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0.5秒のディレイ  作者: 水鶏にさ
chapter.1 代官山Refrain
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10.速報

挿絵(By みてみん)

長谷川さんが去っていてから、ソファにもたれて少しばかしボーッとしてみる。このソファはカフェの客席用に作られてるから当然だらけるためには適しておらず、硬いなぁ……と不便に思うのだが、もしも長谷川さんの交渉にイエスと答えたら、めちゃくちゃ広いリビングにクソでかいテレビとかソファとかベッドとか、独り占めできるのかな、なんて少し空想に耽ったが、代官山と恵比寿の間ぐらいの駅から歩くにはちょっと疲れる距離で、人通りもこの辺りの住人がちらほら通る程度で寂れた位置にある雑居ビルだから、一階の古着屋に客が入ってたことはほとんど見なかったし気がついたらシャッターが開く事は無くなっていた。僕に代わりの住居を用意させても構わないぐらいここで儲かる見込みがあるって事なのかな。もしかしたら長谷川さんは、とんでもないほどのやり手のビジネスウーマンなのだろうか、僕と同じぐらいの年に見えて綺麗な人だったけど、もしかしたら美魔女……的なやつなのとか?実は結構年上なのかもしれない。


なんて考え事をしていれば、ジャパンアカデミー賞の事を、そういえばそうだったんだと思い出して、とはいえ、どう処理すればいいのかわからない焦燥感が湧き出てきた頃合いに


ドンッドン!とドアを叩く音がして、鍵をかけ忘れてた事に今になって気付いたが「どうぞ」と声をかければ、ミシェル先輩が入ってきたので都合がよかった。


「おい!日柄、お前顔ゲッソリし過ぎだろ!」


ミシェル先輩はズカズカと入ってくるや否や開口一番に、僕の顔を見て「大丈夫かよ!」と心配しながらペットボトルやら数本が入ったコンビニのレジ袋を差し出してきた。先輩は2、3時間前までの授賞式の格好そのまま、即ちタキシード姿のままだった。そしてその先輩の姿を見て、僕自身もタキシードのままだった事を自覚した。


「あの後どうなったんですか」と、ミシェル先輩も含めて関係者各位に迷惑をかけた罪悪感がずっしり襲っていきたが、恐る恐る訊ねた。聞かずに逃げ出してしまいたい気持ちも湧く。


「全然なんとかなったからそんな暗くなんな心配すんな!ジャパテレが編集でどうにかすんだろうし」


簡潔に聞くところ、僕がスピーチを放棄して会場を出てからそれ以降は、ミシェル先輩が慌ててステージに向かいミシェル先輩が取り計らってくれたようで、僕があまりの緊張にパニックになり気が遠のいてしまって救護室へ行ったと説明し、代理スピーチとして適当に"フェイクリアル"の作品内容を説明しながら、誤魔化してくれたそうなのだ。


「めちゃくちゃご迷惑おかけました……」とただただ萎縮して縮こまって小さくなる僕に「大丈夫大丈夫!監督も事務所のみんなも超大喜びのお祭り騒ぎだったから!今大慌てで宴会場用意して祝賀会してるよ!俺は行かなかったけど!」と僕の肩を勢いよく叩いて鼓舞してくれた。「先輩俺んとこ来ていいんですか」と再び恐縮すると「いいんだよ!俺酒飲めないしな!まあ、主役と脇役の2人は参加してないのウケるけどな!」とはにかんだ。


「とりあえず、日柄は改めて後日に受賞コメント出す事になってるから、内容考えといて!」


ミシェル先輩はそう言いながら、カウンターテーブルの椅子を僕の近くまで引きずり、椅子の背もたれを前にして両腕で抱え込みながら跨るように腰をかけた。受賞式をダメにしてしまったのではないかという不安な思いがずっと僕の心をギチギチにしていたが、先輩の報告のお陰で少し和らいだ。


「で、悪いけど、こっからは真剣な話な、さっき財偶さんに頼んで日柄のカフェまで送ってもらったんだけど」


明るく振舞ってくれていた先輩の顔付きが一気に神妙に変わった。という事はまず、財偶さんは僕をここまで送り届けた後、また高輪に戻って今度はミシェル先輩を乗せてここまで送ったのかと、マネージャーの仕事を有難く思った。


「俺も変だと思っちまう、八高茅都に主演男優賞取らせたくないなんかしらの組織があるとしたら、じゃあなんで代わりの受賞者が日柄なんだ?こんな俳優として、いや、芸能人として美味しすぎる肩書き、金で手中に収められるなら多額でも投資する事務所はいくらでもあるだろうし、茅都の事務所だって手放しで黙ってないだろ」


