第12話 スローライフとは?
その日の午後。
三人と一匹(?)は、新しく整えた玄関先の縁台に腰を下ろし、焼きたてのパンをかじっていた。
「うむ。このリンゴのパンは、やはりうまいな」
「セイ、またそれ~?」
ミミがくすっと笑う。
「いいではないか。ほれ、ミミはチーズパンじゃ。リアナはどうする?」
「わたしは干し肉のやつ。このあと体を動かしたし、たんぱく質は大事だからね」
「えらい!」
ミミが素直に拍手する。
その横で、モフルは縁台の端にちょこんと座り、パンのかけらを両手で持って、もぐもぐしていた。
霊体のはずだが、どう見ても普通に食べている。
「……うん。これ、おいしい……!」
「……モフル。おぬし、味が分かるのか?」
セイが半眼で尋ねる。
「気のせい、なのかな……。でも、ちゃんと味がするんだよ。不思議だね」
「いやいや、味以前に……つかんで食べてるのはどうなの?」
リアナが即ツッコむ。
「うむ。霊的に見て、明らかにおかしい……」
セイも真顔で頷いた。
「でもさ」
ミミが、パンを持ったまま口を開く。
「こうして、みんなで食べて、笑って、暮らして……これが“スローライフ”なんだね!」
「おぬし、それっぽくまとめたな」
縁台に、笑い声がこぼれる。
少し軋む屋根の下、穏やかな午後の空気がゆっくりと流れていた。
ただし――セイの頭の中には、ひとつ引っかかる疑問が残っている。
「……で、結局、スローライフとは……何をするんじゃ?」
◇
次の日の朝。
差し込む陽光に照らされた室内は、もはや廃墟の面影もない。
床には織物のマット、白く塗られた壁、棚の上にはミミが拾ってきた野の花が飾られていた。
「おはよーっ!」
元気いっぱいの声とともに、ミミが跳ね起きた。
「ふわぁ……お、おはようございます……」
リアナはまだ眠たげな様子で、髪を指先で整えながら台所の椅子に腰を下ろす。
「モフルは、まだ寝とるんか?」
「ううぅん……あと、五分ぅ……」
布団の中で、もふもふの塊が転がった。
霊とは、かくも惰眠をむさぼるものなのか――セイはしみじみと紅茶をすする。
朝食はミミ特製のハーブパンと目玉焼き。
焼き加減の確認はリアナ、コーヒーを淹れるのはセイという分担になっていた。
「……なんか最近、わしの役割が完全に“台所のおじいちゃん”になっとらんか?」
「似合ってるから問題ないと思うよ?」
ミミがにっこり笑う。
「今日のパンも、ふわふわでおいしいよ」
モフルがぱたぱたと空中を漂いながら喜ぶ。
「……で、今日の予定なんじゃが」
セイがパンをちぎりながら切り出す。
「とくに、何もない」
「……おお……?」
「依頼は入っておらん。家事も昨日のうちに終わっとる。つまり今日は――完全オフじゃ!」
「オフだーっ!!」
ミミが両手を上げて喜ぶ。
「ふぅ……やっと何もない日が来たのね」
リアナも肩の力を抜いた。
「で、セイ。なにするの?」
「……それがのう。考えてみたんじゃが……」
セイは真面目な顔で言った。
「スローライフって、何をすればいいんじゃ?」
「え?」
「いや、本気で。暇な日って、みんな何しとるんじゃ? 洗濯も済んだ、買い出しも終わった……散歩か? 延々と散歩するのか?」
「スローライフって、“やることがない時間”を楽しむんだよ?」
「……むずかしいのう」
「わたし、縁側で本読んでみる!」
ミミは絵本を抱えてぱたぱたと移動する。
「私は、庭でハーブの手入れでもしよっかな」
リアナが腰にタオルを巻いて外に出ていった。
「モフルは……とりあえず……お昼寝……」
「いや、お主はだいたいいつも寝とるじゃろ」
ひとり残されたセイは、少し考えてから縁側に腰を下ろした。
穏やかな風。草の匂い。木の葉の揺れる音。ミミの読書のページをめくる音。
どれも静かで、どこか心地よい。
「……うむ、悪くない」
セイは小さく息を吐き、ぽつりと呟いた。
「転生して、テンプレ詰め込まれて……ようやく得た“暇な時間”。案外、贅沢なものじゃのう」
いつの間にか、ミミが隣に座っていた。
「セイ、なに考えてたの?」
