表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/33

第12話 スローライフとは?

 その日の午後。


 三人と一匹(?)は、新しく整えた玄関先の縁台に腰を下ろし、焼きたてのパンをかじっていた。


「うむ。このリンゴのパンは、やはりうまいな」


「セイ、またそれ~?」

 ミミがくすっと笑う。


「いいではないか。ほれ、ミミはチーズパンじゃ。リアナはどうする?」


「わたしは干し肉のやつ。このあと体を動かしたし、たんぱく質は大事だからね」


「えらい!」

 ミミが素直に拍手する。


 その横で、モフルは縁台の端にちょこんと座り、パンのかけらを両手らしきもので持って、もぐもぐしていた。

 霊体のはずだが、どう見ても普通に食べている。


「……うん。これ、おいしい……!」


「……モフル。おぬし、味が分かるのか?」

 セイが半眼で尋ねる。


「気のせい、なのかな……。でも、ちゃんと味がするんだよ。不思議だね」


「いやいや、味以前に……つかんで食べてるのはどうなの?」

 リアナが即ツッコむ。


「うむ。霊的に見て、明らかにおかしい……」

 セイも真顔で頷いた。


「でもさ」

 ミミが、パンを持ったまま口を開く。


「こうして、みんなで食べて、笑って、暮らして……これが“スローライフ”なんだね!」


「おぬし、それっぽくまとめたな」


 縁台に、笑い声がこぼれる。

 少し軋む屋根の下、穏やかな午後の空気がゆっくりと流れていた。


 ただし――セイの頭の中には、ひとつ引っかかる疑問が残っている。


「……で、結局、スローライフとは……何をするんじゃ?」


 ◇


 次の日の朝。


 差し込む陽光に照らされた室内は、もはや廃墟の面影もない。

 床には織物のマット、白く塗られた壁、棚の上にはミミが拾ってきた野の花が飾られていた。


「おはよーっ!」


 元気いっぱいの声とともに、ミミが跳ね起きた。


「ふわぁ……お、おはようございます……」


 リアナはまだ眠たげな様子で、髪を指先で整えながら台所の椅子に腰を下ろす。


「モフルは、まだ寝とるんか?」


「ううぅん……あと、五分ぅ……」


 布団の中で、もふもふの塊が転がった。

 霊とは、かくも惰眠をむさぼるものなのか――セイはしみじみと紅茶をすする。


 朝食はミミ特製のハーブパンと目玉焼き。

 焼き加減の確認はリアナ、コーヒーを淹れるのはセイという分担になっていた。


「……なんか最近、わしの役割が完全に“台所のおじいちゃん”になっとらんか?」


「似合ってるから問題ないと思うよ?」

 ミミがにっこり笑う。


「今日のパンも、ふわふわでおいしいよ」


 モフルがぱたぱたと空中を漂いながら喜ぶ。


「……で、今日の予定なんじゃが」

 セイがパンをちぎりながら切り出す。


「とくに、何もない」


「……おお……?」


「依頼は入っておらん。家事も昨日のうちに終わっとる。つまり今日は――完全オフじゃ!」


「オフだーっ!!」

 ミミが両手を上げて喜ぶ。


「ふぅ……やっと何もない日が来たのね」

 リアナも肩の力を抜いた。


「で、セイ。なにするの?」


「……それがのう。考えてみたんじゃが……」


 セイは真面目な顔で言った。


「スローライフって、何をすればいいんじゃ?」


「え?」


「いや、本気で。暇な日って、みんな何しとるんじゃ? 洗濯も済んだ、買い出しも終わった……散歩か? 延々と散歩するのか?」


「スローライフって、“やることがない時間”を楽しむんだよ?」


「……むずかしいのう」


「わたし、縁側で本読んでみる!」


 ミミは絵本を抱えてぱたぱたと移動する。


「私は、庭でハーブの手入れでもしよっかな」


 リアナが腰にタオルを巻いて外に出ていった。


「モフルは……とりあえず……お昼寝……」


「いや、お主はだいたいいつも寝とるじゃろ」


 ひとり残されたセイは、少し考えてから縁側に腰を下ろした。

 穏やかな風。草の匂い。木の葉の揺れる音。ミミの読書のページをめくる音。

 どれも静かで、どこか心地よい。


「……うむ、悪くない」


 セイは小さく息を吐き、ぽつりと呟いた。


