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 その後、第一王子エイベルに続き、第二王子ブライアンとキャサリン・ブラッドショー侯爵令嬢の婚約も解消された。ブラッドショー侯爵は領地で蟄居の身となったが、一ヶ月後に急死したと報告された。自決だった。爵位は嫡男ではなく遠縁の者が引き継いた。

 キャサリンは学校をやめ、王都から遠く離れた小さな領の嫡男に乞われ、嫁いでいった。少し年は離れていたが、昔から交流があり、家の事情を知り、それでも縁を結びたいと望んでくれた人だった。



 バーギン子爵家は聖女詐称で取り潰しとなり、子爵は十年間鉱山で強制労働に、ロザリーは北部にある戒律の厳しい修道院に送られた。しかし二ヶ月後、何者かの手を借りて修道院から抜け出したロザリーは、近くの森で遺体となって発見された。事故とも口封じで殺されたとも言われたが、真相は明らかになっていない。ブラッドショー侯爵の他にもこの事件に加担した者がいるのではないかと噂されたが、そこから先の捜査は進展しなかった。



 夜会から二週間後、学校に復帰した公爵令嬢は賛否両論だった。


 王子に婚約破棄されてなお学校に通う無神経さ

 王子に蹴りを入れた野蛮な令嬢

 偽物の公爵令嬢


 そう言って敬遠する者もいれば、


 王子を守り切った元婚約者

 頼りになる護衛

 素敵なお姉様


と高い評価と共にエリザベスを慕う者もいた。

 公爵令嬢らしく取り繕うのをやめ、地を出してのびのびと暮らすエリザベスは気の合う友人もできて、残りの学校生活をそれなりに楽しく暮ごした。

 昼休みにはエイベルの方からエリザベスに会いに来たが、王子より友人を選んで満足していたのはほんの一週間だけだった。


 たくましい令嬢方は家の命運をかけ、多少問題を起こそうと婚約者がいなくなった王子に狙いをつけたが、新たにエイベルの護衛についたヨハンはうまくあしらうことが出来ず、しばしばトラブルになっていた。見るに見かねたエリザベスは結局口出しし、週に一回希望する者を招いて王子を囲むお茶会を主催し、それ以外の場では静かな学生生活を保障するよう協力を「お願い」した。もちろん、お茶会での物品検査はなしだ。


 ロザリーと出会う前に戻ってしまった冷静な王子。しかし本当はロザリーに向けられていたような熱を内に秘めているはず。それがいつか自分に向けられる日が来るのではないと信じ、令嬢達はあの手この手でエイベルの気を引こうとしたが、どんな誘いも貢ぎ物も興味を持ってもらえなかった。

 やがてエイベルの視線がエリザベスにしか向いていないことに気がつくのに時間はかからなかった。

 エリザベスの特技(?)、学校の某教師のものまねシリーズが始まると、あのエイベルが声を殺しながら笑っていた。その笑顔を生み出せるのも、向けられるのも、エリザベスだけ。

 結局、学校生活でエリザベスの他にエイベルの心を射止める者はいなかったが、お茶会は王子との交流の場として身分や男女を問わず様々な学生が参加するようになり、卒業まで続いた。



 修道院の護衛の話は、当然ながらエリザベスが卒業する頃にはなくなっていた。

 学生の間は猶予されていた婚約も、いつまでも保留にしてもらえるわけではない。

 卒業を控え、さらに婚約を猶予してもらえないか悩んでいると、エイベルが公爵と交渉し、王城に勤めるならもうしばらく保留にしてもらえることになった。

 エリザベスはためらうことなく王城の護衛の試験を受け、紅一点ながら二位の成績で合格した。

 護衛はずっとしてきた仕事で同僚とも気心が知れ、今度は第一王子専属ではなく王妃や王弟妃、来賓の警護にもつき、自分の希望に近い仕事にやりがいを感じていた。

 

 エイベルは王太子ではなくなっていたが、これまで以上に国政に関心を持ち、学校を卒業後は国内外の各地に精力的に視察に出かけ、法の整備を進め、貿易に力を入れ、他国の新しい技術を積極的に取り入れた。

 視察の旅にはしばしばエリザベスが「護衛」として同行し、時に意見を交わし、かみ合わないことは納得するまで話し合ってユニークな施策を実現していった。その範疇はもはや護衛ではなかったが、だれも突っ込むことなく二人の成長を見守った。



 そして卒業から五年の月日が経ち、王は後継者をエイベルに決めた。

 反対したのはただ一人。王家と公爵家から王太子妃になることを決められ、王太子妃より護衛のままがいいとだだをこねたエリザベスだけだった。








お読みいただき、ありがとうございました。

当初予定より何度も話数が増えてしまいましたが、

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。


誤字ラ出現ご連絡ありがとうございます。

特に予告なく修正しまくってます。


公爵家最大の黒幕はパトリシアの姉貴です。(あくまで設定上)


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