36話 怒っている理由
「…………」
時は少しばかり経過してその翌朝。俺たちは『フェルド』の教会に向かっていた。
どうやらそこには王都に一瞬で移動できる転移の魔法陣があるらしく、それを利用するためだ。
しかし現在、少々問題が発生していて……。
「……ジュジュ。歩きづらいから体にまとわりつくのやめてほしいんだけど」
「…………」
「無視? えっ、こんなに引っ付いてるのに絶賛仲違い中? 嘘だろ……」
もう俺にはジュジュが何を思っているのかわからなかった。……本当、女ってめんどくさい。
どうしてこんなことをしているのか答えてくれたら、何がいけなかったのか考えることができるのになぁ……。
「……お前、本当にわかってねぇのか?」
「え? うん」
「こんなところまで似なくていいだろうに。……はぁ、お前のためにこのオレ様がお節介を焼いてやる。昨日の夜、何があったか思い出してみろ」
「昨日の、夜……?」
……昨日の夜って何かあったっけ? というか、待って? 俺、昨日の夜の記憶なくね?
実際には浴場から出てしばらくした後の記憶が皆無だ。つまり、このときに何かあったんだな。
えーと、確か浴場から出た後、俺は……。
「――マスター。こちらの指輪をどうぞ」
「これは、さっきの……」
「はい。わたしが封印されている依代です。マスターが持っていてください」
「わかった。……そういやお前、服どこにやったんだ? どこにも見当たらないけど」
そう言って、俺は脱衣所を見回してみたのだが……俺が着ていた衣服以外、やはり見当たらない。
……そういや、ジュジュが着ている黒のゴシック服も単体では見たことがないような……。
「当たり前です、マスター。わたしは普段から衣服を着用していません。……それとわたしのことはルーナと呼んでください」
「えっ、お前……常に生まれたままの姿ってこと? えぇぇ……人の趣味は否定しないけど、なぁ……」
「……勘違いにも限度があります、マスター。……もしかして、裸でいてほしいってことでしょうか? ……後、わたしはお前ではなくルーナです」
「違うわ! 誰もそんな要望言ってないし、お前が服を着てないって言うからてっきりそうなんかなって思っただけなんだけど!?」
「……本当ですか? 今のマスターはとても信じられない。顔が真っ赤になっていますので。それと何度も言わせないでもらえますか? わたしはルーナです。次、お前って言ったら……ドアに指を詰めてもらいましょう」
「……はい、すいませんでした」
……うぅ、怖い。ちょっとからかっただけなのに、絶妙な痛さの罰を与えられるなんて……。
というか待って? 何で俺が尻に敷かれちゃってるの? 俺って『マスター』のはずなんだけど。
……もしかして、俺ってば舐められてる? ルーナは表情が読めないから何にもわからないけど。
仮に舐められてるとしたら、それは契約者――つまり主人としてよくない。
もっと頼れる男にならなければ。
「……それでさっきの話だけど、服を着てないってどういうことなんだ?」
「こういうことです、マスター」
その瞬間、俺はなるほどと理解した。さっきまで肌色全開だったはずなのに今は……。
しかし、これは何だ? 確かにこれは衣服ではなくどちらかと言うと、エンチャントされた防具に近い。
まぁ、見た目は可愛らしい服なんだけど。
もしかして、ジュジュのゴシック服を見たことがないのもこういうことなのかもしれない。
「それは何なんだ? 『強化魔法』に近い魔力の流れを感じるけど」
「正解です、マスター。これは『魔装』と言って、身体能力を向上させる魔法の一種です」
「……これが魔法? 俺にも使えたりするのか?」
「残念ながら、無理でしょう。『魔装』は防具を纏うという明確なイメージのほか、常に一定の出力で魔力を制御する緻密な魔力コントロールが必須なため、魔法もロクに使えないマスターは発動すらできません」
「……やっぱり、俺のこと舐めてない?」
「そのような失礼なことをこのわたしが思っているとでもお思いなのですか?」
……そうとしか思えなくね? たとえ『魔装』が使えなくても、少しはオブラートに包んでくれよ。
何で直球なんだよ。そのせいで俺のガラスの心が粉々に砕け散ってしまったじゃないか。
まったく、俺の周りにいる女どもはどうなってるんだ。少しは俺のことを労ってくれてもいいじゃん。
……くそ、仕方ねぇ。オリビアを俺に優しいヒロインに育て上げるしかない……!
