果たせなかった約束 第四話
年が明け、いよいよ高校受験が迫って来た。それでも、週二度ほどはメールのやりとりしていた。
同じ高校には行けないとわかっていたので、せめてお互いを励ます言葉をかけて、受験を乗り切りたいと私は思っていた。
――勉強どう? 私、理科がダメだー。お互いがんばろうね!
――うん がんばろ
相変わらず潤南の言葉はそっけない。
それでも返事はくれるのだから、私のことを迷惑には思っていないはず。そう思うようにした。でも、ついに我慢の限界が来た。
その日、塾の模試の結果が返ってきて、私はどん底に突き落とされた。併願の私学の判定がBからEに落ちた。原因はわかっている。勉強に集中できていないから。机に向かっていても、頭の片隅では、いつも潤南のことを考えてしまう。
いてもたってもいられなくなり、メールを送りたくなる。でも、そうすることは、潤南との関係を危うくさせる。そんな風に悶々と日々を過ごしていた。
そしてついに私は、八つ当たりするかのような、言葉を送ってしまった。
――新しい友達の方が大事でしょ。好きな子もできたんじゃない? もう私のことはいいよ。
送った後で、激しく後悔した。最低すぎる。潤南は何も悪くないのに……すると、意外にもすぐ返信が来た。
――そんなことない
とだけ書かれていた。潤南の気持ちがわからない。そっけない態度を取るくせに、私を自由にしてくれない。あぁ、また八つ当たりしていると気づく。
***
自分の部屋で、模試の結果をぼんやり見ていると、ドアをノックする音がした。
「唯子、メール来てる」
姉がドア越しに、顔を覗かせながら言った。その言葉に驚いた。
――そんなことない
という、潤南の返信の後、私は言葉を返さなかった。潤南から続けてメールが来るなんて、思ってもみなかった。
姉の部屋に行き、パソコンの前に座る。新着メールを知らせる表示が、デスクトップにあった。息を浅く吐きながら、それをクリックする。
受け取りたくない内容だった。
――唯子は好きなヤツできた? それなら俺のことはもういいよ。
どうして。どうして、そんなこと言うの? 私には潤南しかいないのに…… 好きな子なんていない。
思わず涙が流れる。それを見た姉が「あんたも、いろいろ大変なんだね」と言った。慰めにもならない言葉だったけれど、私の心が乱れていることを、誰かに知ってもらうことで、一人じゃないと思える気がした。
心はぐちゃぐちゃでも、受験は迫ってくる。本番まで後、半月。今ここで気持ちを切り替えて、勉強に集中しないと、永遠に後悔する。
何とか気持ちのバランスを取りながら、私は私学と公立の受験勉強に気持ちを集中させたのだった。
***
三月十六日。公立の合格発表を迎えた。無事、自分の受験番号を見つけた時は、今までにない安堵感を覚えたのだった。その週末。私は約束通り携帯を買ってもらった。自分だけの物を初めて手にした。潤南との距離も、少し近づいたような気がした。
携帯で最初に連絡を取るのは、潤南と決めていた。メールをしようか、それとも思い切って、電話をかけようか。散々迷った後、電話をかけることにした。どうしても、声が聴きたくなったのだ。
アドレス帳に一番に登録した、潤南の携帯番号。それを押す。すぐに呼び出し音が聞こえた。そして、電話に出る気配がした。
――お客様がおかけになった電話番号は……
その機械音に愕然とする。繋がらない、という選択肢は、私の中になかった。無意味な機械音を二回聞いたところで私は電話を切った。
メールはできるのではないか。望みを託してメール画面を開く。
――高校合格したよ。潤南はどうしてる?
さりげない風を装って、そう書いた。送信する。届きますように、と祈った。でも、いつまで経っても返事は来なかった。