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14 エリザベス 5

 ある日、キャサリンからエリザベスに相談があると持ちかけられた。

「ブライアン殿下のこと?」

 恋愛ネタの相談は自分では役に立たないと思っていたが、そうではなかった。

「ブライアン様と…、それにお父様のことで…」

 とりあえず一通り話を聞き、エリザベスは一人では判断できないと思い、エイベルの護衛フランクに相談に乗ってもらった。事情を話すとフランクはすぐに王につなぎをつけてくれた。


 二人の王子は同席せず、王と書記官、キャサリンにエリザベスとフランクが付き添った。

 話した内容を記録に取ってもいいかと問われ、キャサリンはうなずいた。

「学年が変わってから、ブライアン様が不思議なくらい私をお慕いしてくださっていて、戸惑うほどなのですが、…それに乗じて、父からブライアン様にお願いをしろと…」

 キャサリンは慕われていることさえ苦痛な様子で、顔を曇らせた。王の前で緊張しながらも、懸命に自分を奮い立たせて言葉を続けた。

「お城の食材に羊を多く取り入れていただきたいですとか、次の夜会に赤ワインを増やしていただきたいですとか、父からの依頼は領への優遇を願うことが多く、私も領のためになると思っていたのです。ですが私の願いを叶えるため殿下が無理を通そうとするので、皆様お困りになっていました。私がお願いをためらうと、父自ら動くようになり、殿下に宝石の購入を促したり、馴染みの商会を斡旋したり、お城の侍女やお役人の採用ですとかそういったことまで口出しするようになりました。それを私を王太子妃にするためには必要だと、父が言っているのを聞いてしまったのです。そんな言い訳でブライアン様は納得し、父の言うことを受け入れてしまわれて…。ブライアン様はずっとエイベル殿下を支えていくとおっしゃっていたのに…」

「うむ…」

 王の反応には驚きがなかった。ある程度把握済みだったのかもしれない。

「このまま父の要求がエスカレートしていくのではないかと思えてなりません。ブライアン殿下の体調もあまり良くなく、お痩せになっています。…それが、…もしかしたら父が……」

 キャサリンは言葉を止めた。まるで息が止まったかのように口を震わせ、目を閉じて心を落ち着けながら、自分を戒めるように言葉を吐いた。

「…殿下は、私を愛してはいません」

 その言葉が口から出ると、残りの言葉は(つか)えることはなかった。

「見せかけだけの執着だと思います。ロザリー様が学校にいらした当初も、魅入られたような目をしてロザリー様を追いかけていらっしゃいました。それが突然その目が私に向けられるようになり、思えばそれは父がバーギン子爵に会いに行った後からです。もし父が殿下に何かをし、害をなしているなら、取り返しがつかなくなる前に止めていただきたいのです」


 王はキャサリンをじっと見ていた。キャサリンの目に込められた強い決意は、王の視線を受けても揺らぐことはなかった。

「私としてはよく言ってくれたと礼を言いたいところだが、…わかっているだろうが、この発言は父上を裏切ることになる。その覚悟はできているか?」

 王の言葉に、キャサリンはゆっくりとうなずいた。

「真実が判明すれば、罪状によっては侯爵の地位は揺らぐこともあるだろう。そこに加減は出来ない」

 キャサリンはさらに深くうなずいた。

「罪があるなら、償わなければいけません。叶うなら、…命だけは…」

 その願いさえも、叶えられるかはわからない。

 キャサリンは自分に出来ることがあるなら協力したいと申し出、もうしばらくは父に気付かれぬよう今まで通り過ごすことになった。



 エリザベスがエイベルに向けた問いは正しかったらしい。慣習だった夜会の準備品のプレゼントもなく、当日迎えに来る約束も、時間の問い合わせもなかった。エリザベスはあえて義父や義兄のエスコートを断り、一人で会場に向かうことにした。


 エイベルが聞かなくともエリザベスと仲のいい侍女ヘレンが事前にエリザベスのドレスを確認し、瑠璃色のドレスに合わせてエイベルにも青を使った衣装を準備していた。しかしエリザベスは青は着ないだろうと予想していた。そしてその予想通り、当日その服には汚れが見つかり不採用になった。別の侍女アリーが選んだ服はポイントに緑を入れ、小物まで全て準備済みだった。

 エイベルは出されたままそれに着替え、アリーは自分の選んだ服が夜会用に選ばれたと得意げな顔をした。しかし王子が着替えを終えて夜会に向かった後、アリーは護衛に連れられて別室で聴取を受けた。


 アリーはブライアンの推薦で王子付になったばかりの侍女だった。ヘレンの選んだ服は目につくところに置かれ、アリーが汚れをつけたのを護衛の一人が目撃していた。

 アリーが何故緑を選んだのか。エイベルが持っていない緑の刺繍の入ったタイ、エメラルドのタイピンを用意したのは誰か。さほど問いつめられないうちに、アリーは頼まれて言われたとおりに準備したことを自供した。王子の宝飾品にまで触れる権限のないアリーに準備させるため、緑色の装飾品を依頼主が用意していた。王子がつけても遜色のない上等な品を用意できる人物。その依頼主はキャサリンの父親、ブラッドショー侯爵だった。アリーの父親は侯爵から支援を受けていて、自身も侯爵のおかげで王城で侍女の職に就いており、侯爵の頼みを断ることは出来なかった。しかも悲恋の王子と聖女の仲を取り持つ演出だと言われれば断る理由もなく、むしろ喜んで引き受けていた。

 こんなことがおとぎ話のように大団円につながる訳もないのに。


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