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0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
Chapter.2 Just EZ game!
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08:サプライズ

『2024年Jリーグ開幕の第一戦!!現在選手は試合前の最終調整に入っております!!そして!ここで皆様にサプライズがございます!まずは!!キックインセレモニーにシークレットゲストとしてこの度、俳優のSuiryuさんと阿津勇彌さんにお越しいただきました!!また、Suiryuさんは川崎市出身でメーアマーレのサポーターでもあります!』


スタジアムのモニターには、メインスタンドからフィールドへ、笑顔ではにかみ手を振りながら歩く阿津とSuiryuの姿がアップで映し出された。


キャァァァァーーー!!!ウォォオォオーー!!

黄色い歓声と野太い叫び声が混ざった3万5000人のざわめきと拍手でスタジアムが揺れそうなほどに響き渡り、観客のボルテージは跳ね上がった。


なるほど、阿津とSuiryuの2人が八高茅都へ挨拶に訪ねていたのはこの為だったのかと理解した。


『そしてそして更にぃ!!皆様!会場のモニターにご注目ください!!』


スタジアムには出場選手の情報や試合中の戦況などを表示する巨大なモニターが設置されているが、それが今は一度暗転した後、映像が流れ始める。


ドォォン!!と映像背景の効果音が響き、観客の関心が一気にモニターに集中し、騒ぎは止む。少しの静寂。


『恋のゲームのホイッスルは鳴るーーー』


『BoT系列火曜10時ドラマ、"マイフレグランス"4月9日スタート!なんと今回このドラマに、川崎メーアマーレが制作に全面協力する事になりました!!』



画面に字幕が映り、合わせてキラキラシャラシャラ〜と効果音がなり、『純情的な恋愛』を連想させるに相応しいようなストリングスのはねる軽快なメロディーで爽やかな音楽がバッググラウンドで流れる。


パチパチパチ!!と盛り上がりの拍手が響く。


俳優である阿津勇彌とSuiryuがサッカーのセレモニーイベントにゲストとして出るのは、このドラマの出演のための番宣のためだったのか。そういえばこの開幕戦の試合の様子も、BoTで生中継で放送されているとの案内があった。


BoTの火曜10時枠のドラマと言えば、働く女性を主人公とした王道恋愛ドラマが多い……。話題のヒット作を連発しており、出演した俳優も箔が付いている。僕の憧れであり目標の一つでもある。


【どうしても……!このチームを優勝に導きたいんです!】


セリフには音声が無く、字幕として表示されている。


『順位低迷降格間近のクラブチームに配属された、熱血女性新人フロントスタッフ 田中 明里 役 主演 Suiryu!!!』


DJが配役の案内を興奮を煽るように読み上げてる。モニターにSuiryuの宣材写真が表示されていた。「可愛いーー!!」などと客席から歓声が飛んでいた。


【このチームは弱くない、だって僕が、このチームにいる限り、勝ち点3は手中に収まってるーーー】


『海外への夢を視野にチームを牽引する誇り高き若手エース長月灯尚 役 阿津勇彌!!』


こちらも同様に、阿津の写真が表示されていた。


【恋もサッカーも本気で行かなくちゃ……!その方が楽しいでしょ?】


『リーグ公式女子サポーターのサッカーガチファン人気売れっ子インフルエンサーモデル"ふくまっこ"こと福田真恋役 浅葱朝名!』


浅葱朝名も出るのか……!在里早の週刊誌スキャンダルでSuiryuと共にいた清純派人気売れっ子女優……。2人が仲良い事はバラエティ番組で語られる事も多くそれなりに有名な話だ。私生活でも関係のある同士の俳優がキャスティングされるのはよくあるケースだ。


ーーそして、映像は続く。


【俺にはできねぇ事がお前らには出来るんだよ!だからもっと!!その才能を有難がれよ!!】


…………!!!


写真が映し出されたその瞬間、目の筋力に力が入る。脳の記憶処理が瞬時に照合を完了した。


そんなまさか………。


『サッカー選手の夢を諦めたかつての大天才ストライカーコーチ 山手 朝差陽役 連続ドラマ初出演 NOI"r"SE 九真在里早!!』


「あぁあ!?!?えぇぇ!?!おぉぉぉぉぉ、俺ぇぇぇぇぇ!?」


!!!??!


二度見、いや、三度見しても、映し出されていた写真も名前も在里早だった。


ザワッ………!!ドッ………!!と、観客も歓声ではなく困惑の色の強いどよめきが駆け巡った。「えっ!?茅都でも依弦でもなくて、在里早!?」「あの週刊誌撮られたメンバーじゃん」「わざと?狙ってんの!?」そんな声がちらほら、耳に入り込んでくる。


杞憂だろうか……、何かの裏の意図を感じる……。


【不器用な僕なりに少しでもできること、このチームを支えたいんだ】


『明里をサポートする内気で真っ直ぐな先輩フロントスタッフ 寺洲 周斗役にアカデミー賞主演男優賞を受賞したばかりの期待の注目若手俳優・餘部日柄!!』


「……………だっ、だぁぁぁああ!!??」


在里早がキャスティングされた事に驚いていてモニターから視線を外していた……!!スタジアムDJによる"餘部日柄"という声が寝耳に水を砲撃されたかのように脳を直撃した……!


