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 すっきりと目覚めた翌朝、リジーを待っていると、いつもより勢いのあるノックの音がしたが、エイベルの返事があるまでドアは開かなかった。

「入れ」

「失礼します」

 男の声で返事があり、入ってきたのは衛兵だった。衛兵はいつもリジーがするようにワゴンを押して洗顔用の水を運んできた。

「リジーは?」

 エイベルが問いかけると、

「リジー? …あ、侍女でしたら、今日はいません」

 いないと聞いて肩透かしを食らった。ずっと一人でエイベルの侍女を務めていたが、ようやく休みを取れたのだろうか。ゆっくり休めるといいと思いながらも、ちょっと寂しさを感じた。


 用意されていた水はただの水で冷たく、さっと顔を洗ったが、手を伸ばしてもタオルが出て来ない。声をかけてようやくタオルが渡された。着替えも用意されていない。衛兵にはそこまで気が回らなかったのだろう。要求することなく朝食を待っていると、別の衛兵が部屋に入ってきた。

「エイベル殿下、ご同行願います」

 二人の衛兵に連れられ、特に拘束されることもなく部屋を出ると、そのまま塔を降りて案内された先は王城内の使い慣れた自室だった。

「戻って、…いいのか?」

「はい。今日からはこちらでお過ごしください。指示があるまではこの部屋を出ないようにお願いします。朝食をお持ちしますのでしばらくお待ちのほど」

「先に体を清めたい」

「承知しました。すぐに準備いたします」


 部屋付きの侍女が今日の服を見繕い、確認を求められて軽くうなずいた。

 久々に風呂に浸かり、石けんを使って体を洗い、ゆっくりと手足を伸ばした。濡らしたタオルで体を拭くだけでは満足できなかったが、こうしてふんだんにお湯を使えるのも誰かが準備をしてくれているおかげだ。

 ひげを剃ってもらったのも久しぶりだった。

 自分の着替えに合わせて次使う物を手渡される。塔ではなかったクラバットもタイピンもある。ほんの一週間前まで毎日してきたことなのに、物を取るだけのことに人の手を借りるのが何となくぎこちなく思えた。途中で手を止め、

「後は置いておいてくれ」

と声をかけると、侍女は一礼して下がった。丁寧で従順な態度。侍女とはそういうものだ。


 着替えが終わると、タイミング良く食事が運ばれてきた。明るい窓辺に準備されたテーブルの上に一皿毎に並べられていく。焼きたてのパン、温かいスープ、スクランブルエッグにウインナー、新鮮な野菜。どれも一週間ほど前には当たり前だったものだ。食べている間も一人ではなく、給仕がついている。落とせば割れるだろう陶器の食器、ガラス製のグラス、武器にもなるナイフにフォーク。そういった物が制限なく出され、自分の罪人扱いが終わったのだと感じた。当然のことだ。何も悪いことはしていないのだから。


 食事が終わると、護衛のフランクが部屋に来た。フランクと会うのはあの夜会の日以来だ。

「午前中に陛下からお話があります。準備をお願いします」

「ああ」

 用件を伝えて立ち去ろうとするフランクに、

「いろいろ迷惑をかけた。すまなかった」

と告げると、フランクは両足を揃え、一礼した。

「お帰りをお待ちしておりました」

 ただの挨拶であっても、待っていたと言われるのは嬉しかった。


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