4話 呪具はヤンデレ
「でも、信じてくださいまし。ワタクシは決して殺意があって呪い殺しているわけではありませんの」
そう言って、幼女は俺の手を強く握ってきた。それだけ信じてほしいということだろう。
表情も先ほどまでとは打って変わって真剣そのものだ。嘘をついている人の顔じゃない。
でも、俺の両親を殺したのは事実。その前提がある以上、容易に信じてはいけない。
……とはいえ、歩み寄ると俺は決めた。幼女を全否定するのは簡単だが、それでは何も変わらない。
知ろうとしなければ、呪具のことを……。
「……はぁ。そんな表情されたら、信じないとは言えないな。だから、教えてくれ。お前のことを」
「わかりましたわ。ほかでもないノロアさんのためですもの。何でも聞いてくださいまし」
「……そうだな。呪具ってそもそもなんなんだ? 呪いの魔道具だってことは知ってるけど」
まぁ、逆にそれ以外のことはなにも知らない。
「簡単に言いますと、ワタクシたちは人格を与えられた魔道具ですわ。今でこそ呪具なんて呼ばれ方されていますけど、初めはそうではなかったんですのよ?」
「そうなのか?」
「えぇ。ワタクシたちが人を呪い殺すようになったのは、ひとえに使われなくなったからですわ」
「つまり……どういうこと?」
「要するに、恥ずかしながら嫉妬してしまったんですの――ほかの魔道具に。ワタクシたちは使ってもらえないと不安になって、どうにかなってしまいますの」
「な、なるほど……?」
たしかに、これは私怨以外の何者でもないな。
でも、お陰で理解できた。呪具に限らず魔道具は使ってもらって、初めて存在理由が生まれる。
そして、使われなくなったら死んだも同然。
それを回避するために所有者を殺して、新たな所有者の元へ……ってわけか。
「ただの嫉妬深いヤンデレじゃん。ただただ愛が重くて自分勝手なヤンデレじゃん……」
「ヤンデレ……。たしかにそうなのかもしれませんわね。ワタクシたちはただ使ってくれるだけで嬉しくて、幸せなんですもの」
そう言いながら、幼女は腕に抱きついてくる。
「本当に嬉しかったんですのよ? ノロアさんに使っていただけて……」
あっ、これ……歩み寄ったらダメだった感じ? 少し歩み寄っただけで、距離感ゼロになった?
まぁ、使わなかったら呪い殺されるだけだもんな。まだ、こうやってベタベタされる方がマシか。
なら、俺はこれから不安を抱かせないようにすればいいだけ。簡単なお仕事だな。
「……そういや、名前聞いてないな。お前、名前あるのか?」
「ワタクシのお名前ですか? ワタクシは……ジュジュ、ですわ」
「そっか、ジュジュっていうのか。これからよろしくな」
「えぇ。よろしくお願いしますわ。ノロアさん」
――こうして、両親を殺した呪具と打ち解けあった? 俺は二人で生きていくことを決めたのだった。
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