表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
chapter.1 代官山Refrain
17/34

17:夜霧の表参道-7-

「それか、今は餘部くんのことが好き、だとか」


茅都の言葉に、「え、い、今は……?まさか、元カノ……?元カレ……?」などと思ってしまったことをそのまま呟いて、ちらりと長谷川さんの方を見れば、表情は更に険しくなり、うんざりした様子で声を荒げる。


「どっちもたったさっき、"はじめまして" したばかりだよなぁ?餘部日柄はともかく、貴様に至っては挨拶よりも攻撃が先だったはずだね?まずは名乗ったらどうだ」


「えっ、えぇ……"八高茅都"を知らない日本人なんてどこにもいないと思ってました……」


「じゃあ私の国籍はトルコ人でもインドネシア人でもなんでも好きにしてくれ」


長谷川さんのぶっきらぼうな態度に対し、茅都が狼狽えるような様子は一切ない。


「んーー……違うんだ、なんだ。まぁ、そんなあっさりうまくいく訳ないか」


「な、ナンパが……?」


「うん、振られちゃったね」


ふふっと口角が笑っていても、彼の目は一切笑ってない。惚気た会話の恥じらいや、真剣な様子と捉えるには、明らかに違っている。おそらく彼の発言と裏腹は全く異なるのだろう。真意の読めないその真顔の表情は、不気味さが相まっていた。凡人である僕にとって、"八高茅都"という人間のあまりの異常性に、理解が追いつかないどころか、彼という人間を知るためには、宇宙の果てまで赴かねばならないのではとさえ感じた。


「餘部くんは、主演男優賞俳優になれて、嬉しい?」


茅都の思惑の考察の手がかりを得るべく、質問を思慮しようとしたが、茅都に質問を先越されてしまった。


思わず少しの間が空いてしまう。


その質問の意図を深読みしようとしたが、それが皮肉なのか、賛辞なのか、考察の結論は出ない。


「僕は…」咄嗟にそれだけ言って、一呼吸を置き、改めて口を開いた。


「富士山の山頂に辿り着く事を目標と例えたら、僕は、俳優として事務所に所属できたという、一合目の登山を開始し始めただけの段階なんです。これから、いろんな先輩の教えを学んで経験を積み重ねながら、1人でも多くの誰かの感動や勇気を与えられるような人間として成長できた上で、やっと登頂を達成できると思っていたんです。それなのに、勝手に頂上へ瞬間移動させられたみたいな感覚です」


無意識に拳に力が入っていた。緊張していて、冷や汗が額や首を滴った。


「だから、当然辞退します。八高さんに気を遣ってるわけでは決してなくて、今の僕には全く相応しくない」


茅都がどう捉えるかなど考慮せず、取り繕うことはせず、思ってる事をそのまま素直に吐き出した。


「んー……餘部くんって、真面目な良い子なんだね。俺も、その気持ちは、すっごく大事だと思う。でも、この世界は、"そういう仕組み"にはなってないんだよね」


全く想定していなかった返答がきて、黙ったまま狼狽える。僕の様子を見て、気にせず茅都は続けた。声色は低く優しく、話すスピードは丁寧でゆっくりしている。それでも表情からは冷たさを感じる。


「セオリー通りじゃないって事だよ。だからこそ俺は、この世界を美しく尊く想い慈しみ、揺るがない希望を持っていて、憧れを抱いてる 」


「……言っている意味が、さっきからずっとよくわかりませんよ」


「餘部くんが主演男優賞を獲ることだって、全くおかしくも不思議なことではないと、俺は思うよ」


「ならば、八高さんが僕らを襲ったのは、報復が理由ではないんですか」


単刀直入に切り込んでしまった気がして、思わず固唾を飲む。


「俺は在里早のこと表参道(ここ)まで探しに助けに来ただけだよ、そしたらたまたま君達と会ったってだけ」


「鳥を飛ばしておいて、その言い訳は流石に苦しすぎてお粗末だな」


僕に代わって長谷川さんが先に茶々を入れた。茅都の発言で悟れたのは、『助けに来た』など妄言であることが明白ということだけだ。


「いやぁ、マジだよマジ、マジなんだけどな。だって俺は別に獲っても獲ってなくても、どっちでもいいんだよな」


おんぶしている意識のない在里早を「おいしょっ」と背負い直す。


「俺は、俺が愛するものを、愛してるだけだからさ」


深い意味も意図も全くよくわからない。という感想しか湧いて出てこないのだ。茅都の様子はずっと表情も感情も、声の抑揚もずっと一定で、テレビやCMなどでミーハーなりなも目にしていた"八高茅都"というアイドルの優しい印象の笑顔や、ふわっとした人柄の暖かさなどは一切見えない。これが彼の素の姿なのか。鳥の脅威は消し去ったのに、茅都という存在に恐怖している自分がいる。


