表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/73

第38話 アパートの前で

 私の家には喫茶『MOON』からゆっくり歩いても10分ぐらいで帰れる。

 さっきいた公園は『MOON』のそばに位置していて、私の住むアパートにはすぐ着くはずだ。


 いつも一人で歩いている馴染みの道なのに、貴教さんと歩くと今日は全然知らない違う道に感じた。

 景色が柔らかく目に入って来る。


 私は貴教さんに手を引かれながら彼の横顔をふと見ては少しドキドキしていた。

 貴教さんの温もりは大人の男の人の包み込むような安心感を持った。

 さっきはお父さんを思い出したりはしたけれど、こうしてずっと繋がれた手に時折ぎゅっとこもる力。胸がドキリとする。


 少し古びたアパートの外壁が見えると、貴教さんの温もりとさよならする一抹の寂しさが心にあがって来てしまった。


「チョコちゃん」


 静かな貴教さんの声が聞こえて、私は彼に抱きしめられていた。

 なぜだかびっくりはあまりしなかった。

 ずっと握ってくれていた手から、私のなかに貴教さんの気持ちが伝わり流れ込んでいたみたい。

 抱きしめてくれる。

 自然なことに思えた。


 好きなのはマルさん。

 届きそうにもない恋心。

 貴教さんの優しさは目の前にある。

 自分の心のなかが分からなくなった。

 貴教さんは私を慰めてくれているだけ。そうも思えた。


「チョコちゃん。好きだ」


 抱きしめてくれる腕が力強くて、それでいてホッとする。


 貴教さんの胸に埋もれながら私は目を閉じた。抗うことなんて頭に浮かばなかった。

 告白が貴教さんの想いが私のなかでスウッと溶けていく。


「好きだよ。チョコちゃん」

 貴教さんからの「好き」は、じんわりとあったかくて優しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