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月夜のタヌキ

作者: 真城
掲載日:2023/01/11

月が明るい夕暮れ、親子は公園でタヌキに出会った。



東京で再び開催されるオリンピックに合わせて美しく整備された公園は夜もフットライトが灯されて、アスファルト舗装の通路も、芝生も明るい。人気のない野球場はフェンスで囲まれて暗いが、ホームベースと白線は、照明の光を反射して浮かび上がる。


軍用地時代からの大木も多いのに、景色が暗く見えないのは照明の効果だろうか。


行き交う人は、様々だ。

老夫婦のウォーキング、子育てが一段落したであろう年代の人の犬の散歩、学生のジョギングなど、それぞれの時間を楽しむ。


この公園では、ボーダーコリーが小ぶりに見えるほど、大型犬を連れた人が多い。

戸建が多い住宅街とあって、自慢の愛犬は毛並みツヤツヤの手入れが行き届いた個体ばかりだ。




日が傾いても、子連れの散歩は少なからず。

子供は保育園帰りの「まだ遊びたい」子が多い。


遊具のコーナーで遊ぶ子もいるが、子供はヨチヨチ歩きながら、犬がお目当ての子もいる。


「ラッキーに、会いたいの。」


言葉が早い女の子は、歩くことにあまり欲がない。

仲良しのゴールデンレトリバーがいなければ、公園の奥まで歩いてはくれないだろう。


大きな黒い瞳は茶色い犬の姿を探す。

まだ切ったことのない髪の先は耳の上で、うなじで、柔らかに外はねに収まっている。


犬の飼い主のグループごとに、お散歩犬の溜まり場が決まっている。

ラッキーのグループは小型犬も中型犬も含めて、5頭ほどの規模だ。

溜まり場では、散歩を終えた犬に水を飲ませたり、情報交換する人もあり、ヒトとイヌの社交場といっても差し支えないだろう。


近ごろは管理事務所の「リード着用」の巡回監視が厳しいのか、犬のお散歩グループの数が減った。車で5分ほどの場所にあるドッグランへ行ってしまったのか、夜遅くの散歩に切り替えたのか。


いつものコースにラッキーの姿はない。


その代わり、ラッキーの溜まり場の手前のアスファルトの上に首輪なしの、小さな犬の親子がいた。つま先がすんなり細く、街路灯と月あかりが彼らを背後からスポットライトのように照らしていた。


「タヌキだ。親子。」


タヌキから目線を動かさない母親のささやきを聞いて、黒い瞳は輝いた。

ラッキーには会えなかったが、直立二足歩行をはじめて間もないヒトにとって、人生初のタヌキとの遭遇だ。


「保育園の、帰りかしら?」


ふっくらした頬から、小さく抑えた声がたどたどしく聞こえた。

タヌキの親子もこちらをジッと見つめている。


しばらく様子を見ていた親タヌキは、人気のない方向へトコトコ歩き出した。

子タヌキも後に続いた。その姿は舞台の下手へはけるように、暗い茂みに消えた。


「ポンポコポンって、おうちへ帰るの?お風呂に入るの?」


「みんな、おうちへ帰るのよ。」


「タヌキさん、おやすみなさい。バイバーイ。」


ヒソヒソ声で挨拶をすませると、しっとりと汗をかいた小さな手が母親の手をぎゅっと掴んだ。


「今日のごはんは、なあに?」


人の親子も、家路についた。

とっぷり暮れた空には、満月が輝いていた。



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