表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/33

第10話 スローライフへの道

「……どうして、こうなった」


 リアナは草むらに立ち尽くし、目の前の建物を見上げていた。

 壁は黒ずみ、屋根は歪み、窓という窓からは不穏な空気が漂っている。


「ふふん、ついにわしらも“家持ち”じゃな!」


「いや、まだ“家”って呼んでいい段階じゃないわよね、これ」


 言い合いをしながらも、三人は掃除道具や補修用品を抱え、作業に取りかかることにした。

 初日の目標は――入り口を確保し、室内状況の確認。


「扉が……開かん。いや、完全に歪んでおるな」


 セイは肩でぐいぐい押してみるが、びくともしない。

 返ってくるのは「ギィ……」という不気味な音だけだった。


「くっ……ならば!」


 勢いよく下がると、渾身の蹴りを叩き込む。


「ふんぬっ!」


 ガンッ、ガンッ!


 無駄に連続で蹴りを入れるセイ。

 その様子を、リアナは腰に手を当て、じとっと見つめていた。


「……まったく、見てられないわね」


 呆れたようにため息をつき、ゆっくりとセイの背後へと歩み寄る。


「そこ、どいて。わたしがやるわ」


 言うが早いか、手袋をきゅっと締め直し、リアナは勢いよく踏み込んだ。


「っはああぁぁッ!」


 ドガァンッ!!