「……スローライフって、結局は“誰と過ごすか”なんじゃろうな、と思っての」
ミミは指先をそわそわと弄びながら視線を伏せる。
ほんの少し迷い、そっとセイに身を寄せて肩にもたれかかる。
「うん。わたしも、そう思う。
それに……モフルも、ここにいてもいいよね?」
「もちろんじゃ。
……リアナも、なんだかんだ言うて、こういう時間は嫌いじゃなかろう?」
するとすぐに――
「嫌いじゃないけど、勝手に決めつけないでくれる!?」
リアナが草まみれの姿でばたばたと駆け戻ってきた。
「……で、その恰好、なにしてたんじゃ?」
セイが意地悪そうに聞くと、リアナはぷいっと顔をそむける。
「庭の様子見てただけよ。……石につまずいて、そのまま草むらに転がったけど」
「おつかれさまです、リアナさん……」
モフルがふよふよと飛んできて、肩にぺたりと着地する。
その日、四人(?)は特に何もせず、まったりと時間を過ごした。
パンをつまみ、縁側でうたた寝し、草花を見て笑い合う。
ときどきセイが「暇じゃのう」と言いながら、次の晩飯をどうするか考える。
ミミは魔法の練習をしながら「おやつに合う魔法ってないかなぁ」と真面目に悩み、
リアナは「それ、魔法の使い方としてどうなんですか、ミミさん」とツッコミを入れ、
モフルはテーブルの下で丸くなる。
――そんな、ゆるくて、どこか騒がしくて、でもあたたかい一日。
「……わし、こういうのも……けっこう好きかもしれん」
セイは小さく笑った。
こうして、テンプレ詰め込み勇者と、四人の仲間たちのスローライフが、
正式に、そしてようやく――始まったのであった。
(……たぶん)
◇ ◇ ◇
翌朝。
「――お金がないんじゃあああああああ!!」
鳥のさえずりと共に、セイの怒声が屋根を突き抜けた。
「せ、セイ!? どうしたの!?」
「財布が、空じゃ! まったくの空っぽじゃあああ! この前まではちゃんとあったのに!」
「えぇぇ!? 昨日、ハーブの苗と……あとおやつ買ったくらいだよね?」
「うむ。あと、ローン支払いが今月分引き落とされておる……!」
「げっ……リアナちゃーん! 何とかならないの!?」
「無理無理無理! 現金残高、銅貨二枚! それでなに買う気!?」
セイが震える声で呟いた。
「……やはり、スローライフなど幻想だったんじゃ……」
――こうしてまた、依頼をこなす日々が始まっていく。
スローライフも、金がなければただの無職。
でも、帰る家と、笑い合う仲間がいれば――それもまた、悪くない。
────────────────
▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】11(±0)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:ちょっと高(素直に甘えるのが少し恥ずかしくなってきた)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:ラフなワンピースを装備。モフルに癒され中
- 補足:「おやつに合う魔法」を真剣に研究中。そもそもおやつに合う魔法の意味が分からない
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:中(パーティの一員として奮闘)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:剣士っぽい作業着を装備。草むらに転がり落ちて全身草まみれ。若干筋肉痛。
- 補足:表情が以前より柔らかくなりつつある。口では文句を言うが、スローライフを内心かなり楽しんでいる。
・モフル(もふもふ幽霊)
- 状態:幽霊
- 補足:正式に家族(?)の一員となり、肩乗りとお昼寝ポジションの確保に余念がない。
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
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