そのためには今すぐにでもオリビアの元へ行って、何を思い悩んでいるのか聞いてあげなければ……。
「ルーナ、話はここで終わりだ! 俺は俺のため、ヒロインを口説き落とす……!」
そう言い放ち、脱衣所から飛び出した俺だったのだが、そこにはすでに先客がいて……。
「……ノロアさん、これはどういうことですの? 無視をしていれば反省してくれると思っていましたのに、どうやら逆効果だったみたいですわね……」
「じゅ、ジュジュ……」
「何か言い訳があるなら聞くだけ聞いてあげますわ。……もちろん、許すつもりはありませんけれど」
や、やべぇ……! 何でかわからないけど、めちゃくちゃ怒ってらっしゃる……。
こういうときは素直に謝った方がいいんだろうけど、何に対して謝ればいいのか……。
というか、俺が何をしたんだろう。
……仕方ない。ここはほかの人に協力を仰ぎ、事態の収拾をつけよう……!
「アリ――」
「――この期に及んで、ワタクシ以外の女と目を合わそうとするなんて許しませんわ」
「えっ……?」
「ノロアさん? 覚悟してくださいまし」
その瞬間、全身にとてつもない衝撃が走ったかと思いきや、そこで俺の意識は途絶えるのだった。
「――俺、悪くなくね」
昨夜のことを思い出してみたけど、やっぱりどこからどう見ても俺は悪くない。
むしろ、ジュジュの方が身体的な危害を加えてきたんだから悪者だろう。
しかし、そう思っているのは俺だけらしい。
「ノロア、お前……どうなっても知らねぇぞ?」
「……? どういう意味だよアイギス」
「さぁ? 自分で考えやがれ」
「……そう言われてもなぁ。そりゃアリスは愛してるし、オリビアも助けたいと思ってる。でも、ジュジュには誰にも任せられない背中を任せてるから、一番信頼してるってのは本人もわかっているだろうし……」
……いや、待てよ。少しわかってきたような気がするぞ。ジュジュが怒っている理由、それは……。
「俺が口に出して伝えなかったからか?」
確かに今まで俺は思っていたとしても何も言ってこなかった。言う必要がないようにも感じていたし。
後、普通に恥ずかしかったしな。社会的にアウトになりかねない発言だったというのもあるけど。
だって、こんなこと言えるか?
ひと目見たときから、ジュジュに惚れていたとか。
一緒に寝ていたとき、股間が暴走してなかなか治まってくれなかったとか……。
だけど、言ってこなかったからジュジュは怒ってるんだ。……仕方ない、ここは勇気を出して。
「……ジュジュ、俺は――」
「――もう、いいですわ。十分ですわ。これ以上、何も思わなくてもいいですわ」
そう言って、妙にしおらしくなったジュジュは俺の体から降りて……俺から距離を取った。何で?
しかも顔を赤くしているし……もしかして風邪か。昨夜、浴場から出た後にちゃんと体を拭かなかったのかもしれない。
「大丈夫か、ジュジュ」
「だ、大丈夫ですわ。ですから、近づかないでくださいまし……」
「そうか?」
……せっかく、おでこを合わせて熱を計ろうと思ったのに、ここまで拒否されるとは。
でも多分、これで仲直りできたってことでいいんだよな? ちゃんと話してくれるようにもなったし。
これで気持ちよく王都に向かうことができる。
そんな軽い足取りで、王都までの転移魔法陣がある教会に向かうのだった。
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次回の更新は、9月5日です!




