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0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
chapter.1 代官山Refrain
12/34

12:夜霧の表参道-2-

挿絵(By みてみん)

「あのハチコーワンちゃんに勝てたオトコとこんな所でばったり会うなんて激アツだなぁ?俺感動したもんスタンディングオベーションしちゃったもんちょっとざまあみろって思っちゃったもんアマなんとか日柄くん!握手しよう!」


静寂と化したこの表参道に全く噛み合わない陽気なテンションで彼は手を差し出し、とりあえず握り返して握手をしたが、この人めちゃくちゃ喋るな……!顔はかわいらしいけど言動がチャラチャラしてるし僕の苦手な人種かもしれない……!この状況で人間、しかも同じ業界の人に会えて嬉しい、と思った感情をちょっと取り下げたくなった。けれど同時に違和感を覚えた。ジャパンアカデミー賞のテレビ放映は22時。その受賞者の結果を知っているという事は、あの会場にいた人物しか知り得ないはすだ。なので当然「授賞式の結果を知ってるって事は、あの場にいた俳優さん?」と推察するのが自然だ。しかし彼は「ダウトな!」と即刻その説は一掃された。


「いや〜〜〜しんどすぎね??俺の繊細なガラスの心にヒビ入っちゃったわぁ」


大袈裟に両手で心臓を抑えるようなリアクションを取りながら、彼は続ける。


「どうせ俺は、NOI"r"SEでは後ろ側のメンバーだよ」


先程とは打って変わって切なそうな態度で放ったその言葉で、僕は「あぁ!!」と記憶が呼び起こされた。そういえば確かに見た事がある、なんて納得するのも本来は失礼なのは承知なのだが、僕はドラマや映画の演技に関わるものしか勉強していないので、俳優以外の芸能人にはとても疎く、NOI"r"SEのメンバーは5人のうち俳優として活躍してる八高茅都と伊野依弦の2人ぐらいしかよく知らなかった。僕のその反応に対して、彼は眉間に皺を寄せながら両腕を組んだ。


「よし、今から俺の言うこと2つ覚えとけ芸能界アイアン帯アマチュア日柄くん」


これは煽られているのか……?


「あ、アイアン…?アマチュア?いや、餘部です……」


「いややっぱ3つにする!3つ覚えとけ!これが1つ目!こういうイジられた時はなぁ、もっとノリよく言い返すんだよ!ちょっと待ってくださいよぉー!ってリアクションクッソデカくなぁ!アマチュアくんがもししゃべくりとかツマミになる話とかに呼ばれた時どーすんだ!」


「芸能人生まだ1年未満で出演作1本とはいえ、アマチュア呼ばわりされるのは癇に障ります、何より起用してくれた方々に失礼です」と不快感を堪えきれず言い返してしまったが彼を見て誰か分からなかったのでお互い様かと大人げなさにほんの少しだけ後悔した。


「おん、そうだな」と彼はハッとした後申し訳なさそうな表情になり「確かに映画出てんだしハチコーに勝ってんだし、プロか。悪ぃ、イジり方間違えたわ。ほんじゃ、アマゾンプライムミュージック日柄くんで」


「…………」


なるほど、煽る意図はなくただ思いついたアマがついた単語を意味まで考えずに発しただけだなこの人は。


「2つ目、この芸能界っていうバトルフィールドではな、記憶力が良いヤツが勝つんだ、進行立ち位置台詞台本共演者先輩後輩スタッフプロデューサーやら金持ってる偉い人やらそいつらの顔と名前やらなんやらとにかく覚える事が多い!だから俺の言う3つのアドバイスを覚えろ!そして3つ目、俺の名前はーー」


「おつ、おつかれたい焼きベルトコンベア……確かこんな感じの名前だったような……」


「ちげぇ!!!!!こんベア・おつくま・対ありさ!な!なん!!!なんだそれ!!記憶の改竄にも程があんだろ!!」


耳から脳へ鈍器で横殴りされたかのような突拍子もない声量をぶつけられ、うろ覚えの曖昧な回答を口走った事を悔いた。「いやインスタのリールかなんかで流れてきたの見た事あっただけなんで……」などと、感情も声量も抑えて欲しかったのでそのように言い訳をした。


「リピートアフターミー!く・ま・あ・り・さ!!超国民的スーパーウルトラ最強アイドルNOI"r"SEのプリチー担当・九真 在里早な!!覚えとけなアマテラスオオミカミ!」


「こちらこそ、あ・ま・る・べ・ひ・が・ら、です………」

一体どの口が、芸能界は記憶力が制する云々の話をしてるんだ……。


『ギョォォォォアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


「?!!」


てっきり再び、コイツ改め九真在里早が癇癪を起こしたのかと勘違いしたが、比較的遠くの道の先からという事が分かるのは、在里早のクソデカい声と機械音以外何も鳴っていない表参道の街中ではとても目立って聴こえたのだ。ホラー映画やらに出てくるモンスターの断末魔かのような叫び声が反響したような。


「だぁ?何?!」と在里早はビクッと肩を浮かせて驚いた様子で「アマルガム日柄くんいくらなんでもそんな恐竜みたいな鳴き声しなくても……」なんて在里早のイライラする冗談に乗れるような陽気な性格の要素は僕は持ち合わせておらず、この状況で異質な奇声に怯えるほかなかった。


