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序章

ザブーン


 何故、オレが今海の上にいるのか。

 それはちょっと前に遡る。


「がっはっは! おい、なに感傷に浸ってんだ! 網引き上げるぞっ!」


「へい!」


 10日前


 in日本


 カタカタカタカタ、カチカチ

 パソコンの光が目に焼き付く!


「はー、やっば、まじ目が死にそう」


「先輩、大丈夫っすか?」


「いま12連勤目、ぷっ」


「ぷっ、じゃないっすよ、まじ休んでくださいね」


 見ての通りブラック企業で働いている。

 俺の実家は漁師家系なんだけど、都会の暮らしに憧れて1人上京してきた。

 もちろん両親には大反対されたし、なんなら殴られた。

 …俺も殴り返した。

 飛び出してきたはいいものの、学歴も無ければコネもあるわけない。

 コミュ力なら多少はあるんだけどねー。

 その中途半端なコミュ力のせいだ。

 飲み屋で知り合ったおっさんに気に入られて入社したのが運の尽き。

 IT企業の皮を被った真っ暗な会社。

 あーこんなんだったら漁師になりゃ良かった!


「先輩、さっきからなにぶつぶつ言ってるんすか」


「え? あぁ…え? まじ? 聞こえてた?」


「うん、キモいっすよ、まじ休んでください」


「もう12時かぁ。流石に帰るか」


 フラッフラだった。

 酒飲んでないのに、足がふらふら。

 それもそのはず、12時間座りっぱなしだったからだ!

 エコノミー症候群一歩手前なんじゃね?

 

「足元気をつけてくださいね先輩」


 と言われたのも束の間。

 つるっと階段から滑ってしまった。


 これがまたひじょーーに打ちどころが悪かった。

 頭のアノ部分を階段のアソコに打ち付けてアレがたくさん吹き出た。

 即死。

 じゃあなんで意識があるかって?

 そうなんだよ、そこが問題だ。

 俺にもわからない。

 けど、1つだけ分かることがある。

 死んだと思った瞬間、真っ暗になった脳内にテロップが流れた。


「このまま死にますか? それとも責任を伴いますが強くて転生しますか?」


 もちろん、不甲斐ない人生を送って来た自分は迷わず後者を選択した。

 死ぬのも怖かったしね。


「強くて転生が選ばれました」

「地球の超人、アスリート達の長所をコピーした肉体を用意。魂を移し替えます」

 

 こんな感じのテロップが流れた。

 そして目が覚めたら、草原の上にいた。

 


 綺麗な自然が広がっていて、後ろには雄大な山脈が見えるし、前方にはキラキラ光る海も見える。

 俺は迷わず海に駆け出したね。

 漁師家系の遺伝子には逆らえなかった。


 丘を降りると海辺には小さな小さな町が見えた。

 なんとなく察していたが、十中八九ここは異世界だろう。

 視界の横でポヨンポヨン弾むモンスターがいるわ、町のお家はファンタジー世界の様式だ。

 なつかし! こんな世界観のゲームやってたっけ。


 丘を降りて町の浜まで来た。

 屋台が並んでいる。

 何か食べてみたいけど俺お金持ってないや。


 ということで、金を稼ぎたいんですけどもね、なにぶん異世界だしな。

 お金の稼ぎ方が分からない。

 今俺の持ってるスキルを考えてみる。

 多少のプログラミングスキルだろ、あとはおっさんに気に入られる話術だろ、あと酒の一気飲みだな。

 うん、なにもない。

 どれも異世界では通用しなさそうだ。

 ぷらぷら浜を歩いていると懐かしいものを見つけた。

 船だ。

 向こうの船とはだいぶ文化レベルが低いものになるがしっかりした木船だった。


 「漁師」か…

 漁師になってたら死なずに済んだのかな。

 今になって両親への罪悪感が溢れ出てくる。

 

「俺の船になんかようか?」


 中から筋骨隆々のおっさんが出てきた。


「え、いえ! 良い船だなと思いまして!」

「おお、分かってんじゃねぇか! なに、お前さんも漁師かい?」

「いえいえ! 漁師ではないんですけどもね」

「そうか? その体つきだと漁師に見えたがな」


 たしかに、言われてから気づいたが、自分も筋骨隆々だ。

 これがアスリートのアレと言われるやつか。

 

—ぐぅ


 やべ、お腹なっちった。

 

「なんだお前、腹減ってんのか?」


「は、はは…お金持ってなくて…」


「ついてこい」


「え?」


「汚さないんなら、俺の船乗せてやる」


「良いんですか?! ありがとうございます!!」


 避けてた漁師の世界と異世界で巡り会う、運命とは分からないものである。





 出向してからしばらくすると、船は止まった。

 やはり異世界には機械がない。

 船の移動はモーターではないのだ。

 そう、魔法!!

 船の後ろから炎が出ている。

 

「なにそんな珍しそうに魔法見てんだ?」


「あ、いやぁ、綺麗な魔法だなって!」


「ほれ、釣るか?」


 無視された。

 釣竿を渡された。

 地球の竹竿と同じだった。

 


 …ぽちょん


 入れた瞬間、食いつく!

 釣りは小さい頃から父親に教わってたからだいぶ上手い自負があったんだが


 慣れた手つきでスッと引き上げた。


ザバァン!


 アホみたいに大きな魚が向こうのほうで跳ねた。

 ま、まさかね…俺の竿にかかってるのはあいつじゃないよな…

 竿を引いていく。

 

 さっきの巨大背ビレがどんどん近づいてくる。


 え、うそでしょ。

 

「おま!! なにやってんだ!! 特大魚じゃねぇか!!! 船持ってかれんぞ!! 糸切れ!!」


 もう遅いっすよ!!

 思いっきり踏み込んでいた。

 竿を振り上げると大魚が飛び上がり、その猛々しい全貌があらわになった。

 そしてそれがこちらに降ってくる。


「やべーぞ!! おまえ!! これ投げろ!!」


 おっさんは慌ててモリを渡してきた。


「一緒に投げるぞ! うてうてうて!!」


バシュン


 軽く放り投げたつもりだった。

 俺の手からはまるで◯谷翔◯のようなスピードの豪速球が放たれた。

 モリは魚の脳天を貫いて落ちてくる。


「は?! おめぇさん今のは魔法か?」


「いや、俺も分からないっす…」


「そうか…会心の一撃ってやつなのか?」


 船の近くに顔がえぐれた巨大魚がプカっと浮かんでいる。

 モザイクかけておいて下さい。


「すげぇや、これ多分近海の主だぞ」


「そうなんすか?」


「うむ、ただこの世界にどんな魚がいるのか判断しようがねぇ。魚の情報がちっともねぇ」


 まあ元の世界ですら海は未知の領域って言われてたしな。


「じゃあ俺が魚図鑑、作りますよ」


 それで両親への罪悪感が晴れれば良いと思っていた。

 そんな決心をした異世界転生初日だった。


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