「転生して、テンプレ詰め込まれて……ようやく得た“暇な時間”。案外、贅沢なものじゃのう」


 いつの間にか、ミミが隣に座っていた。


「セイ、なに考えてたの?」


「……スローライフって、結局は“誰と過ごすか”なんじゃろうな、と思っての」


 ミミは指先をそわそわと弄びながら視線を伏せる。

 ほんの少し迷い、そっとセイに身を寄せて肩にもたれかかる。

 

「うん。わたしも、そう思う。

 それに……モフルも、ここにいてもいいよね?」


「もちろんじゃ。

 ……リアナも、なんだかんだ言うて、こういう時間は嫌いじゃなかろう?」


 するとすぐに――


「嫌いじゃないけど、勝手に決めつけないでくれる!?」


 リアナが草まみれの姿でばたばたと駆け戻ってきた。


「……で、その恰好、なにしてたんじゃ?」


 セイが意地悪そうに聞くと、リアナはぷいっと顔をそむける。


「庭の様子見てただけよ。……石につまずいて、そのまま草むらに転がったけど」


「おつかれさまです、リアナさん……」


 モフルがふよふよと飛んできて、肩にぺたりと着地する。


 その日、四人(?)は特に何もせず、まったりと時間を過ごした。


 パンをつまみ、縁側でうたた寝し、草花を見て笑い合う。

 ときどきセイが「暇じゃのう」と言いながら、次の晩飯をどうするか考える。

 ミミは魔法の練習をしながら「おやつに合う魔法ってないかなぁ」と真面目に悩み、

 リアナは「それ、魔法の使い方としてどうなんですか、ミミさん」とツッコミを入れ、

 モフルはテーブルの下で丸くなる。


 ――そんな、ゆるくて、どこか騒がしくて、でもあたたかい一日。


「……わし、こういうのも……けっこう好きかもしれん」


 セイは小さく笑った。


 こうして、テンプレ詰め込み勇者と、四人の仲間たちのスローライフが、

 正式に、そしてようやく――始まったのであった。


(……たぶん)


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。


「――お金がないんじゃあああああああ!!」


 鳥のさえずりと共に、セイの怒声が屋根を突き抜けた。


「せ、セイ!? どうしたの!?」


「財布が、空じゃ! まったくの空っぽじゃあああ! この前まではちゃんとあったのに!」


「えぇぇ!? 昨日、ハーブの苗と……あとおやつ買ったくらいだよね?」


「うむ。あと、ローン支払いが今月分引き落とされておる……!」


「げっ……リアナちゃーん! 何とかならないの!?」


「無理無理無理! 現金残高、銅貨二枚! それでなに買う気!?」


 セイが震える声で呟いた。


「……やはり、スローライフなど幻想だったんじゃ……」


 ――こうしてまた、依頼をこなす日々が始まっていく。


 スローライフも、金がなければただの無職。

 でも、帰る家と、笑い合う仲間がいれば――それもまた、悪くない。



────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】11(±0)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:ちょっと高(素直に甘えるのが少し恥ずかしくなってきた)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:ラフなワンピースを装備。モフルに癒され中

 - 補足:「おやつに合う魔法」を真剣に研究中。そもそもおやつに合う魔法の意味が分からない


・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)

 - 好感度:中(パーティの一員として奮闘)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:剣士っぽい作業着を装備。草むらに転がり落ちて全身草まみれ。若干筋肉痛。

 - 補足:表情が以前より柔らかくなりつつある。口では文句を言うが、スローライフを内心かなり楽しんでいる。


・モフル(もふもふ幽霊)

 - 状態:幽霊

 - 補足:正式に家族(?)の一員となり、肩乗りとお昼寝ポジションの確保に余念がない。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