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迷惑客

作者: 源泉

私はね、コンビニ運が悪いんですよ。


いや、何を言ってるんだって思うのはわかります。

私だってコンビニ運だなんて言葉は他で聞いたことなんてありませんからね。


えぇと……そうですねえ。

例えば立ち寄ったコンビニに欲しいものがないとか、自分の前にレジに並んだ客が大量の商品を詰めたかごの他に何やら支払い用紙を取り出して……なんてのは序ノ口で。


しかし便利な時代になったもので、買い物だけじゃあなく、振り込みも現金の引き落としも、住民票の控えなんかもぜーんぶコンビニで出来ちゃうんですからねえ。


恥ずかしながら、私はなかなかの田舎の出身で、中学生くらいの頃は町に一つしかないコンビニまではるばる自転車を何十分も漕いで向かったものです。

スーパーで買えば安いのにわざわざコンビニで買ったアイスや菓子パンを店の前で食べるのが特別に感じてねぇ。

まあ、今ではその町にもコンビニが増えたし子どもたちはそんなことで喜びはしないでしょうが。

まあそんな感じの子ども時代を過ごしたもので、今でもコンビニに行くのは少しワクワクするんですよ。


……話が逸れましたね。

えーと、そうそう!コンビニ運の話です。

家と会社の真ん中にあるコンビニには、仕事帰りによく立ち寄っていたんです。

独り身にはありがたくて、夕飯もたいていそこで買うんですよ。

だから同じ時間に立ち寄るもんで、そうなると店員さんも同じ顔ぶれなことが多くてね。


ある日の夕方、そのコンビニで買い物をしていたときのことです。

ひとりの男の人が、店内をゆっくり歩きながら、棚の商品をひとつひとつ見ては、時折メモのようなものを取っていたんですよ。


最初は「変わった人だなあ」と思っていたんですが、よく見るとその人、

商品を戻すときに向きを揃えたり、陳列を直したりしていて。

なんというか、“買い物している”というより“確認して回っている”という印象でしてね。

しかも、ときどきこっちをちらちら見るもんだから、何か文句でもあるのかと少し気になってしまって。


なので、レジにいた顔なじみの店員さんに、あの人は?と聞いてみたんですよ。

ちょうどその頃は例の感染症が流行っていた頃でね。

だから商品をべたべた触るような人がいると、やっぱりちょっと気になるじゃないですか。


すると店員さんは、一瞬だけ目を泳がせてから、

「ああ、あの人……うちの店長なので、大丈夫です」と言ったんです。

……妙に早口で。


まあ、私も余計なことを言ってしまったかなと思って、それ以上は聞きませんでしたけどね。

でもなんとなく、その“店長さん”が、その後もこっちを見ていた気がするんですよ。


あまりにも何事もないように話すもんで、私もああそうかあ、余計な事を言ってしまったな、なんて思ったんですよ。

まあそれで終わればただのお節介を言ってしまった話なんですが。

その夜、ふと気づいたんです。

あの店の店長って、確か女性だったはずだよなあって。


まあコンビニの経営の仕組みに詳しいわけじゃあないもんで、新しい店長さんが来たのかなあなんて思ってその日はコンビニで弁当と一緒に買ったビール……いや、発泡酒だったかな?まあ、それはどうでもいいんですがね、それを飲み干して、その日は寝たんですよ。


そして次の日、深く考えずにまたいつものあのコンビニに寄ったんですよ。

そしたらレジにいたんですよ、女性の店長さんが。

まあ、なんでそんなにその店の店員について覚えているかって言うとねその店長さん見た目が特徴的でね。


何ていうのか、髪を高い位置に二つ結びにして……ちょうど小さな女の子向けのアニメのような感じでね。

ああ、ツインテール?って、言うんですね。そういう呼び方があるなんて初めて知りましたよ、勉強になりました。

まあ人の髪型にとやかく言うのは失礼だとは思うんですが、そんな髪型の普通の中年の女性なんですよ。

顔も体型も普通の。高校生くらいの子どもがいそうな普通の女性。

そんな人がまるでアニメのキャラクターみたいな髪型をしているから、なんとなく見ちゃってね。

失礼なのは承知で、反省もしているんですが、そんな感じなものだから変わった人なのかな?なんて思っちゃってたんです。私。


でもね、その店長さんなかなか気の利く人で、周りの店員さんのサポートはもちろん、レジ打ちが早いし袋詰めも丁寧でね。

見ていて気持ちがいいんですよ、だからその店長さんがいる時には細々したものなんかをかごに沢山入れちゃいましてねえ。


……ああ、また話がそれましたね。

それで、あの変な男が店長だと言われた翌日の話に戻るんですが、その店長さんのレジに並んで聞いてみたんですよ。

ツインテール?の店長さんの名札にはもちろん店長って、書いてましてね。そんな店長さんに店長は誰ですか?なんて聞けませんからね。

昨日これこれこういう男の人がいたんだけど、あの人はなんだったのか?と。

まさか私にあの男の人を店長だと言った店員さんの名前を出すわけにも行きませんからねえ。

すると店長さんは「そんな人がいたんですね。気づかずすみません」と言った後に……私の後ろに視線を向けてね、なんだか鋭い視線を向けたように感じたんですよ。


だから私もついつい振り返っちゃったんですが、そこには数組のお客さんが並んでいるだけでした。


あの男がいるわけではなかったようで拍子抜けしながらも安心して、変な質問をしちゃったなあ、なんてお詫びの気持ちでレジ横に置いてある細々したお菓子やチキンを買い足しましたよ。

