7話 戦闘準備
ジュジュの力で虹色に輝くリンゴのような果実を食べてから、数時間が経過した。
窓から外を見やれば、緑色の小鬼――ゴブリンの群れが攻めてきているのが確認できる。
……さて、ときは来た――というやつだろう。
今すぐ準備を整えて出撃したいところだが……何やらジュジュの様子がおかしい。
俺を訝しげな表情で見てきており、何かを言いたそうにしている。
「どうしたんだ? ジュジュ」
「……どうして、平気なんですの? ワタクシに言われたくはないと思いますけど、本当に人間?」
「残念ながら、人間だ。バケモノだったら、こんな危険を冒してまで強くなろうとしないだろ」
「……ワタクシ、ノロアさんが恐ろしいですわ。あの方ですら、1つ食べたら気を失っていましたのに……」
「おい。なんて危険なモノを食べさせたんだよ。……お陰で魔力が増えた感じがするけどさぁ」
……と、平然を装っている俺だが、実は今にも倒れそうなぐらいしんどい。
体が異様なほど熱を持っているのがわかるし、気を抜けば気を失いそうだ。
つまり、いま俺が立っていられるのは根性。ジュジュが言う『あの方』は、根性が足りてないってこと。
とは言え、無理もない。魔の瘴気っていうのは、指先でちょんと触るだけで体に変調をきたすらしいし。
……ってなわけで、さっさとゴブリンどもを片付けて眠りにつきたい。
ので、準備を進めることにする。
「……話は変わるけど、本当にお前が見たことのあるモノならなんでも作り出せるんだな?」
「厳密には、見たことのあるモノの鏡像を投影することができる……ですけど」
……うん、やっぱり大丈夫そうだ。
ジュジュが言っている言葉通りなら、俺がこれからやろうとしていることも実現できないことはないな。
おっと、それをやる前に……。
「どうかしましたの?」
「いや、母さんの外套を借りようと思ってな。俺の無力さは周知の事実だから、急に強くなったところを見られると怪しまれる」
「村人なら避難したではありませんの」
「まぁ、そうだけど念のためだよ、念のため」
「ノロアさんは心配性ですのね。イリスさんとは全然似てませんわ」
「……ジュジュから見て、母さんはどうだった? ずっと見てたんだろ? ……と外套はここにあったか。ほかにもこんなに冒険者時代の道具が……」
やっぱり、母さんでも思い出の品は捨てられないんだな。外套のほかにも、愛用していた剣……。
お墓を作るとき、一緒に埋葬してあげよう。その方が母さんも父さんも喜ぶはずだ。
でも、この外套は形見として持っておこうかな。防御力アップのエンチャントがされてるみたいだし。
後、このネックレスも貰っておこう。これは、魔法学園で勉学に励んでいる妹の分。
「……まぁこんなもんかな」
貰いすぎるのは少し気が引けるしな。そう思いながら立ち上がり、黒い外套を羽織る。
そんな俺を見て、ジュジュは言い淀んだ。
「……ノロアさん。ワタクシにとってのイリスさんは…………」
「言いにくいなら、無理に言わなくもいいよ。聞いたのは俺だけど。でも、言いたいことがあるなら、そのときまでにまとめておいてほしい。ゴブリンを片付けてから、ゆっくり聞くよ」
「そうさせてもらいますわ。……ところで、これからどうしますの?」
「あぁ、そうだな。まずは……」
懐からペンの形をした呪具を取り出す。そして、空中に向かって――
「『初代勇者の身体能力』に『初代剣聖の剣技』? ノロアさん、本気ですの?」
「できるんだろ?」
「できますわ。見たことがありますもの。ですけど、それとこれとは話が……」
「やってくれ。もう、襲撃は始まってる」
「……わかりましたわ。もう、どうなっても知りませんわよ……?」
「あぁ。それと『聖剣』もよろしく」
こうして、ゴブリンの群れに対する戦闘準備は整った。恐らく、戦えるのは十数分と言ったところ。
その短い時間で、どこまでやれるか。できるなら、ゴブリンの群れを殲滅したいところだけど……。
「……よし。行くか」
外套を翻し、ジュジュに作り出してもらった聖剣を手にして、俺は戦場へと飛び出すのだった。
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