表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果たせなかった約束   作者: はやはや
4/6

果たせなかった約束 第四話

 年が明け、いよいよ高校受験が迫って来た。それでも、週二度ほどはメールのやりとりしていた。


 同じ高校には行けないとわかっていたので、せめてお互いを励ます言葉をかけて、受験を乗り切りたいと私は思っていた。

――勉強どう? 私、理科がダメだー。お互いがんばろうね!

――うん がんばろ

 相変わらず潤南の言葉はそっけない。

 それでも返事はくれるのだから、私のことを迷惑には思っていないはず。そう思うようにした。でも、ついに我慢の限界が来た。

 その日、塾の模試の結果が返ってきて、私はどん底に突き落とされた。併願の私学の判定がBからEに落ちた。原因はわかっている。勉強に集中できていないから。机に向かっていても、頭の片隅では、いつも潤南のことを考えてしまう。

 いてもたってもいられなくなり、メールを送りたくなる。でも、そうすることは、潤南との関係を危うくさせる。そんな風に悶々と日々を過ごしていた。

 そしてついに私は、八つ当たりするかのような、言葉を送ってしまった。

――新しい友達の方が大事でしょ。好きな子もできたんじゃない? もう私のことはいいよ。


 送った後で、激しく後悔した。最低すぎる。潤南は何も悪くないのに……すると、意外にもすぐ返信が来た。

――そんなことない

 とだけ書かれていた。潤南の気持ちがわからない。そっけない態度を取るくせに、私を自由にしてくれない。あぁ、また八つ当たりしていると気づく。


***


 自分の部屋で、模試の結果をぼんやり見ていると、ドアをノックする音がした。

「唯子、メール来てる」

 姉がドア越しに、顔を覗かせながら言った。その言葉に驚いた。

――そんなことない

 という、潤南の返信の後、私は言葉を返さなかった。潤南から続けてメールが来るなんて、思ってもみなかった。

 姉の部屋に行き、パソコンの前に座る。新着メールを知らせる表示が、デスクトップにあった。息を浅く吐きながら、それをクリックする。

 受け取りたくない内容だった。

――唯子は好きなヤツできた? それなら俺のことはもういいよ。


 どうして。どうして、そんなこと言うの? 私には潤南しかいないのに…… 好きな子なんていない。

 思わず涙が流れる。それを見た姉が「あんたも、いろいろ大変なんだね」と言った。慰めにもならない言葉だったけれど、私の心が乱れていることを、誰かに知ってもらうことで、一人じゃないと思える気がした。


 心はぐちゃぐちゃでも、受験は迫ってくる。本番まで後、半月。今ここで気持ちを切り替えて、勉強に集中しないと、永遠に後悔する。

 何とか気持ちのバランスを取りながら、私は私学と公立の受験勉強に気持ちを集中させたのだった。


***


 三月十六日。公立の合格発表を迎えた。無事、自分の受験番号を見つけた時は、今までにない安堵感を覚えたのだった。その週末。私は約束通り携帯を買ってもらった。自分だけの物を初めて手にした。潤南との距離も、少し近づいたような気がした。


 携帯で最初に連絡を取るのは、潤南と決めていた。メールをしようか、それとも思い切って、電話をかけようか。散々迷った後、電話をかけることにした。どうしても、声が聴きたくなったのだ。

 アドレス帳に一番に登録した、潤南の携帯番号。それを押す。すぐに呼び出し音が聞こえた。そして、電話に出る気配がした。

――お客様がおかけになった電話番号は……


 その機械音に愕然とする。繋がらない、という選択肢は、私の中になかった。無意味な機械音を二回聞いたところで私は電話を切った。

 メールはできるのではないか。望みを託してメール画面を開く。

――高校合格したよ。潤南はどうしてる?

 さりげない風を装って、そう書いた。送信する。届きますように、と祈った。でも、いつまで経っても返事は来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