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第八話

 私とレオンの間に一陣の風が突き抜けた。次の瞬間、レオンは私を抱き締めて高く跳躍する。そして、気づけば私は上空にいた。


「まさか魔王自ら登場ですか」


「ここは魔族の巣窟か?」


「混血! お前やはり魔族と繋がっていたな!」


 以前家に来た聖女と勇者一行が一斉に姿を現した。先ほどの風も、彼らの仕業のようだ。家の外壁が一部破壊されている。巣窟と言われたのは、おそらくレオンの仲間たちがこの場にいたためだろう。先ほどは気づかなかったが、上空から俯瞰して見ると、レオンの仲間三人が家の周囲に点在しているのが見えた。


「ラカ、サーラを頼む」


 レオンがそう言うと、ラカが私の元へやってきて手を取る。


「何があろうとお守りします」


 こんな決め台詞まで言って守ってくれるとは。どうやら私はこの場では、魔族と見なされたようだ。


 それからすぐに激しい戦闘が始まった。レオンは勇者らしい格好の人物と相まみえている。彼は刀身に美しい装飾が施された白く輝く剣を携えている。もし彼が勇者なら、おそらくあれは聖剣だろう。聖女は勇者たちの後ろでじっと様子を伺っている。おそらく後方支援だ。他の人たちも、それぞれが魔族と人間とで剣や魔術をぶつけ合い、激しく戦っている。


 自分の立ち位置を考えてみた。とりあえず、死にたくはない。それなら今は魔族の味方をするべきだろう。しかし、実際に何かできるわけではない。助けに入ったとしても足手纏いになり、邪魔をするだけだ。遠くでおとなしく引っ込んでいるのが得策だろう。しかし、私を守るためにラカが戦力から外れていることが気にかかる。迷惑を掛けている気がしてならない。


「ラカ、私遠くにいたほうがいいよね? 邪魔になるだろうから。ラカもみんなと戦った方が良いんじゃない?」


「敵は奴らだけとは限りません。それに、サーラ様が万が一人質に取られた場合、こちらの動きが封じられます。今、最も優先すべきことは、サーラ様の安全です」


 ずいぶん大事に思われているらしい。私は、ラカに守られながら皆の様子を観察することにした。皆、家からは離れて戦ってくれている。引っ越しの件は置いておくとしても、思い出の家が壊されるのは悲しいので、ほっと胸を撫で下ろす。同時にチクリと胸が痛んだ。山向こうの更地、家を失った人々、みんなきっと悲しかったはずだ……


 戦いは苛烈を極めていた。山の木々はなぎ倒され、山に火が放たれた。山火事になるかと思われたが、魔族の氷の柱による攻撃により炎は沈下されていった。


 地鳴りが空気を振動させ、まるでこの世の終焉を告げるかのような地響きが鳴り響く。大地が積み上がり、やがてそれは柱となって人の形を成していった。それはゴーレムと呼ばれるもので、魔族により生み出されたその巨大な人形は、生きた巨人となって勇者一行を襲った。


 勇者一行も負けてはいない、彼らはその巨体にひるむことなくその大剣を振りかざし、防風を巻き起こした。突風による攻撃で、少しずつその巨大な身体を削り取っていく。


 正直、勇者一行がこれほどまでに魔族に対抗し得る力を持っているとは思ってもみななかった。いや、知ってはいた。でもそれは物語の中の話だったから。この世界の魔族はいつも強くて、人々の脅威と恐怖の象徴で、人間は彼らに滅ぼされるのが常だったから。


 戦いをじっと見つめる。勇者一行も強かったが、やはり魔族の方が一枚上手のようだった。魔族が押し、人間が押される。それなのに、人間はあきらめない。いや、回復しているのだ。聖女の祈りが彼らの力になっている。力では押されているが、それでもスタミナが絶えず回復し続ける。怪我も治り続ける。戦いに終わりが見えなかった。




「魔王! これでお前も終わりだ!!!」



 !!!?


 勇者の聖剣がレオンの胸を貫いていた!