真面目トーンに切り替わった先輩の様子に、車内で財偶さんから先ほどの僕の考えを又聞きしたのだと察した。


「うちのアホ社長に日柄を主演男優賞に仕立て上げられるようなそんな権力も財力も絶対ねえから、社長の根回し説は可能性ゼロな」


僕らの所属する芸能事務所『綴良プロ』は所属俳優も20人程度しかいなく、綴良社長はよくボケてふざけたりと明るくて親しみが込められてしまい何故かアホの形容詞が付いたが、若いながらも社長の人当たりの良さで築いた人脈を駆使し細々と発展を遂げてきた小さい事務所なので、八高茅都のいるNOI"r"SEが所属してる『ジルコンエンターテイメント』などの大手芸能事務所と比べてしまうと象と蟻ほどの差があるので、前述の可能性は無いに等しい。


と、なると「妨害だけしたかったとか。八高茅都でも、他の俳優でも、主演男優賞を受賞されると都合が悪いという事があって、だから受賞しても恩恵が小さいライバルになり得ない僕に肩代わりさせた……とか」という考えに至るのだが……



「じゃあ、どっちかだな。日柄が受賞できたのは、茅都を妨害できればそれで良いなんかの勢力のお陰か、マジで日柄の演技が投票者の映画関係者の心を奪ったかの、どっちかだな」


「後者の方が、現実的じゃない気がしてしまいます……」


「ま、いいじゃん、今は喜んどけば?」


先輩は真剣モードからまた笑顔の明るい雰囲気に変わって「だってみんなも喜んでるし。実際撮影ちょー大変だったじゃんかぁ。評価されるの普通に嬉しくね?もしなんかやべえってなった時に悩めばいいよ」


先輩は買ってきたレジ袋からメロンソーダのペットボトルを取り出し、プシュッと音を立てつつ蓋を回した。


「でも、警戒だけはしとくって事だな。今は手掛かりが無い以上、考えようがないだろ?こういうデカい権力の黒い闇の話なんて、芸能界に限んねーよ。Uberで美味しいもん食べてオンエア見て祝杯あげよーぜ、カンパーイ!」


手に持っていたペットボトルを陽気に掲げた。けれどそんな先輩の明るい様子には合わせられず、


「い、いや……スピーチから逃げる自分の姿を、今からテレビ見るのキツくないっすか」


縮こまって肩を竦めたままだった。


「そんなこと言ったら俺もけっこー恥ずいんだぞぉ……心中だな」


現在時刻は20時を回り、ジャパンアカデミー賞のテレビ放映の22時まで、まだ時間はある。


「お腹空きましたね」

「結局緊張酷すぎてあのテーブルの豪華料理手つけてねえや」

「僕もです」


僕は晩御飯をUberのアプリを立ち上げる。ミシェル先輩は回転椅子に跨ったままリモコンでテレビの電源をつけた。


この時間帯ならば、家族向けの愉快なバラエティ番組が放映されている頃合だが、テレビがついて映ったものは、ニュースを読み上げるアナウンサーの姿だった。


『緊急速報です、現在、何らかの問題が生じ、東京都渋谷区の表参道駅周辺が立ち入れない状況となっております』


「ん……?」

テレビをつけたミシェル先輩が、画面に集中した。合わせて僕もiPhoneからテレビへと視線を移した。


『繰り返しお伝えします、現在、表参道駅周辺の状況は、人が立ち入れる事はできません』


「うぇ、なんでっ?事故か?」


現在いる代官山から表参道まではそう遠くないため、他人事とは思えなかった。食い入るように画面に見入る。


『原因に関する情報は入ってきておりません、しかし近隣の方々は決して表参道駅周辺には近づかないよう注意してください』


普段であれば、この時間でも人混みで賑わっているショッピング街なのだが、テレビの中継カメラに映し出された表参道の様子は、人の気配も全くなければ、通過する車も何も無く、CGで消されたのかと思うほどひたすらに静寂かつ閑散したの様子だった。


「近づいちゃダメなんて、怖すぎだろ……、テロかなんかか?」


ミシェル先輩は、SNSをチェックしようとiPhoneの画面ロックを解除した。


しかしその刹那、僕は画面の中の街中に、人がいることに気付いた。


「ちょっ……!!ちょっと待って!」


「あぇ?どーした」


映し出された表参道の交差点に、白い長髪の女性が歩いている。その白い長髪に対して、ものすごく見覚えどころか、さっき見て覚えたばかりで、その人物が表参道の交差点を歩く様子が映し出された


「は、は、は、」と、テンポがしどろもどろになって一呼吸置いたあと、


「長谷川さん!!!???!!!?」


あまりの驚愕に、喉から一気に声が溢れてしまった。


「え?!誰もいないぞ!?」


先輩も釣られて食い入るようにテレビを凝視するが「居なくねぇか?」というが、こんなに堂々と白髪の女性がテレビに映っているのに、先輩が長谷川さんの姿を見つけられないことがものすごく不気味で鳥肌が立つ。


「ちょっ!あのっ……!今から表参道行ってきます!!」


いても立っても居られず、カフェ内のその辺に掛けてあったジャケットを着てポケットにiPhoneと財布を突っ込んでカフェを出ようとすると、


「え!?ちょっ、待て!日柄!俺も行く!」


同じように慌てて、先輩は背広を脱いでYシャツだけになり、自分の着替えを入れたカバンの上に掛けていたジャケットを羽織り、僕が開けたドアの合間に飛び込んだ。


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