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第一話 黒き令嬢



 慣れと諦めは、いつも似たような味がする。


「アンジェリカ、貴様とシャリオ皇子の婚約を破棄とする」

 

 煌びやかな純金と白で満たされた玉座の間で、ギルフォード大帝は冷徹に言い放った。

 その言葉を静かに受け止めるのは、彼の娘であり、この世界で唯一の髪色を持つ少女、アンジェリカだ。


「一応、理由は聞いてもいいのかしら?」


 その声は至って冷静だった。

 彼女は漆黒の髪を長く下ろし、深い闇に濡れたゴシックドレスを着こなしている。部屋の様相や周囲の貴族が放つ輝かしい“色”の中で、彼女の“黒”は嫌というほどに目立つ。


「理由など必要ない。お前には似合いの相手を用意する。一週間後の誕生日はその祭典とする」


 聞く耳持たないとはまさにこのこと。彼の傲岸不遜なる態度は常であり、絶対的なる君主としてこの国とアンジェリカの人生設計を支配している。

 更には周囲の貴族や親族からクスクスとした笑い声と、粘ついた嘲笑の視線が向けられる。

 呪われし令嬢。不浄の姫君。不幸に浸された黒き魔女……

 小声で聞こえてくるそれらの蔑称は、アンジェリカの人生で幾度と繰り返されたもの。彼女の黒髪は生まれた時から呪いの象徴として、差別の受け皿となっていた。


「まぁ、何を言っても父上には意味なんてないものね。私はこれにて失礼するわ」


 慣れた態度のアンジェリカ。

 強気な物言いで踵を返すが、内心はこんなところから一秒でも早く逃げ出しかった。

 一体何が楽しくて、自分を嫌う数十人の大人たちと同じ空間で呼吸をしなければならないのか。

 生まれてから十六年間、絶え間なく続く差別など、もはや覆しようもないのだから。

 出口に向かう最中にも、貴族たちの汚声が混じる。


「おぉ、なんという悍ましい髪色だ」

「大帝は何故、あんなものに王宮の生活をさせているのだ? もっと早く捨ててまえば良かったというのに。品位が削がれる」

「大帝の娘という最大限の肩書きで着飾らなければ、見れたものじゃないでしょう」


 わざと聞こえるように紡がれる誹謗の数々。

 しかし、アンジェリカは毅然とした表情のまま意に返さない。

 ほんの少し、闇魔術の力を込めて袖を振るえば静かにできるが、血で廊下を汚すのは綺麗な解決方法ではないからだ。


 そうした罵詈雑言を黙って進み抜け、アンジェリカは玉座の間を後にした。


お読みいただき、誠にありがとうございます。

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