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2話 シチューは母親の味

 その次の瞬間、良い匂いが鼻をくすぐった。あぁ……、これだよこれ……っ! この匂いだ。

 俺はこれがなにより大好きだった。もう二度と食べられないと思っていたけど、そうか……。


「この呪いのペンは、所有者が思い描くイメージを形にする魔道具なんだ」


 だから、こんなにも俺の記憶通りの『母親特製のシチュー』が現れた。

 ……いや、まだだ。まだ匂いがそのまんまなだけで、味は全然違うかもしれない。


 俺は木の器に盛られているシチューを、木のスプーンですくい……口に運んだ。


「……っ!」


 これは、まさしく母親の味! ここまで正確に再現できるとは……流石、人格が宿った魔道具だ。

 使い方もその人格が教えてくれた。と言っても、魔力を込めるだけだったけど……。


 ……もしかしたら、呪いの道具――呪具なんて呼ばれ方されてるが、案外そうでもないのかもな。


 もちろん、両親二人を呪い殺したことは許せない。許すつもりなんて毛頭ない。

 だけど、俺はこれから『コイツ』と一緒に生きていかなければならない。


 呪い殺される、そのときまで……。


「歩み寄るのは、大事だよな……」


 そう呟いた瞬間、視界がグラッと揺れた。いや、全身の力が抜けて、崩れ落ちそうになったんだ。

 今はなんとか机に手をついて耐えることができているが、いずれ限界がやってくる。

 

 なるほど、これが代償ってやつか。使うのにも魔力は使うし、維持するのにも消費する。

 それも魔力消費のペースが尋常じゃない。元々、俺の魔力は少ないのもあるだろうが、数十秒で全部持っていきやがった。


「こりゃ、使うときは慎重にならないとな……」


 そして、とうとう立つこともままならなくなった俺は床に崩れ落ちてしまった。


 あぁ……遺品整理、なんにも進まなかったなぁ。これじゃあ、妹に訃報を伝えるのいつになるのやら。

 でも、母さんのシチューがまた食べられたから、よしとするかなぁ。


 ……次の瞬間、俺の意識は微睡みに落ちた。


 懐かしいシチューのすべてを包み込んでくれそうな匂いとともに……。

 



 嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。嬉しいですわ……。やっとワタクシを使ってくれる方が現れましたもの。

 

 このときを待ち侘びていたんですのよ? 1600年も前から、ずっと、ずーっと……。


 もう、離さない。離したりなんて、しませんわ。あなたが寿命をまっとうするそのときまで……。


 ですから――


 ――ワタクシに、あなたを殺なせないでくださいまし。ノロアさん…………。


 

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