ぼ、ぼ、僕!?………おかしい、おかしすぎる!出演オファーのOKなんか当然出していないしそんな話も聞いてない!!社長が勝手に受けてきたのか!?


「おい!日柄!!!なんだこれ!?どうなってんだ!?」


「ちょっ名前いわないでよ!!いや僕に聞かれても僕に聞いてない!!絶対おかしい、こんなの!!」


「だとしても、連ドラおめでとう俺たち!!??」


「今そんな素直に喜んでる場合!?」


『そしてそして、スペインからの助っ人選手エミリオ役に、同じく注目の俳優ミシェル・サントナ!明里達が所属するクラブチームの監督役に館山 賛治郎!他にも豪華俳優陣を迎えてお送りいたします!放送日までお楽しみに!!』


ミシェル先輩に、僕の憧れの館山さんまで……!


「えっ!!!でもすげぇじゃん!!すげぇでかい仕事やらせてもらえるんじゃん俺ら一緒だし!!」


「そうだけど……!やっぱこのキャスティングおかしいよ!!だって在里早はこれでいいの?!」


「えっ………まずい……のかなぁ……わかんね……昨日までのこと覚えてねぇから……」


「在里早くんドラマ出るの初めてなのに!なんで共演あの女!?」「無理すぎ!いずるんが出た方がマシだった!」「Suiryuと浅葱とか見たくなさすぎ!!」


周りのNOI"r"SEファンが騒ぎ立てているのを聞けば、どんな感情を持てばいいのかわからなくなったようで、喜んでいた在里早も困り果てたように黙り込んだ。


ギィィィ…………


なんだ……、頭の奥が、グラグラする。脳を掻き乱されるような、三半規管が言うことを聞かない……。


ギィィィーーーーーーーー……


音域の低い耳鳴りのようなものが鼓膜から骨を伝って全身に鳴り響く。視界の輪郭の縁が黒ずんでぼやけていく。写真加工でビネット効果をかけた時みたいに。


「おい!!こんな前座いらねんだよ!」「ただでさえ茅都にはウンザリしてんだよこっちはぁ!!」「サッカーしろ!俳優出すより結果出せ!!」


一部からぽつりぽつりと、数人の男の怒号が聞こえる。しかしすぐに、周りのサポーター達に「落ち着け」と嗜められていた。確かに、サッカーだけを楽しみに試合を見にきた人にとって、そういった不満の声も出てくるのは当然だろう。確かに僕もその異質さは感じていた。


「ブゥゥゥーーーーーー!!!!」


これはブーイングってやつだ。観客の集団的な非難の意思主張。


1人に感化された誰が、また1人、1人と連鎖して便乗して、その声は次第に大きくなっていった。


「こんなことばっかやってるから9位なんだよ!!」

「川崎の八高茅都はアイドルじゃねぇ!!選手だろ!!」

「サッカーをやれよ!!」


鬱憤、怒り、ネガティブなマイナスの感情のエスカレート。


だめだ……、僕の感情を司る部分が強制的に共振される感覚だ。今すぐここから抜け出したい……。


「なぁ!これってヤバくね!!?」


在里早が深刻そうな表情でスタジアムを見渡す。


「はちゃのこと悪く言わないで!!」

「オッサンたち黙ってろよ!!」

「こっちは茅都くんみたくて金払ってんの!!」

「キャスティング変えろ!!」


『そ、それでは!阿津さんとSuiryuさんに選手入場となります!お二方、ステージの方へお願いします!』


スタジアムに用意された特設ステージの阿津とSuiryuも立ち尽くしていた。会場中のスタッフが慌てて走り出した。予定通りであれば楽しい雰囲気の状態でドラマの告知をしながらセレモニーを開始していたはずだったのだろうが、怒号の飛び交う状況で、これは明らかなる予期せぬ事態だ。


ブゥゥゥーー!!!ワァァァァァーーー!!!


とうとう、1人のサポーターが柵を飛び越えようと足をかけた。警備員たちがすっ飛んでいって止めに行ったが、また1人、また1人と別の場所でフィールドに降りようと飛び越えようとするサポーターが現れた。普段はこんな事全くないのだろう、目に見えて警備員の数が足りない。侵入は容易いだろう。


『スタジアム内へ降りる行為はお止めください!すみやかにご自身の席へお戻りください!ご着席願います!』


これは、暴動が起きるのか……。固唾を飲んでどう動くべきか、在里早に話を持ちかけようとした。


やはり今すぐに翠々芽さんを探しに行こう、と。


在里早のいる右隣に視界を向けようとしたその時だった。


ーーーずんっ!………と鳩尾に衝撃が加わる。


条件反射で、それを両手で受け止めた。


僕の手の中に硬い"何か"の感触が加えられ、確認すれば、それはーーーー"翡翠"……!!!


「ありさっ………ぁあ!!!!!!」


在里早の"魔法"は解かれていた。


在里早はコンコースからフィールドまでの階段を段飛ばしで俊敏に駆けて、呆然とする僕の視界から遠ざかっていく。


あぁ!!!!もう!!!頼む!!勘弁してくれ!!!!!お前が衝動的に行動するから!!僕の考えが全部吹き飛ぶんだよ!!!

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