「魔王が滅べは人々は平和に暮らせる!」




「違うな、人間がいなくなればサーラは幸せに暮らせる」



 レオンが聖剣を持つ勇者の腕を握り、ゆっくりと身体を後ろに引いていく。心臓を貫かれたはずのレオンが平然と聖剣から身体を引き抜いて見せたのだ。痛みも感じていないのか、うっすらと笑みを浮かべている。勇者はその姿をしばらく呆然と見つめていたが、ふと我に返ると、再びレオンに対峙した。


「傲慢な考えだ! 一人のために多くの民を犠牲にするのか! やはり貴様は滅ぶべきだ! 私が討つ!! 絶対に!!!」


「傲慢で、いられたからこそ俺が俺でいられた。討ち取るのはお前ではない」



「人間がいなくなれば私が幸せに暮らせる」レオンは確かにそう言った。

 すべて私のせいだったのだろうか。ラーナ村の人たちが八つ裂きにされたのも、いつも行くあの山向こうの町が滅びたのも、私の知らない遠くの町がなくなって人々の悲鳴や鳴き声が聞こえるのも。



「勇者などいるから、人々はわずかな希望に夢を抱いた愚者になる。聖女がいるからこの地の汚れは満たされず、不必要に人間が沸く。だからこそ一掃してやるのだ、この俺が。それが魔王の仕事だろう?」



 こんなことを言う子どもだっただろうか?

 違う、レオンはもう子どもじゃない。自分で考えて行動してる。彼ははじめからそうだった。

 自分で考えて何でも決めるんだ。じゃあ、これもはじめから決めていたの?



 魔王が勇者の喉元を掴んだ。

 ギュッと締め付けて離さない。勇者は苦しそうにもがいている。彼は勇者の聖剣を奪い取り、私の名を呼んだ。


「サーラ、こっちへおいで」


 引き寄せられるように身体が勝手に動き、地面に降り立つ。そして、聖剣を手渡された。


「サーラこいつで心臓を刺してやれ、そうすれば安らかに眠れる」


 勇者を刺したら私は穏やかに過ごせるのだろうか? 

 安らかに眠れるのだろか? ホントウニ?


 子供の泣き声、うつろな瞳、家を失った人たち、どこの誰とも分からない黒焦げの身体。


 レオンを見る。桜色のきれいな瞳が私を見つめていた。




 足取りが重い、


 フラフラフラフラ


 遠い家路。


「ただいま」ひとこと告げる。返事はない。いつもの事だ。


 いつもの庭先、大きくなった桜をひと撫で。


 私は聖剣を握りしめる。




 子供の泣き声、うつろな瞳、家を失った人たち、黒焦げの身体…………


 わたしは………… 屍の上では、眠れない!!




 桜の幹に思い切り聖剣を突き刺した!!




 桜の枝がたちどころに大地を駆け巡った。


 長くしなやかに伸びた枝は、その場にいた勇者とその一行の心の臓を貫いた。


 手の平に鼓動が伝わる。


 ドクドクドクドク






 満開の花が咲いた。


 真っ赤な 真っ紅な 紅い桜が。







 膝の上で目を閉じるレオンの額を優しく撫でた。


「魔王は、倒されるのが定石だろ?」


 どうして?


「でも殺すのは勇者じゃない。そうなれば俺の物語はハッピーエンドだ」


 いつから気づいていたんだろう? 悲しくなかった?


「また、植えてくれよな………… 母さん…………」


 最後にその呼び方? ねぇ、桜色が見えないよ?



 私は魔法は使えない、でも植物を育てるのは得意なんだ。私が育てた植物は、早く大きく育つんだ。こんなに大きく育ったのに、ごめんね枯らしちゃって。



 桜から生まれた子は魔王になった。なら、それを生んだ私は何者? 本当の魔王は一体誰だったのだろうか……




 初夏の夜に、あかい紅い桜が咲いた。


 満開の桜の花が。


 風が吹き、ハラハラハラと紅い色が散っていく。


 もうこの木に桜は二度と咲かないだろう。


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