第11話 モフル
夜の闇が、静かに家を包み込んでいた。
セイ、ミミ、リアナ――三人が廃墟だったこの建物を“我が家”と呼ぶようになってから初めての夜。
ダイニングに置かれた簡素な卓を囲み、他愛のない話を交わしている。
外では風に揺れた木々が、窓を叩くように音を立てていた。
それに混じって、誰も歩いていない床板が、ミシ……ミシ……と、不意に軋む。
「もうこんな時間か……ワシは歳じゃでな」
セイはそう言って肩をすくめると、早々に自室へ引っ込んでいった。
「身体は若いじゃん」
ミミが軽くツッコミを入れ、くるりと背を向けて自分の部屋へ向かう。
残されたリアナも、ため息をつきながら自分の部屋へ戻ろうと扉に手をかけ――ふと動きを止めた。
昼間は掃除に補修にと、あれほど張り切っていたためか、気にもならなかった。
けれど、いざ夜になって一人きりの部屋で過ごすと考えた途端、雰囲気は一変する。
リアナは扉から手を離し、廊下を引き返す。
控えめなノックが、ミミの部屋の扉を叩いた。
「……ミミさん、まだ起きてますか?」
「う、うん。リアナちゃん?」
「……その……やっぱり、怖くて。一緒に寝てもらってもいいですか?」
扉越しの声を聞くと、ミミはすぐに立ち上がり、扉を開けた。
リアナは足先を落ち着きなく動かしながら、気まずそうに視線をそらして立っている。
「えへへ……だよね。わたしもさっき、窓の外を何度も見ちゃって……誰かいる気がして。
ちょっと怖いかも」
「……やっぱり、そうですよね。絶対……なんかいる気がして、落ち着かなくて……」
二人はそのまま並んで布団に入り、ぎゅっと身を寄せ合った。
「ミミさん、手……繋いでもらってもいいですか?」
ミミは布団の中、リアナの手をそっと取り、指を絡める。
「……あったかいね」
その声に、わずかに落ち着きは取り戻すものの、状況そのものが変わるわけではない。
カサ……ミシ……と、家のどこかから微かな音が聞こえるたびに、二人はぎゅっと手に力を込めた。
――夜も更けた頃。
静まり返った家の中に、ぺた……ぺた……と微かな音が響いた。
「……ミミさん、起きて……」
リアナが小さな声でミミの肩を揺さぶる。
「ん……? リアナちゃん……?」
「今、何かが……歩くみたいな音、聞こえたの……」
ミミは寝ぼけ眼のまま耳を澄ませた。
――ぺた……ぺた……
確かに、家のどこかで、何かが動いているような音がする。
「……や、やっぱり聞こえるよね……近づいてきてる!」
――キィ……
扉が、わずかに開いた。
二人は恐る恐る布団をめくり、ゆっくりと扉のほうを覗き込む。
ゆらり、と白い影が部屋の中へ入ってきた。
「――ぎゃあああああああ!!」
「いやあああああああああ!!」
――その瞬間。
「わっ、うわああああっ!」
今度は白い影が、びっくりして情けない悲鳴を上げ、そのままぽてっと床に転がり落ちた。
「び、びっくりしたぁ……いきなり大きな声ださないでよぉ……」
子どものような泣き声が、静まり返った室内に響く。
「ミ、ミミさん……い、今の声……?」
「う、うん……ちょっと……見てみよう……?」
そこにいたのは――
丸い耳。もこもこした体。
つぶらな瞳に、光が反射してキラリと輝いている。
「……えっ、なにこれ」
「ぬいぐるみ……?」
「いや、でもさっきは浮いてたよ……」
その“それ”は、ふわふわのもふもふで、手のひらサイズの動物のようだった。
「こ、怖くないよ……ぼく、怖くないから……」
「……え? 幽霊なのに、普通にしゃべるんだ?」
ミミは首をすくめながら、思わずツッコミを入れる。
「だって……ずっと誰かと話したかったんだ。ひとりぼっちで、寂しくて……」
リアナは小さく息を吐き、肩の力を抜いた。
「理屈がかわいすぎて……なんかもう、それでいい気がする……」
ミミが一歩近づくと、“それ”は、さらに涙を浮かべた。
「わたし、こわくないよ……ごめんね、びっくりしちゃって……でも……もふもふで、かわいくて……」
「か、かわいい……?」
ふわふわ幽霊(仮)は、目元をぬぐう仕草をした。
――ように、見えた。
「えっと……名前とか、あるの?」
「ないんだ……みんな、名前くれる前に逃げちゃうから……」
ミミがにっこり笑った。
「じゃあ、つけてもいい?」
「……いいの?」
「モフル。君は今日から、モフルだよ!」
「モフル……ぼく、モフルなんだ……!」
幽霊――いや、“モフル”は、ぽよんと嬉しそうに跳ねた。
リアナが、ぽつりと呟いた。
「……幽霊に名前つける流れ、初めて見たわ……」
◇
翌朝。
セイはダイニングのテーブルに腰を下ろし、湯気の立つスープをゆっくりと啜っていた。
そこへ、布団から引きずり出されてきたような寝ぼけ眼のリアナとミミが現れる。
その肩には、もふもふのモフルがちょこんと乗っていた。
「セイ、おはよー!」
朝から元気いっぱいに、ミミが手を振る。
「うむ、おはよう。……で、その肩の生き物は何じゃ?」
ミミは胸を張って宣言した。
「モフルだよ! 幽霊だけど、すっごくいい子なの!」
「……うむ。まあ、見た目は癒し系じゃな」
