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0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
Chapter.2 Just EZ game!
26/34

03:交渉

挿絵(By みてみん)

僕はテレビに表示されているニュース中継の表参道の様子をスマホで撮影し、メッセージと合わせてグループLINEへ送信した。


『表参道が公園になっちゃったってニュースでやってますけど、あれも敵の仕業ですかね』


すぐさま既読数の表記に"2"がついた。依弦さん以外に誰かが閲覧したようだ。返信を待っていると、テレビ画面に大きく八高茅都の映像が映し出された。サッカーのユニフォームを着て、人工芝の上を駆け抜けている様子だった。


『渋谷区表参道の状況について、引き続き情報が入り次第お伝え致します。続いてはスポーツのコーナーです。本日2月24日、Jリーグ開幕!という事で、やはり一面を飾るのは、J1川崎、前人未到の司令塔、日本代表八高茅都!ですよねぇ!俳優としてもアイドルとしても活躍する八高ですが、昨日のジャパンアカデミー賞主演男優賞を惜しくも逃してしまいましたが』


「う、うぐっ……」唐突に差し込まれたアカデミー賞の話題に、心臓が締め付けられた。過敏になっている。


『本日14時キックオフ、等々力競技場をホームに対するは浦和、開幕の一戦という事で、観戦チケットは販売開始数秒で即完売!応援グッズも予約段階で完売など八高バブル止まずの川崎は昨シーズンは9位と成績振るわない結果でしたが、今シーズンは躍進を遂げるでしょうか!』


僕自身、スポーツもサッカーも代表戦がテレビにやっていれば気まぐれに見る程度のにわかなので知識は全然ないが、八高茅都のサッカー選手としての活躍は、9位という結果からそこまでなのだろうか。


手元のスマホに、ディロリンディロリン♪とLINEの通知が2件来た。


【はせがわ】

『今私は表参道にいるが、報道の通りだ。当然あれも奴らの個我鳥の能力だよ。建物や土地などが建て替わった訳ではなく、人工池や木々に成り変わり公園のように視えるように設定されてしまったようだ』


『やつらの目的は分からん。一通り見て回ったが、野次馬が多すぎてまともに動けなかった。表参道ヒルズで眠らせた人間も誰1人いなくなっていたよ』


訳のわからない事象に眉を顰め返信メッセージを考慮していると、在里早は、僕の隣に寄りかかり肩に顔をぴったりくっつけて、僕の操作するスマホを覗き見ていた。これだけ近づかれれば不快感はあるが、特に構わなかった。


「ふーん、なんか現実世界でチート使ってMOD適用してスキン変えたみたいな感じぃ?」


在里早が何を言っているのか何一つ分からずぽかんとしていると、僕の顔を見て在里早は「あ、もしかしてゲーム全然やらないタイプ?」と反応した。


昨日も同じことを聞かれたような、と思いつつ、「ほんとに記憶消えてるの?」と、少し苛立ちが混じって、皮肉混じりの無神経な言葉を言ってしまったと後悔しかけたが、本人は気にする素振りは全くなかった。


「言葉とかは出てくるんだけど……、思い出がごっそりない感じなんだよね。アマゾンだって、一昨日の夜に見た夢をキッチリ思い出せるか?それと同じ感覚」


「せめてさっき教えたばっかりの名前ぐらいは思い出そ……?"餘部"を覚えるのが難しいなら、日柄で良いから」


「いやー悪ぃ、次からは気をつけるわ、ナイアガラの滝」


「わざとじゃん!?えぇ……!?」


僕の反応に在里早はニヤッとした。やっぱりイライラした。


「でもさ、一番好きなアサルトライフルはM4A1なこともマックのメニューはベーコンレタスバーガーしか食わねえ事も余裕で覚えてんのに、俺が何なのかとか、誰と友達で誰と関係があっただとかは全然わかんねえ、特に、俺は国民的アイドルだった、俺はNOI"r"SEだ、っていうのが一番意味わかんねぇんだよな……」


「………茅都にアイドルの記憶消されるほど、嫌われてたってこと?」


また口を滑らせた僕の言葉に、在里早はらしくないような悲しい顔を一度したが、すぐに表情を変えて「まぁ、そりゃこんな失言炎上野郎で、デビュー直後の大事な時期に女の子とぷよぷよやってたんなら、一緒のグループにこんなおちゃらけたやついたら活動の邪魔すぎだよな〜」


アイドルを好きだった事も、当然アイドルだった事経験も何もない僕は、そういうもんなのかと思いながら、他のメンバーとの仲はどうなの、なんて尋ねてしまいそうになり、止めた。今度やんわりと依弦さんに聞いてみようと思う。


