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第五話

 その人は突然やってきた。金髪に碧眼、まるで絵にかいたような女神様のような美しさだった。こんな人が世の中にいるのかと感心してしまう。彼女の後ろには、身なりの良い冒険者のような人たちが数人いて、鋭い眼でこちらを睨みつけながら、唐突に質問を投げかけてきた。


「不思議なことに、この山一帯では瘴気や魔物の気配を一切感じません。原因を調べていたところ、こんな山奥にあなたの家を見つけました。見たところ、この辺りには他に人は住んでいないようですが、あなたは一人でここに住んでいるのですか?」


 急な訪問ではあったものの、私は彼らと向き合う前、咄嗟に布をかぶり、髪を隠していた。こんな時世だ、どんなやっかみを受けるかわからないからだ。


「はい、この山には私しか住んでいません。瘴気も魔物もこの辺りでは見ないですね。あれば、引っ越さないといけませんから」


「こんな山奥に一人で? 不便ではありませんか? 何か理由でも?」


「人が苦手なんですよ。一人の方が気楽なんです」


 私は当たり障りのない返事をする。この人たちが何者かは分からないが、その身なりから身分の高い人なのだということは分かる。失礼があっては大変だし、あまり関わりたくない。適当にやり過ごして、早く帰ってもらおう。


「変ですねぇ、おかしいんですよ。この辺一帯瘴気のかけらも感じないのに、あなたの家からは強い魔力を感じるんです」


 女性は私の目の前に自身の顔をぐいと近づけて、じっと目を見つめてくる。美しい顔が迫ってきて、迫力と圧迫感を感じた。居心地の悪さに、私は後ずさる。


「魔力ですよ、それも黒い魔力! あなたからも少し魔力を感じ取れますね。黒くはありませんが、この場所からは強く感じますよ! 今ここにいてもビシビシと感じるんです! ―――――あなた、魔族ですか???」


 目をジッと見つめられる。


 背筋に冷たいものが走り、本能的な恐怖心が襲ってきた。

 下手な言い訳はしない方がいい。この人には誤魔化しも嘘もきっと見透かされるだろう。頭からかぶっていた布を取り外すと、私の中途半端な赤い髪がはらりと肩にかかった。


「私、混血なんです。魔力はあまりないけど、この家にはずっと住んでいますから、きっと魔力が少しずつ染みついたのかもしれませんね。ほら、長年家に住んでいると、シミなんかも染みつくでしょ? あ、今のはダジャレじゃないですよ!」


 私は乾いた笑いでごまかした。つまらないダジャレのせいで、空気が重くなった気がする。目の前の女性も、後ろの冒険者たちも、一言もしゃべらず家の中をきょろきょろと見回している。


「少し家の中を調べさせてください」


 女性がそう言うと、私の返事を待たずに、彼らはずかずかと家の中に入ってきた。しかも土足で。なんて図々しいのだろう。後で掃除をしなければ!


 家の中を一通り見終えた後、彼らは庭の桜をじっと見つめていた。


「随分と大きな桜ですね。この桜はこの家が建つ前からここにあったのですか?」


「いいえ、それは私が祖母と植えて育てた桜なんです。手のひらほどの挿し木が、今ではこんなに大きくなって、私も驚いているんですよ。よくここで、祖母や私の子と花見をしました」


「この桜からも魔力を感じますよ。不吉ですねぇ。ちなみに、あなたの家、わりと新しい造りですねぇ。 それにこんな山奥にあるにしては、とても立派な建物です。誰が建てたんですか?」


 ドクドクと脈打つ鼓動が耳障りだ。私は混血だけど、悪いことは何もしていない。これはレオンが建ててくれた、レオンと私の家だ。私の子が何者かなんて、誰も気するはずがない。


「私の子が建ててくれました。前はもっとぼろぼろの家に住んでいたんですけど、立派な家を建ててくれました。優しい子なんです」


「結婚していたんですねぇ。先ほども子供の話をされていましたし。でも一人で住まなければならない事情があるのですから、結婚しているとは限りませんねぇ。それでは、その子も混血児となりますね? さぞや暮らしに苦労されたことでしょう。特にこんな時世ですからねぇ」


「苦労だなんて――――――」


「相手は誰だ?」


 それは唐突な問いかけだった。ずっと静かに女性の後ろに控えていた冒険者の一人、若い青年のようにも見える男からの質問だった。


「相手というのは?」


 その威圧感に、どうしても委縮してしまう。なぜこの人は、こんなに私のことを睨みつけてくるのだろう?


「結婚相手、もしくは子を産む原因となった男だ。人間か? 魔族か?」


 なるほど、敵意を向ける理由が分かった。私が魔族と通じていると考えているのだろう。残念ながら私にそんな相手はいない。通じていないと言えば噓になるが、そんなこと明かす気はさらさらない。


「私は誰ともそういった関係を持ったことはありません。子は、捨て子だったんです。山に捨てられていて私が拾って育てました」


 嘘ではないが、確信は話すつもりもない。ここは魔族の領域からは遠い。まさか魔族がこの山まで来て、わざわざ子を捨てたなどと考えるはずもないだろう。


「そうか…… 命拾いしたな」


 そこは謝るところだと思う。きっと冒険者というのはプライドが高いのだろう。あるいは、混血である私に対してだけ、こういう態度を取っているのかもしれない。


「ところで、この山の近くにラーナ村という村がありましたが、先日、魔族に滅ぼされました。村人は全員八つ裂きにされたそうです。この山の近くの出来事です。どんな魔族だったかなど、何でも構いません。何か目撃したり、知っていることはありませんか?」


「……何も、知りません」


「本当に? あなたのいた村でしょう?」


 !!?


「本当に、何も知りません!」


「そうですか、魔族のことについて何か知っていることや手掛かりがあれば、町のギルドに伝えてください。一日でも早く、一匹でも多くの魔族を討伐しなければいけませんからねぇ」


 その日、突然表れた彼らは、最後まで自分たちの名を明かすことも、挨拶をすることもなく立ち去って行った。


 どうして彼らは私の事を知っていたのだろう? ここに来たのも本当に偶然なのだろうか?

 疑問府は私の中に取り残されたまま、今日も彼方へと日が沈んでいった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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何卒よろしくお願い致します。



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