 凄まじい音とともに扉が吹き飛び、内側から大量の埃が噴き出した。


「うわっ、し、視界が……!」

「けほっ、けほっ! 目がぁっ……!」


 咳き込みながら慌てふためく二人の横で、ミミがそっと手を伸ばす。


「……明かり、つけるね!」


 指先にほのかな光が灯り、室内が照らし出される。

 そこに広がっていたのは――想像以上の“廃”そのものだった。


「なにこれ……床、斜めってない?」

「なんか……椅子が全部、同じ方向を向いてるのが……嫌……」

「見なかったことにするのじゃ」


 さらに、天井の梁からぶら下がる布を見つけ、ミミが震える指で指し示す。


「セ、セイ……あれって……カーテン……?」

「……そうじゃな。カーテンということでいこう」


 ひとまず換気をしようと窓を開ける。

 すると、なぜか外から大量のカラスがバサバサと飛び去った。


「……ねえ。これ、絶対なんかあるでしょ、この家」

「うむ。長年の呪詛がこもっておったのじゃ。風通しを良くすれば多少は――」


 セイが言いかけた、そのとき。

 ミミが壁の一角に顔を近づけ、青ざめた声を漏らす。


「ね、ねえ……ここ、何か彫ってる……」


 そこには、小さな文字が刻まれていた。


『ボクハ、ワルクナイ』


「セイ……これはさすがに……」

「……まあまあ。掃除してみれば、案外いい家に化けるやもしれん」

「ねえセイ。わたし、結界……張っておこうか?」

「うむ。頼んだ。念には念を、じゃな」


 結局、その日の作業は窓拭きと家具の搬出で終わった。

 埃まみれの三人は宿へ戻ると、ベッドに倒れ込む。


「…………スローライフって、もっと穏やかなもんじゃないの……?」

「うぅ……お風呂で顔洗ったら、真っ黒だったよぉ……」

「まさか初日で筋肉痛になるとはな……体は若くても、キツイものはキツイ」


 ぐったりしながらも、どこか楽しげな空気が漂っている。


「でもさ……ちょっとずつ綺麗になってくのって、気持ちいいね」

「ふむ。なんといっても、わしらだけの“城”じゃからな!」

「……まだ“廃墟”のままだけどね」


「リアナ! 次は壁の塗り替えじゃ! 見よ、わしが買ってきたローラーを!」

「嫌な予感しかしない!」


 笑い声が、宿の小部屋に響いた。


 ――スローライフへの道は、想像以上にハードモードだった。


 ◇ ◇ ◇


 二週目の改修作業が始まった朝。

 セイは玄関先に仁王立ちしていた。


「――というわけで、本日の目標は“居住空間の確保”じゃ!」


「なんかリーダー感出してるけど、これ、ただの掃除だからね」

 リアナの冷静なツッコミ。

 横ではミミが雑巾を水に浸しながら、元気よく頷いた。


「まずは一部屋だけでも、寝られるようにしたいんだよねっ」

「そうじゃそうじゃ。布団を敷ける床があれば、それはもう立派な家じゃ」

「……ハードル、地面にめり込んでない?」


 セイは意気揚々とローラーを掲げる。


「まずは壁塗りじゃ! この日のために“なんか安かったセット”を買っておいた!」

「それ、完全に地雷パターンのやつ……!」


「わたしもあるよっ! 魔法のホウキ! ちょっとだけ浮くんだよ!」

 ミミが自慢げにホウキを振り回す。

 だが次の瞬間、掃除機モードに切り替わり――


「ぶぉんっ!」


「きゃあっ!? リアナちゃんのスカーフ吸い込んだぁ!」

「返してえぇぇ!! このバカ道具ぉぉおお!!」


 廃墟の中に、掃除という名のドタバタが響き渡る。


 それでも、不思議なもので作業は少しずつ進んでいった。

 壁の苔を削り落とし、正体不明の“カーテン”を外し、床に積もった埃を払う。

 さらに、謎の“何か”がぎっしり詰まった木箱をまとめて外へ運び出す。


 リアナは意外にも手際がよく、ガタついた扉の蝶番を直したり、椅子の脚を器用に補修したりしていた。


「……こういうの、ちょっと好きかも」

「おお、家庭的な面があったのじゃな!」

「やめて。その言い方、全然うれしくないんだけど」


「ふふっ。リアナちゃん、ちょっとお姉さんぽいね!」

「えっ、うそ……やだ、うれしい……です、ミミさん」


 照れるリアナを横目に、片付けはどうにか形になった。


 作業を終えると、三人は川で顔や手を洗い流し、宿へ戻る。

 今夜の宿飯は、香り高いハーブスープと焼き魚だった。


 疲れ切った三人は、スプーンを口に運ぶと同時に目を閉じる。


「……美味しい」

「塩分が……沁みるのう……」


「もぐもぐ……あれ、セイ? また白髪、増えてない?」


 ミミは焼き魚を頬張りながら、器用にセイの髪をいじり出す。


「働きすぎかもしれん……せっかく転生して若返ったというのに、もう白髪とはな。まだ二十五じゃぞ、二十五! それより、座って食べぬか」


 そんな他愛のないやりとりを交わしながら、夜は静かに更けていった。

 三人は宿の小部屋に布団を並べ、肩を並べて横になる。


「……でも、こういうの、悪くないね」

 ミミが小さな声でつぶやいた。


「うん。必死で働いて、汗だくになって、帰ってきて、ごはん食べて……寝る。生きてるって気がします」

「それが……スローライフ?」

「いや、どう見てもワイルドライフじゃな?」

「確かに……でも、明日はもっと進められるといいなっ!」

「うむ。“住めば都”とはよく言ったもんじゃが――そこまで行くのが遠いのう」


 ◇ ◇ ◇


 翌日も三人は、依頼の合間を縫って廃墟改修に汗を流した。

 壊れた戸棚を解体し、使えそうな板を壁へ打ちつける。

 屋根の穴には、ミミが魔法で“なんとなく貼った防水結界”で応急処置。


 リアナは水回りの配管を調べてから「トイレだけは新品にしよう」と言うと、全会一致で即決された。


 少しずつ、家の中に“生活”の気配が生まれていく。


 そして――ちょうど一か月。


 三人は玄関の前に立ち、深く息をついた。


「……やっと、“住める”になったのう」


「いや、住めるだけだからね? 住みたいわけじゃないからね?」


「でも、ちょっとずつ、自分の“家”になってきた気がするよっ」


「うむ。ここからが始まりじゃな。わしらの、スローライフが」


「スローっていうより、泥臭くて筋肉痛なライフだったけど……」


 そのとき――セイの背筋がぴんと伸びた。


「……なあ、リアナ。お主、今、わしの背後で何か囁いたか?」


「は? 言ってないけど」


「え……? なんか……声、したよ?」


 ミミが小さく震えながら、セイの袖をぎゅっと掴む。


「セイ……あの家、まだなんか“いる”のかな……?」


 とりあえず今夜は、気づかないフリで乗り切ることにした。



────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】11(+1)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:ちょい高(自然と毛づくろいをしてしまう)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人っぽいワンピースを装備。掃除とDIYで筋肉痛気味

 - 補足:マイホーム改修にやる気満々。でもスローライフが何かはよく分かっていない


・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)

 - 好感度:中(コミュニケーションはだいぶ取れるようになってきた)

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:剣士っぽいドレスを装備。ミミに「お姉さんっぽい」と言われ、激しい動悸に見舞われる。

 - 補足:DIYで修繕スキルを発揮中。修繕作業そのものは意外と楽しんでいる


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