表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
chapter.1 代官山Refrain
8/33

08.視認

3

「いやぁぁぁぁ!!誰!?なんで?!怖い!怖い怖い怖い怖い!なんで居るの!?なんで見えてんの?!怖い怖い怖い!やめて!何もしないから!やめて!」


そう怯え狂ったのは僕ではなく、襲われる殺されると思ったその"相手"が、狂乱していた。予想していなかった反応を目の当たりにして、両手で頭を抱え込んだままではいるが、あれ?と呆気にとられる。そいつも僕の姿を捉えるなり瞬時に叫び、どうやら直前まで椅子に座っていたらしくそのまま転げ落ちていたようだった。


床にへたりこんだ僕は、目の前の"白髪の女のユウレイ"も自分同様に怯える様を見て、少しだけ考えが回るようになり、なんらかの理由によりただここに紛れ込んでしまっただけの人間の可能性もあるのではないかと憶測が湧き上がり「えっ、あの、なんで居るんですか、ここに」と少し立ち上がって恐る恐る問いかけてみた。


しかし聞いてみた後で気がついてしまった。……どうしてその女性が"なんで見えてんの"と口にしたのだろうとふと疑問を思った瞬間、やっぱりユウレイなのでは?と疑念が瞬時に湧き上がり、「ヒィッ!」と派手に後退りをしてしまった。


絨毯床の上で僕と同じように転げていた長い白髪の女性は、さらに僕と同じように恐る恐る片手を床についた後で

足の体勢を変えて慎重に立ち上がり、僕の出方を窺っていたようだった。


それに伴って、彼女の顔を、姿見を、ハッキリと視認してしまった。


いや……女の子だ……


僕と同じぐらいの年齢っぽそうな、綺麗な顔立ちの女の子……。


長い白髪は、実は薄緑がかっていて、彼女の耳後ろの1束はイヤリングカラーと言うのか、右耳が赤く、左耳は青く染められていた。もしかしたらエクステかもしれない。てっきり老婆の幽霊と勘違いしたが杞憂だった。眉毛も睫毛も白色気味で、淡めのエメラルドの宝石のような瞳をしていた。服装は個性的で、何かのアニメキャラのコスプレなのだろうかという印象だけが湧いた。なので、一見の彼女の印象から原宿らへんのコンセプトカフェの女の子なのかなと推察し、とりあえず普通に人間だと言うことにようやく心の底から安堵した。


「あぁ、良かった」と呟き、ひと息ついて「オバケかと思ってビックリした、驚かせてごめんなさい、大丈夫ですか?」と、手を差し伸べると、彼女は僕の想像とは違い、表情を変えず、ただ少し眉を顰めながら


「こちらこそ、申し訳なかった」


と、頭を軽く下げるような動作をし、差し伸べた手に対しては無視で、その場から立ち上がりながら、両手で両膝の砂埃を、パッパッと払った。


彼女の様子として、声色は低くハスキーで力強い口調に、見た目から想像した印象では可愛らしい感じを勝手に想像したが、実際とかなり異なっていて、ギャップを覚えた。なんなら、ドキッとすらもした。


「君に訪ねたいことが3つ程ある」


彼女が姿勢を改めながらすらっとした足を組み替えると、両腕を組み、左手は顎に添えられて、それは悩む仕草だとわかると、右手は人差し指を立てて、それを僕に指すように向けた。「は、はい」と僕が慌てたように返事をすると、うなづいて話を続けた。


「質問その1、ここはずっとカフェだったのか?」


これまた予想外な質問がきて、「え、えっと」と声が裏返りながらも「そうだと思います…」と答えながら、むしろカフェじゃなかった時なんてどれだけ昔の話?と自分の記憶を一応遡っては見たものの、そんな情報は脳内にある訳がなかった。


ふぅん、なんて反応をして、特に期待していた回答ではなかったのか、話は特に続かず「質問その2」と次に進むと、彼女は両手を開いて、息を吐いて一呼吸置いてから、今度は両手を腰へと運んだ。


「明日からは、ここじゃなく別の住居へ引っ越してもらえるか?」


「……は?」


「案ずるな、悪い様にはならない。もっと良い所に住めるよう計らってやる」


「えっ……っ?どういう……?なんで?」


彼女が話してる言語は日本語ということは解るはずなのに、言ってる事が理解できず苦しむ、冗談なのか……?いや、彼女の表情は恐ろしく思えるほど真剣にしか見えない。


「見たところ、そこのソファ席で毎晩睡眠していたように窺える、新しい大きなベッドも用意してやる、どこに住みたい?マンションか?一軒家か?」


このカフェの窓沿いはカウンターテーブルで、反対側は壁に沿ってソファの座席があり、50cm四方の小さなテーブルが本来は並べられているはずだが、そのテーブルは隅に固めて追いやられ、スマートフォンやゲームの充電コードなど僕の私物が散乱している。本来は客席のソファ席も、カフェとして全く不似合いな枕と毛布がぐちゃぐちゃに置かれてるのを見れば、そこで人間が睡眠を取っているは一目瞭然だ。


「いや、いやいやいや!ちょ、ちょっと待って、え?あれですか?不動産的な営業的なその辺の関係の人ですか??テナントの権利欲しい人的な?」


「あぁそうだ、ここのカフェの権利が欲しい。そっちの条件はなんでも飲もう。金をいくらか払っても構わないよ。」


「無理です!!!!!!!いくらお金積まれても、こ、このカフェは大事なので!!!ごめんなさい!!!」



「ほう……」


と、またしても彼女は、特に食い下がりもせず、表情も変えずに「では質問その3だ」と、あっさりと話を変えた。



「何故、君は私の姿を目視できるんだ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