続きを進めますので。ゆっくり考えてくださいね」
「そうじゃのう。決まったら改めて報告するわい。では、行くとするか」
セイが話を切り上げようとした、その瞬間だった。
カレンが、きっちりと釘を刺すように声をかけてくる。
さっきまでの和やかな雰囲気が嘘のように、その目は冷たく光っていた。
「では、依頼から“随分と時間が経っています”ので――改めて内容を確認させてもらいますね?」
セイは苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに頷く。
カレンは手元の書類を手際よく整えると、事務的な口調で告げた。
「今回の調査は、北の古代遺跡です。
最近、遺跡周辺に大型の魔物が住み着いているという噂がありまして。
その真偽の確認と、遺跡内部の劣化状況、生態系の調査をお願いします」
「大型の魔物とな……? どれほどの大きさなのじゃ?」
「目撃した冒険者の証言によると、おそらく三メートル級とのことです」
「ふむ……化け物退治になるかもしれんな」
セイは鼻を鳴らし、肩を軽く回した。
「では早速、Eランクパーティとしての初仕事に向かうとしようではないか!」
「えええ、もう行くの……!? おうちでのんびりしたいよ……」
ミミはぐずぐずと袖を引っ張るが、リアナは小さくため息をつき、背筋を伸ばす。
「いいわよ。せっかく正式なパーティになったんだから、ちゃんと実績を作らないとね」
「うむ、わかっておる。わかってはおるのじゃが……」
セイは一瞬、遠い目をした。
「ワシはただ……スローライフを送りたかっただけなんじゃがのう……」
「言ってることと、行動が真逆なんだけど……」
そうして、カレンから調査依頼書と必要な調査道具を受け取る。
結局、一行は改めて準備を整えるため、宿へ戻ることになった。
こうして、正式なEランクパーティとしての初任務――
北の古代遺跡の調査が、いよいよ始まろうとしていた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】11
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:ちょっと高(セイの布団はもはや自分の特等席)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:旅人風の白いワンピースを装備。正式にギルド登録できて有頂天
- 補足:「立派なヒーラーとして認めてもらう」ことを目標にしている
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:中(ちょっとツン気味が多め)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。正式にパーティに加入して少し興奮気味
- 補足:ミミを姉のように慕い、ミミの言うことには基本的に肯定気味。ちょっとあぶない
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
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それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