ディロリン♪と再びメッセージの通知が来る。


【はせがわ】

『これから八高茅都の川崎の試合にも行ってみるつもりだ』


「えー、俺もサッカー見に行きたい」と在里早がまたくっついてLINEを覗き茶々を入れてきたが『チケット完売だって、行っても入れないんじゃ?』と返信した。


【はせがわ】

『客ではなく関係者として侵入するので問題ないよ』


翠々芽さんの認識を変更させる能力とやらで、関係者に擬態し、チケットをパスしスタジアムに入るつもりなのか。


「それ良いじゃん!俺らも行こうよ、スパシーバのお友達ですって言って入れば良いじゃん、関係者だし」


「八高茅都に僕らが中にいるのバレたらまずいんじゃ、また何か襲われたりするかもよ……」


「じゃあ、その子のマジカルミラクルパワーでなんとかしてもらえねえの?」


いやいや、とは思いつつ、今日のスケジュールは白紙になってしまったし、スタジアムまで調査に行くという手はアリだと思った。


『僕と在里早も連れてって貰うことは可能でしょうか』となんだか妙に緊張しながら、まるで上司に何かをお願いするような感覚で送信をした。


【はせがわ】

『ダメだ、私と赤原だけで行く。リスクが増えるのことは避けたい』


「ダメだってさ」


返答の結果を諦め気味に伝えると、在里早は随分と不服そうだった。


「良いじゃぁん!なんとかしてよぉ!」


「えぇー……そんな事言われても……」と言いながら、どう翠々芽さんを説得すればいいのかなんとなく考えて、そういえば、と、昨日翠々芽さんが能力を使うために発動したおにゅーだったティファニーのネックレスの存在を思い出した。


「じゃあ20万のティファニーのネックレスどうにかしてくれたらいいよ」


払えるわけないだろ、なんでだよ、嫌だ、みたいな反応を期待してそう告げた。


「別にいいよ」


「え?」と驚いた声が先に出る。諦めてもらおうとして言った提案を、思いがけずに即答で承諾されてしまい、慌てる。


「今めっちゃお前に迷惑かけてるし、そんぐらい別に奢るよ」


「いや、えーっと……、ちゃんと説明すると昨日、茅都に襲われた時に翠々芽さんのネックレス壊させちゃったから、茅都にそのティファニー代弁償させたいから手伝ってほしいなって……」


自分がまるで高級ネックレスを人気アイドルの男にたかろうとしてる情けない人間になっている構図は不本意なので、すぐに誤解を解きたかった。


「あぁ、そういう意味?でもいいよまじでそんぐらい、俺がいくらお金持ってるか知らんけど、多分余裕であるっしょ。アイドルなら稼いでんでしょ。サッカー選手もやってる茅都にとっては20万なんか20円みたいなもんじゃね」


しかし言葉とは真逆に、在里早の表情は随分と渋かったので、「嫌がって諦めてほしかっただけで、ネックレスは僕だけでなんとかするから忘れて」と答えると、首を横にぶんぶんと振り出した。


「いや、違う……。それとは関係なく、なんか、すんげぇ嫌な思い出があった気がする……思い出せないのに、思い出したくないような……」


こめかみの部分を抑えて苦い顔をする彼に「だ、大丈夫?」と声をかけたが、「何でもない、ありがと」と話を流された。僕もそれ以上は詮索しなかった。


すると、完全に油断していた僕の手の中のスマホを、在里早はひょいっと取り上げた。「あっ、ちょっと」と取り返そうとするも、何かを入力し始めて「悪いことは書かねぇよ」と言いながら、シュポンっと送信音が鳴ってから、在里早は真剣な表情で僕にスマホを返した。スマホを再び見れば、


『記憶の件も八高茅都の事も俺の責任だ。みんなに余計な迷惑かけたくないから俺だけで解決したい。ネックレス壊しちゃったのも俺のせいでもあるよな、弁償させてほしい』


と送信されていた。焦りながら『って、在里早が』と付け加えた。表参道ヒルズ前で僕だけを逃がそうとした事も、記憶を無くしていてもゲーム配信を止めない様子も、在里早は責任感の強さは健在で、やっぱり根は真面目な人間なんだと改めて思う。


在里早の所属するNOI"r"SEの事務所、ジルコンエンターテインメントは、厳しいオーディションの関門をくぐり抜け選ばれた者だけがスターの原石として"ジュニア"という育成組織に所属し、そこからアイドルとしてデビュー出来るか否か、更に厳しいふるいにかけられるのは、周知の事実だ。在里早もそのふるいに残った人間なのだから、アイドルという仕事は人格者でなければ務まらないのは当然だろう。


ディロリンディロリンディロリンディロリン♪とけたたましく連続で通知音が鳴り、思わず慌てる。


【はせがわ】

『金には困ってない』


『あれは限定品なんだ』


『私も在庫を探し回ってようやく表参道で見つけたんだ』


『君に手配できるのか?』


連続で4件メッセージが届き、思わず肝が冷えた。


「よし!アマルガム日柄!一緒にティファニー巡りしような!」


そう言って在里早は勢いよく再度僕のスマホを取り上げる。「ええぇぇぇ?」 と僕の叫び声も虚しく、在里早は『じゃあ交渉成立ってことで!』と元気よく返信していた。、


「こういうのは、やる前から勝てねぇ事考えちゃダメだな!負けてから戦った事を後悔するんだな!!」


「み、見つからなくて土下座選手権やる羽目になっても知らないよ……」


「あっははは、でも一緒に付き合ってくれるんだ?おまえ優しいよな」


一緒にやるとは一言も言ってないのに、いたずらっぽく笑う在里早はどことなく嬉しそうに見えてしまって、そんな顔を見てしまえば、強気に出て拒絶するこは、僕の性格上できそうにない。


「断りづらいだけだよ……」


【はせがわ】

『二言は無いな?』


二言があったら僕らはどうなるんだろう。契約を破った暁には、ドブネズミにでもハエにでもされるんだろうか。


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