「もしかして表参道に帳降りてんじゃね?!これ呪霊とか俺を呪いに来たそういうやつじゃね?ならそのうち呪術師が助けに来てくれるっしょ!」


「えっ……なんの話ですか……!これがなんなのか解るんですか!?」


「えぇぇー!お前、呪術廻戦読んどけよ!俺呪われる心当たりあり過ぎてそれしか思いつかねぇ!!アマルガムは!?」


「22時過ぎて主演男優賞発表されたら八高茅都とノイズのファンに恨まれるかも……」


「うわぁかわいそ」


「なんとかしてくださいよ貴方の愛おしいファンたちでしょ僕きっとボコボコに叩かれる」


「無理だよ俺だってNOI"r"SEの人気ある方3人じゃなくて人気ねェ方2人のうちの1人だもん、おつくま〜」


確かにこれでも一応芸能人である僕ですら、在里早の事は顔だけをなんとなく覚えていた程度なので、在里早の卑下には思わず同情心を覚えてしまった。


『ギギギョォォォォアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』


先程よりもかなり近くで断末魔が聴こえた。


「これアレか?呪霊じゃなくて悪魔か?アンチの悪魔が俺を襲いに来たのか?」


「また漫画のネタですか?」


「チェンソーマン読んどけよ!」


『ギギギギギギャォォォォアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』


ーーーーーー!!!!


僕らは表参道のメインストリートから外れた脇道の狭めの路地裏に居た。その曲がり角から声の主が目の前に現れた。


大きい、鳥だ……。


カラスなのか鷹なのか種類はよくわからない、ただ黒い影のような、大きい嘴と大きい翼を羽ばたかせた大きい塊が目の前にあった。


そして、僕らを見つけるやいなや、それは僕らの方に飛び向かって来たのだ。


瞬時に見て理解した。


コイツは僕らを襲う。


「〜〜〜〜っっ!!!!!!逃げろ!!!!!!」


九真在里早と共にとにかく走り出した。


『ギィヤァ!!ギャァァ!!!』


背中から喚き声が刺さる。


「なっ!!!!なに!!アレ!!!なんだアレ!!」


パニックで思考が働かない、安全な所へ逃げねば、安全な所ってどこ?とにかく走れ、追いつかれたらどうなるかわならない。頭の中はそれだけだった。


だが、視界は霧。先までは見えない。


「はァッ!ハァ!!アレが襲ってくるっちゅーことはっ俺たちに悪さをしよーとしてることだろ!襲うってことは実力行使なんだ!話し合って交渉する気はハナからないって事だ!」


在里早は逃げ怯えながらも意外にも冷静で分析を口にしていた。それに同調も返答もできず「とにかく!!安全なところへ!」と訳も分からず走り続けた。背中から『ギィィヤァアギャ!』と鳴き声が分かりやすく聴こえるので、あの"謎の鳥"との距離を測れるのは不幸中の幸いだった。


「はぁっ!はぁ!スタバ!!ヒルズのスタバ行ったことあるか?!そこに逃げよう!」


在里早が先導を切る。「わ!!分かりません!!!」と土地勘が全く無いに等しいため、素直に言うと、着いてこいと言わんばかりに足の速度を上げた。ここは下り坂なので、幾分マシだった。


「俺逃走中出た事あっから!こういうのは得意!」


「今言うことじゃないんじゃっ……!もしあの"鳥"に捕まればそもそも僕らの命すらどうなるか……!」


「まぁ〜〜俺開始5分で捕まってその後全然オンエア映らんかったよね〜ギャハッハハハ!!!」


「この状況でマジ何言ってんすか!!!」


イカれてる人だと思った。けれどアイドルや芸能人などという常に目立たなくてはいけない人間とは、こうでなくてはいけないのかとも思った。これも鳥の怪物に追いかけられ逃げ惑っている今考える事じゃ無いのかもしれないが。


在里早は"鳥"から撒くために敢えてビルとビルの合間を通り抜ける。僕も追いかける形で素直に従った。視界は随分と悪い。だが、臆せず走り進んでいく彼は「マップ把握だけは得意なんだよなァ!」と訳の分からないことを叫びながら、右側にディオール、左にシャネルが見えれば、メインストリートの歩道橋の下に出る。


走りながら辺りを注視したが、やはり僕ら以外の人間も居なければ、道路に車なども通り抜ける気配は全く無かった。


目の前に開けた道路は道路は6車線。

歩道橋を通らねばという案など1ミリも浮かばないほど、道路の横断は至って容易だった。3車線超えた中央に柵があり隙間を縫って跨って超え、途中『歩行者横断禁止!』などと書かれた看板を目にして、危険は車道ではなく背後から迫るこの状況下にはなんだか可笑しく見えた。そのまま道路を渡り、向かいに商業施設のビルが視界に広がった。


『表参道ヒルズ』


表参道の土地勘のない僕でもドラマなどでよく見る有名なロゴが設置されていて、その真下には建物内地下に続く階段があり、取り付けられたスタバの看板を見た瞬間、なるほど、と理解した。


「降りるぞっ!」と在里早の背中を追いかける形で、バランスを保てるよう手すりを掴み滑らせながら階段を駆け下りた。


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