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真司と麻子の物語  作者: 村松希美


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3 マイ・フェア・レディ



 真司と麻子が24歳のクリスマス間近のある日曜日。


「『花嫁失踪事件』って、ハティ・ドランが結婚式の時に消えちゃうよな。ハティにしたら、本当に好きな人が結婚式会場に現れたからだけど。もし、麻子にそんなことが起こったら、俺は……やってられないぜ。麻子? あれ?」

 真司が、麻子が並んで歩いていないことに気づき、後ろを振り返った。


 すると、麻子は、ブティックのショーウィンドーをキラキラした瞳でじっと眺めていた。真司はピンと閃いて、

「麻子、ここに入ろう!」

と、麻子の手を引いて、ブティックの中に入って行った。麻子は気づいていないが、そのブティックの名前は、「アイリーン」だと、真司は咄嗟に看板を見て良い名前だと思った。麻子は戸惑いながら、真司に手を引かれるままに従った。



ブティック「アイリーン」の中には、クリスマスシーズンの少し豪華なディナーに着ていけそうなワンピースやドレスのマネキンが所々に並んでいた。


「あら、仁川さん! 先日は本当にありがとうございました」

 真司がびっくりして前を見ると、そこには、先日の依頼人、南麗子が立っていた。

「南さんのお店でしたかー」

 真司は、南麗子の黒いスーツの名札を見た。オーナーと書いてある。南麗子は、40代の背筋が伸びてキリッとした女性だ。


「真司、お知り合い?」

 麻子が、きょとんとした顔で(たず)ねる。

探偵事務所(うち)の依頼人だよ」

 南麗子は先日、真司が勤める探偵事務所に来て、失くした結婚指輪探しを依頼にきた。南麗子の話を聞いて、真司が見事に結婚指輪を見つけ出したのだが。


「仁川さん、今日は何をお探しで?」

 南麗子は柔らかい笑みを真司に向ける。

「あの、麻子、いや、この()に似合う服をいくつかお願いします」

「ちょっと、真司……」

 麻子が真司を突っつく。

「いいから、いいから」

 真司は愉快ないたずらを思いついた小さな子どものように笑っている。

 南麗子は直々に、いくつかワンピースを選んで、麻子の前に持ってきた。


「きれいなお嬢さんね」

 と、南麗子は、麻子に微笑みかける。

「そんな……、あっ、ありがとうございます」

 南麗子は、麻子の頬が少し赤らんだのを見て、

「このドレスなんて、貴女(あなた)に似合うわよ。さあ、ここに入って着てみて」

 と、麻子に試着室を指さした。麻子は、南麗子に言われるままに、さっきのドレスを手に試着室に入った。


 数分後、麻子がもじもじしながら、試着室のカーテンを開けると、

「あら! 何て素敵なの! 貴女によく似合ってるわ!」

 と、南麗子が歓声を上げた。真司も麻子を見ると思わず息をのんだ。

 麻子は、青いサテンの袖無しのミディ丈のストレートのワンピースに白いモコモコのボレロを羽織っている。


 麻子って、読書ばかりして運動はあまりしていないのに、意外にスタイルがいいんだな。

 真司の率直な感想だった。それによく似合っている。

 麻子は着慣れない服に戸惑っているという感じだった。


 次に南麗子が麻子に渡したのは、ダークグリーンのAラインのロングワンピース。という具合に次々と8着くらい試着させた。

 真司は、そんな麻子を見ていて、女って、服装だけで、こんなに雰囲気が変わるんだなと感心して見ていた。


 麻子はいろいろ試着したが、全部いいですと丁寧に断った。

 麻子が本当に欲しかったのは、さっき、ショーウィンドーで見たあのワンピースだったから。

 麻子は気分が弾んだが少し疲れて、トイレに行きたいとその場を去った。


「仁川さんのいい人、どれもあんなに似合っていたのに残念ね」

 南麗子は商売から言ったのではなく、本当に残念そうにしていた。


 真司は「実は……」と、南麗子の耳もとで、ショーウィンドーに飾ってあるあのワンピースを包むように頼んだ。

 真司としては、最初に麻子が身につけた、あの青いサテンのワンピースと白いモコモコのボレロの取り合わせが麻子によく似合っていたと、少し残念に思ったが。


 南麗子は、ああ!と頷いて、若い店員にそのワンピースを包装させた。真司はサプライズ作戦に胸を弾ませ、麻子を待った。


 しばらくして、麻子が戻ってきた。真司はすかさず、

「はい、これ!」

 と、さっきの包みを麻子に差し出した。

「えっ、何? わたし、ドレスはいらないのに……」

「まあ、いいから、開けてみろよ」

 真司が促した。麻子は訳もわからず、包みを開けてみた。


「わあ! 何で? わたし、このワンピースがいいなぁって……」

 麻子が驚きの笑顔で真司を見る。真司は少し照れて、

「えっへん!、俺は名探偵だからな」

 と、照れたことは麻子に悟られないように茶化して言った。そして、


「お嬢さん、今度の俺とのクリスマスディナーは、そのお召し物で来ていただけますか?」

 と、真司は、恭しく右手を胸の前にかざして言った。

「ありがとう。喜んで」

 麻子は欲しかったワンピースのことよりも、真司がサプライズをしてくれたことがとても嬉しかった。


「まあ、仲がおよろしいこと! いいものを見せてもらったわ。ブティックを開いていて本当に良かった」

 南麗子がしみじみと言った。



 真司が麻子に手渡したサプライズのワンピースとは、かわいい丸襟がついたウールのピンクの千鳥格子のAラインワンピースだった。

読んでいただき、ありがとうございます。


このショートショートは、映画「マイ・フェア・レディ」を見て思いつきました。


でも、私はファッションには詳しくないので、少し手間取りました。でも、今は、ネットがあるので、何でも調べられますね。


小説執筆には、便利な時代になりましたね。

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