ミミはくるりとモフルに向き直り、にっこりと笑う。
「よかったね、モフル。セイにも会えて!」
「うんっ! いっぱい話せて、すごく楽しかったんだ!」
モフルは嬉しそうにふわふわと宙に浮かび、小さくくるりと回ってみせた。
セイはそれを横目に、スープを一口飲み込み、しみじみと呟く。
「……これが、スローライフ、なのかのう」
そして――
朝の陽光が差し込む居間。
毛布の上にちょこんと座ったモフルが、もふもふの体を小さく揺らしながら、自分の身の上を語っていた。
「……だから、ぼくはここに取り残されて……ずっと、ひとりでいたんだ……」
テーブルを囲むのは、セイ、ミミ、リアナの三人。
それぞれ湯気の立つハーブティーを手に、静かに耳を傾けている。
「しかし……そもそも、なんじゃお主は。見た目はどう見てもぬいぐるみじゃが?」
「うぅ……ぼく、もとは魔獣だったの。ちっちゃくて、弱いやつで……」
「それにしては、ずいぶん可愛い方向に振り切ってない?」
リアナの問いに、モフルはこくりと頷く。
「怖がられるのが、嫌で……変身魔法を練習してたの」
「変身魔法……ああ、使い魔系だと、たまに聞くわね」
リアナが納得したように頷くと、ミミが身を乗り出した。
「じゃあ、その姿って……」
「練習してた“理想の姿”……だったんだけど……途中で魔力が尽きて……」
モフルは言葉を詰まらせ、小さな涙をこぼした。
「……そのまま、死んじゃったみたいで……」
その姿は、まるで泣き出した小動物のようだった。
「でも、変身が中途半端だったから……幽霊になっても、この姿のままで……」
「うぅ……モフル、かわいそう……」
ミミはうるんだ瞳のまま、そっとモフルを抱きしめる。
「ふわっ!? え、なにこれ……あったかい……」
「霊体のくせに、温もりがあるのか……?」
「触ってると、なんか元気になる感じする……」
「ヒーラー適性がありそうじゃな……」
セイが妙に真剣な顔で観察する。
「モフル、今まで人間と関わったことはあるか?」
「あるけど……みんな、“呪いのぬいぐるみ”とか言って……逃げちゃって……」
「それは……」
「それで、この家に流れ着いて……ずっと、ひとりで……」
リアナは小さく息を吐いた。
「――それって、わたしたちと同じじゃない?」
モフルが目を瞬かせる。
「ミミさんは記憶がなくて、居場所を探してた。セイも、異世界に来てから、どこか独りだった。わたしだって……」
リアナは少し照れたように視線を落とす。
「……自分の居場所がほしくて、二人についてきたんだから」
「リアナ……」
「だから、モフルも……ここにいればいいじゃない」
「……!」
「“住めば都”って、リアナちゃんが言ってた!」
「言ってない!」
一拍の沈黙のあと、セイが深くうなずいた。
「まったく、騒がしいスローライフじゃが……悪くない」
「ふえぇ……ぼく、ここにいて……いいの……?」
「いいに決まっとるじゃろ!」
「じゃあ今日から、四人で一緒だねっ!」
モフルは目を輝かせ、ふわふわと空中に舞い上がる。
「うわっ、浮いた!」
「ふにゃっ!?」
「おい、ワシの頭の上に乗るでない!」
「ふわ~……ふわふわ最高~……!」
――こうして、モフルは家族(?)の一員となった。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】11
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:ちょい高(モフルを素直に受け入れるセイに感謝)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:淡い色のぴったりとした薄手のパジャマを装備。モフルに癒され中
- 補足:幽霊相手でもすぐツッコミを入れる胆力の持ち主
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:中(ミミへの距離感が近い)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:ゆったりしたキャラクターもののパジャマを装備。幽霊怖すぎて背中が痛い
- 補足:モフルは幽霊だけど、可愛さが勝ってしまったらしい(めっちゃモフりたい)
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それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品
『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!
気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、
ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。
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それでは、次回もぜひよろしくお願いします!