「じゃあ、用事はもうないから、またどっかで会ったらよろしく。気をつけてね」


僕らがぽかんと口を開けたままにも関わらず、茅都は別れの台詞を吐き、在里早を背負って背を向き、エントランスの方へ赴こうとしたのだ。どうやら、この場を去るらしい。


「え、いや!待って、それだけ?!」


どうして表参道がこうなっているのか、どうして鳥の影の群衆が襲ってくるのか、もっと深掘りすべきことはたくさんあるはずなのに。


茅都を追おうとする。


しかしーーー


ガッシャァァンァァン!!!!!!!


何故だか聞き覚えのある破壊音がけたたましく鳴り響き、施設内のコンクリートと反響していくのを感じ取れた。


それが大きなガラスの割れる音だとすぐに理解できたのは、たった先ほどばかり、スタバでも同じように鼓膜を劈くような爆音を食らっていたからだ。


"また"茅都が破ったのか。


否、茅都はまだ施設内にいる。通路上で、立ち止まっている。流石にそれには驚いていた様子に見えた。


表参道ヒルズのエントランスは、3箇所ある。

その3箇所全てから、豪快な破壊音が間違いなく聞こえた。


ガシャッ!ジャ!ガシャッ、ガシャガシャッ


ガラスを踏みつける足音は、当然鳥なわけはなく、明らかに人。それも複数人。


「あぁ、バレた。篭城が無意味になった。貴様らのせいだ、くそっ」


長谷川さんは、綺麗で可愛らしい顔に似つかわしくない暴言を吐いた。僕が表参道ヒルズ(ここ)へ入ってしまったばっかりに茅都を連れてきてしまったのは間違いなく、罪悪感のあまり、何も言い返せずに下唇を噛む。


施設内に侵入してきた人間はおそらく20人程度の若い男性。そしてその男性達の指示を待つように飛び回る飼い慣らされているような様子の影のような黒い鳥の群衆。


最悪の状況が視界に広がっている。


その先陣を切っていたのは、同じく若く10〜20代のスタイルが整った女性。胸元辺りほどの長さの黒髪で黒いレザーパンツに肩と胸元を露出させた黒いニットを着ていた。ルックスだけで判断すれば、彼女も芸能人と言われれば至って疑問に思わない。誰なのかは検討つかないが。


「はぁ、ウッザ、やっと入れたんですけどぉ〜。はち〜案内してくれてありがとぉ〜」


黒ニットの女の後方や、東側のエントランスから、ぞろぞろと男が此方側へ侵入してくる。その男たちもよく見ればルックスが整って見える。彼女も彼らも芸能関係の人間なのだろうかと推測する。


桑園調(そうえん しらべ)ちゃん、俺と在里早はもう関係ないから帰っていいよね」


メインエントランスから立ち去ろうとしていた茅都の目の前を遮るように女達は立ち塞がった。


「なんであたしのこと今フルネームで呼んだん?いやダメに決まってるでしょヨユーであんたも関係あるから」


茅都に"調ちゃん"と呼ばれていた黒ニットの女は、イライラしたような様子で、手持ちのチェーンの黒いハンドバッグをぶんぶんと振り回している。


その様子を唖然とみて突っ立っていた僕の脇腹に"バシッ"と打撃が入る、長谷川さんが僕にチョップをかましていた。


「な、何するんですか」


「聞け、私は先刻、君のカフェから去った後、普通にのんびり買い物がしたくて表参道に来ていたんだよ。そうしたら突然複数人に囲まれたんだ。奴らは私が目的だ」


僕の耳元にだけ届くように、長谷川さんは顔を少し寄せて小声かつ早口で告げる。


「さっき見てもらった通り、私の魔法は"石"が必要だ。しかし、逃げる時と、表参道ヒルズ(ここ)に誰も入って来られないように"設定"するために、手持ちのストックを使い果たしてしまったんだ。さらに、八高茅都の鳥を退治する為に、一目惚れのおきにのおにゅーのネックレスまで犠牲にした」


辺りを見渡せば、当然ショップが立ち並んでいる。ジュエリー店も何軒かあるはずで、そこから長谷川さんの魔法を発動させるために"宝石"を調達しなければならない


「"翡翠(ヒスイ)"を見つけなければ、私は何もできない。それか、餘部日柄が全員殴り蹴り倒してくれれば、この状況は打開できる」 


「ほ、宝石ならなんでも良いわけじゃないんですね、もうその2択しかないってことですね」


「もしくは誰かが助けに来てくれる3択目……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