おいしいですよね、コンビニのチキン。

まあそのせいでお金が少し足りなくてATMからお金を下ろすことになっちゃいましたよ。


それでまあなんとなくその男がなんだったのかもわからなくて少し怖いなあ、なんて思っていたんですよ。

会社の若いやつに、それはコンビニの店長じゃなくてオーナーで、バイトの子がその違いをわからず言い間違えたんじゃあないかって言われてそうなのかもなあ、なんて納得しましたね。

まあ、本当のところはわかりませんが。


次の日はなんとなくそのコンビニに寄るのに気が引けて、別のコンビニに立ち寄ることにしたんです。

ありがたいことにこの町は故郷とは違って数分歩けば別のコンビニがありますからね。

そのコンビニには久々に立ち寄ったもので、見慣れない商品が沢山あって楽しくなり色々と買ってしまったんですよ。


レジにいたのは今時の若い男の子。

大学生くらいかな?トレーニング中、と書いてあったので新人なんだな、とすぐに分かりました。

ああ新人くんのレジなのにたくさん買ってしまって悪いことをしたなあ、なんで思いましてね。

まあ急いでいるわけじゃなかったんで、いいんですが、まあ不慣れなレジで見ていてハラハラしましたよ。

さらに決まりなのか、コンビニのアプリ?を勧められましてね。

お得なクーポンが貰えるのでぜひ、とレジを打ちながら説明してくれたけど私はイマイチそういうものには手を出せなかったもので、申し訳ないけど曖昧に笑って流すつもりでした。

その新人君は雰囲気を察したのか、無理に勧めるような言い方になってしまいましたね、昨日もお断りされたのにしつこくてすみません、と気まずそうに笑ったんですよ。

そこで私は、あれ?なんだかおかしいな、と思ってね。


だってその前日は私、そのコンビニには行ってないんですよ。

あの二つ結び……ツインテール?の店長さんのコンビニ寄ったんですから。


それで、なんだかゾッとしちゃいましてね。

ついついしつこく聞いちゃったんですよ、それは本当に私でしたか?と。

ちょっと大きい声が出ちゃったもんで、新人君はビクッと肩を震わせてね、ちょっと悪いことをしちゃったなあと後から反省しましたよ。

それで彼は私の背後に視線を向けてね……、そうです。その仕草は前日のコンビニでも、

ツインテールの店長さんがしていたんですよ。


その視線を追うように振り返ってもやはりレジに並ぶお客さんが数組いるだけ。

違うコンビニで全く同じ動作をされて、さらに身に覚えのないことを言われたもんで私も動揺しちゃって、買おうと思っていた煙草を頼むのをすっかり忘れてしまいました。


しかも慣れないコンビニに、仕事終わりの霞む目で自分のタバコの番号がどれだかわからず、自分で探すから、とレジに身をのりだりたら新人君が大丈夫です、と頑張って探してくれてね。

いやあ、今は電子タバコの種類が多くてね、どれが自分のか分からなくなるんですよ。

そしてふと思いだしたんですよ。

そのコンビニで昨日の朝にもタバコを買うために立ち寄っていたことを。

新人君は別の時間でたまたま同じ客が来たのを覚えていてくれて、さらに私のタバコを探したことを覚えていてくれていたんですね。

その時にもコンビニのアプリを勧めてくれていたんです、それを私はすっかり忘れていたんです。


なので、申し訳なくてね。

その日もレジにあるホットスナックを色々買い足して帰りましたよ。

少しでもお店の売上に貢献できればと思ってね。

でもまあ、大きな声を上げてしまったことが恥ずかしくなってね。今日はここのコンビニに来たわけですよ。

あまり来ないところなので色々新鮮に見えますね。


ところでこのソフトクリームやパフェなんかはお店の奥で作ってるんですか?そりゃあ大変ですね。でも一つ頼んでみようかな?


私は糖尿病になりかけているもので、健康診断が近いから甘いものは控えているんですがね。

このフルーツ多めのかき氷みたいなやつなら大丈夫かな?どう思います?


……ねえ、店員さん。

私の、後ろに……何か見えてますか?


何度か続けて似たようなことがあったもので気になってね。


ああ、そうだ!タバコを買うのをまた忘れていましたよ。すみません、これと同じものをお願いしますね。

最近は箱を見せて探してもらうようにしてるんですよ。電子タバコの種類を聞かれても咄嗟に答えられないものでね。


いやあ年は取りたくないものです。

ああ、タバコ見つかった?早いねえ、店員さん。


えーと、後はこのかき氷みたいなやつを頼んでみようかな?

え?この時間はやっていないの?


大丈夫大丈夫。私この後は予定もないからゆっくりでもいいから作ってくれればさ!


私は……座って、ずっと待ってるからさ。




背後にはレジに並ぶ客の列

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― 新着の感想 ―
ホラーテイストでコンビニの謎が語られるかと思いきや、主人公が迷惑客だったというオチに肩透かしを喰らいました!
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