第六話
「引っ越さないか?」
唐突な事は続くもので、レオンの突然の発言に一瞬思考が停止した。
「は、引っ越し? 急に何言い出すの? 私この家気に入ってるよ」
「サーラは世の中の事分かってる? 最近はどこも物騒なんだ、もっと安全な場所に移動した方がいい。俺もその方が安心だ」
「この山は安全だよ。瘴気もないし魔物だって出ない。山向こうの町だって魔族の領域からは離れてるから、都市に住む人がみんな疎開しに来るぐらいなんだよ!」
「どこに行ったって同じだ。魔族はどこにだって行ける。田舎だからって安全とは限らない。それに…… 人間が来ただろ?」
レオンの目が私を射抜くように見つめる。こんな時は絶対に適当に誤魔化せない。そうしなければ後で私が参ったと降参するまで追いつめられる事態になるからだ。
「来たよ、多分冒険者だよ。この山には瘴気も魔物も出ないのに、この家から黒い魔力を感じたから、不思議に思って調べに来たみたい」
「それはおそらく聖女だ。冒険者と言ったな、男たちが共にいたなら勇者や魔術師などだろうな」
「どうして分かるの?」
「残り香が漂っている、オーラのようなものだ。特に聖女など分かりやすい。わざと自身の魔力を残していったのだろうな。どういうつもりか、喧嘩を売っているのか?」
「喧嘩!? そんな事しないよ。あの人たちには私が混血だってこと見せて話したの。殺されなかったよ。黒い魔力も私が家に住んでるから残されたものだってちゃんと話したよ」
「信じたのか? その話を?」
「信じたから何もせずに帰ったんだよ」
「それは分からないな。少なくとも、人間に混血のサーラがここに住んでいるということが知られてしまったんだ。奴らがその事実を他の者に話せば、魔族に恨みを持った人間が逆恨みしてここに攻め入るかもしれない。ここはもう、安全な場所ではないよ」
聖女と勇者一行らしい彼らが家に来たときは、確かに敵意を感じ、その威圧感に恐怖した。しかし、彼らは私を殺さなかった。でも、レオンが言うように、逆恨をみした人間がここに来る可能性もゼロではない。
それでも、この家は私のかけがえのない思い出の場所だった。祖母と暮らし、レオンを育て、レオンが私のために建ててくれた大切な家だ。思い出の桜の木もある。この場所から離れがたい想いがあった。
「私、これからはもう少し頻繁に町に出るよ。そうして、町の人が何に関心を持って暮らしているのか、ちゃんと知っておく。それで、もし危ないと思ったら、その時はちゃんと安全な場所に引っ越すよ。ここは私の大切な場所だから、簡単には離れられないよ」
レオンは何か言いげに、私を見つめていた。そして、下を向きしばらく思案した後、口を開いた。
「それならサーラの好きにするといい。でも俺は聞いたぞ、危なくなったら引っ越すって」
「うん、約束するよ」
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