18話 戦闘開始
「い、意味わかんねぇ」
馬車の窓から見える異様な光景にそんな言葉が漏れた。だって、普通にありえないからだ。
魔物が隊列を組んでいることもそうだが、整列しながら誰一人として歩調を乱さず行進しているとか。
魔物にこんな高度なことできるわけない。
まだ1種類の魔物なら、まあそういう場合もあるんじゃない? って思わなくもなくもない。
だが、ゴブリンにコボルトにオーク、それにオーガと……複数の魔物が混在しているのだ。
それに……
「パッと見、リーダーらしい魔物も見当たらん。誰が指揮してるんだ……?」
まさか、魔物1匹1匹が協力し合っているとでも言うのか? そんな馬鹿なことあるまいて。
魔物にそんな知能とか協調性があるわけがない。
「なぁジュジュ。これは一体……」
「ワタクシにもわかりませんわ。このようなこと、見たことがありませんもの。ですが……」
「なんだ? 何かあるのか?」
「間違いなく、魔王軍の仕業ですわ」
「……げぇ。またかよ」
確かに可能性として考えられるのはそれぐらいしかない。本当、余計なことしかしないな。
まだ魔王は復活していないんだから、大人しくしておけよ。何が目的なのかわからないけど。
「でも、今回は魔の紋章持ちはいないみたいだよな」
「そうみたいですわね。……今は、ですけど」
「や、やめろよ。そういうこと言うの」
「申し訳ありませんわ、ノロアさん。十中八九、裏で糸を引いていると思いまして、つい……」
「だからさぁ……!」
俺もう魔の紋章持ちとは戦いたくねぇよ。まだ呪具の扱いも完璧じゃないし、体も鍛えれてない。
一応、少ない時間だったけど魔力は増やしたし、ジュジュにも魔力消費の減少などに努めてもらったけど……。
「……どうする? オリビア」
「…………」
「オリビア? おーい!」
「……なっ、なに!?」
「大丈夫か? お前、顔真っ青だぞ?」
「へ、平気だから。……気にしないで」
全然平気そうに見えないから聞いたのに……。こりゃ、頼りになりそうもないな。
でも、これが普通の反応だ。
あれだけの数の魔物を前にして怯えなかったり、恐怖を感じない方が頭がおかしい。
ましてや、オリビアはまだ12の子どもだ。
できないことはできない。無理なものは無理って言ってもいい年齢のはずだ。
まあ、オリビアは王族だからそうはいかないのかもしれないけどさ。
でも、今は俺に任せてほしい。
「……よし! 行くか、ジュジュ」
「えぇ。ご一緒いたしますわ」
「私も一緒に……」
「いやいや、来なくていい。近いうちに王宮へ行くことになってるのに、その前に怪我でもされたら困る」
「でも……」
……頑固だなぁ。顔を真っ青にするぐらいしんどいんだったら、無理して来なくてもいいのに。
誰も強制してないし、誰かに見られることもないしな。
もし俺がオリビアみたいな偉い奴なら、絶対にこんな面倒ごとに顔は突っ込まない。
偉い奴なら、面倒ごとは下々の人間に押しつけて、自分はふんぞり返っていればいいんだよ。
流石にこんなこと言えないけど。
「……あのさ、オリビア。お前が何を抱えているのか知らんし興味もないけど、人を頼った方がいいぞ。そっちの方が人生楽できるし」
「そうできたらどれだけいいか……。でも、私に人を頼る権利なんてないんだ。私は独りで生きて、独りで死ななければならない……」
……重症だな。思ってもないことを言って強がるくせに、自己肯定感があまりに低い。
なんなんだろう、こいつは。王族のくせにさ。もったいない生き方するなよ……。
そのせいで、こっちまで気を遣わなくちゃいけなくなるじゃん。ほんとめんどくせぇ。
「……はぁ。じゃあもう一緒に行くか。怪我しても知らないからな」
「……ありがとう」
「それじゃあ、行くか!」
そう言って、走っている馬車から飛び降りた俺は、空中に呪いのペンを走らせる。
もう慣れたものだ。書いた瞬間から魔力が消費されていく感覚も、力が漲ってくる感覚も……。
ちなみに、ジュジュに作り出してもらったのは『初代勇者の身体能力』のみ。
今は魔物の群れと距離が離れているし、近接戦闘を繰り広げる前にやってみたいことがあるのだ。
「よし! いっちょやってみようか!」
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