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0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
chapter.1 代官山Refrain
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15:夜霧の表参道-5-

下り方面は原宿側。先程入ったスタバへの外階段がある。勢い任せに原宿方向へ向かえば、迂回してきた茅都と遭遇する可能性がある。


当然、青山側へ進む選択肢しかない。上り坂だ。スピードは落ちるし、在里早はまだしも、僕は体力には自信はある方ではない。


しかし、テレビのニュース速報で中継されていたのは青山側の交差点で、長谷川さんが映っていた。単純に考えて、彼女はその近辺に居るはずだ。


僕はそもそも、"僕にしか視えない"長谷川さんに会おうとしていた。表参道がどんな状況なのかが気になって、何か特殊な能力が使えるのか、どんな理由でこんな事をしたのか、気になってしまった。そういった、はっきりとした好奇心。


だが今、彼女に会えたとして、八高茅都の仲間であり敵、という可能性もある。僕に危害なりなんなの加えて、彼女が欲しがっていた僕が居住するカフェ『To Two Three』を何らかの形で強奪するのが目的なのかもしてない。


彼女を捜すべきか、考え悩む余裕もなく、それよりも先に、在里早が表参道ヒルズ本館の入り口を指差した。


「俺、この中で茅都のことおびき寄せる」


は………?


予想外の返答に思わず固まる。


表参道ヒルズは商業施設。地下3階から3階まで高級ブランドや飲食店のテナントが入り並んでいる。建物の構造は細長い三角形のようで、ショッピングモールと聞いて想像するような大きな規模ではない。


「いや……なら一旦、表参道を出ませんか。原宿か、青山まで。表参道ヒルズ(この中)に入ったら、袋の鼠になるかもしれません」


「アマタツはそれでいい、俺が話しかけたせいで怖い思いさせて巻き込んで悪かった、1人で逃げてくれ。俺がヘイト買うから、中で茅都を説得する」


「…………」


在里早が八高茅都と鳥達と引きつけてくれるなら、自分だけなら逃げられるかもしれない。


何故、罪悪感を覚えるんだ。

何故、"九真 在里早"を苦手に感じていた自分を情けなく思うんだ。


そうだ、そもそも在里早に会わなければ、在里早が大声で喋らなければ、僕は1人で穏便に長谷川さんと遭遇できていたかもしれないし、鳥達に、八高茅都に追いかけられる必要は全くなかったじゃないか。


………それでいいのか?


もし在里早に任せて自分だけ逃げて、彼の身に万が一のことがあれば、胸糞が悪い。彼の心配じゃなくて、自分自身の心配。その癖、『こうなったのはお前のせいだろ?』なんて、本人に向かって堂々と責め立てる度胸もない。誰に聞かれることのない自分の意識の中で愚痴を吐く。裏腹では一方的な嫌悪感を彼に対して抱いているのに、彼は僕の安全を優先するような人間なのだ。そのせいで、彼に向いていた嫌悪感は全て、自分に向いた。


自分の情けなさに、腹が立つ。


「もしかして全然ゲームとかやんないタイプ?そういう戦術があんだよ、俺は大丈夫だからはやく逃げろ」


在里早は立ち尽くす僕に近づき、煽るように僕の胸元を手のひらで軽く突き飛ばすように押し除けた。おちゃらけて振る舞う彼の表情は硬く真剣、かと思えば、


「こういうイケメンの役やりてぇ〜!まあ俺バラエティの仕事しかやった事ねえけど!」


なんてとぼけながら在里早は鳥達をおびき寄せるために、距離を置こうとする。


しかし、僕も同様に表参道ヒルズの方へ足を動かした。


「お店の中に武器になり得そうなものがあるかもしれないし、それに、僕もあの賞は八高さんの方が絶対相応しいはずなんです、なんでこうなったのか、話し合う余地はあるはずです」


在里早の言葉に甘えて逃げるべきが、最善の選択なのはわかっている。自分で自分のプライドを納得させるために、理由をこじ付けたんだと思う。


僕は、"神様"になりたいから。


それで八高茅都を説得できないのなら、普通の人間だ。


「俺がかっこつけたの台無しじゃん」


僕の返答に困ったように、在里早は眉を八の字にして、苦笑する。


「グーグルで"九真 在里早"って打ったらさぁ、"性格悪い"って出てくんの。俺、5大ドーム埋める超国民的アイドルなのに」


「だから全然友達居ないんだよね、俺。今さ結構喜んじゃった」


在里早は、あははっ、と歯を見せて笑って見せる。


「ありがと餘部日柄、一緒にハチコーぶちのめすか!」


「ちゃんと名前覚えてるじゃないですか……」


そんなお礼を言われたことに、照れ臭さよりも、自己嫌悪の方が勝った。この人の根は僕とは違い、物凄く良い人なのだと悟ったからだ。それでいで、彼は世間では『性格が悪い』と言われてしまうのならアイドル"という職業は一体どれほどの聖人でなくてはならないのだろうか、なんて、アイドルとは程遠い僕がしなくていい心配や同情が湧いてしまった。


ーーーー


メインエントランスから表参道ヒルズ本館へ侵入する。買い物をしに来た客のように、自動ドアは簡単に開くし、問題なく施設内に踏み入れた。


この施設は、通路が長い螺旋状のような大きなスロープになっており、一周する事で上下の階へと通じている。吹き抜けの中央部には長い階段がB3からB1まで続いている。


エントランスは1階に位置する。


気付かれる前にどこかの店に入り、戦えそうなものを物色したい。空き巣やら強盗みたいで随分気が引けるが、既にスタバをめちゃくちゃにしてるので、今更だった。


「飲食店とかで、包丁とか探すのはどうですか」


周りは高級ブランドのブティックやコスメのそういう店ばかりだ。表参道の土地柄、当然なのだが。


「………」


「……!!」


在里早が居ない。


返答がないために後ろを確認したことで、居ないことに気付いた。


「九真……さん……?」


入ってきたエントランスは、静かだった。人の気配はない。神隠しにでも遭ってしまったのか。身の毛がよだつ。少し落ち着いていた心臓がまた激しく騒ぎ始めた。


慌てて、引き返し建物を出ようとした時、


「なぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


「!!??」


女性が叫ぶ声がする。

再び吹き抜けのスロープ通路に戻り、声の元を探す。その声には聞き覚えがあった。


「も、もしかして長谷川さん!??」


こちらも声を張り上げ、辺りを見渡す。声は下から聴こえた。通路の手摺を掴み、下側を覗く。すると、彼女は階段の踊り場部分に立ち、こちらに向かって指を指していた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んでぇ!!!!何故だ!!!!貴様がここにいるんだ!!!!!なんでここに入れる!!!!!!!!」


「えっ!?いや、ん!?普通にエントランスから、え?!」


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