17話 侵攻
誰にも見送られない悲しみの旅を始めた俺は、故郷から数十キロメートル離れた街に向かっている。
俺としてはここを中継地点にするつもりはなかったが、どうやらそうもいかないらしかった。
というのも、オリビアが手配した馬車の持ち主は行商人で、この街に商売をしにきているらしい。
つまり、俺たちはただ乗せてもらっている身で、王都まで連れて行けとは言えないというわけだ。
ちなみに、オリビアが乗ってきていた馬車はゴブリン襲撃が原因で破損。馬も死んでしまったらしい。
同行人もいたらしいのだが、馬と同様の最期を迎えてしまったとオリビアから聞いた。
俺たちがお墓参りをしていたとき、彼女もまたお墓の前で手を合わせていたみたいだ。
……そんなこと、ひとことも言ってくれてなかったけど。
「なぁオリビア。いま向かってる『フェルド』に着いたら少し時間をくれないか?」
「構わないよ。馬車の確保もしないといけないから」
「ありがとう。……ところで、いま聞くのもおかしいけど、オリビアっていくつ?」
「今年で13になるけど……」
「……ということは、今は1年生?」
「うん」
……まだまだ子どもじゃん。それなのに、めちゃくちゃハードな体験をこの数日でしてしまってる。
それにしては、なんかこう……ドライだよな。言い方を変えれば、感情に動きが少ない。少なすぎる。
正直、かなり怖い。
同行人がどういう関係性だったのかは知らないけど、自分の判断で死なせてしまった。
そして、自分はゴブリン・エンペラーに襲われ死ぬかもしれなかった。
普通なら、メンタルがおかしくなっててもおかしくはない。むしろ、そうなってて当たり前。
なのに……。
どうして平気でいられるんだ?
「……いろいろ苦労してるんだな」
「えっ……?」
「なに、その間の抜けた顔。俺、変なこと言ったか?」
「ううん。そんなこと初めて言われたから……」
……マジか。さっきの言葉すら言われたことないとか、どんな人生を歩んできたんだよ……。
そう考えると、俺ってめっちゃ恵まれてたんだな。ほんと、母さんと父さんには感謝しかない。
仮に俺がオリビアと同じ環境で生活することになったら、すぐに頭がおかしくなりそうだ。
まだ周りの人が同じような生活を送っているなら、まだ耐えられなくもないけど……。
まぁ、それはないだろうな。俺の予想が正しければ、オリビアが特別おかしいんだと思う。
いろいろあったから、思ってもないことを口にしてしまいがち……と言っていたからな。
多分それは、自分を守るためのものなんだろう。自分を強く見せるための……。
「お前、休んだ方がいいんじゃね? 王都に帰ったらさ」
「……そうできたらいいんだけど」
「なら、せめて今だけでも休んでろ。お前と同じ歳の妹がいるけど、あいつはもっと図々しかったぞ」
「妹?」
「ああ。多分、オリビアも知ってる奴だ」
「そうなんだ。……どういう子?」
お、食いついてきたな。人と会話するのはストレス緩和にもなるだろうし、落ち着くだろう。
それに、前々から妹のことは話そうと思っていたし。
「……そうだな。あいつは俺より凄い奴だった。なんでも上達が早かったし、なんでも人並み以上にこなせたんだ。外見だって優れていて、俺みたいに死んだ魚の目をしてなかったな」
「キミより凄かったの?」
「それはもう。特に魔法の才能に恵まれてて、魔法の神様に寵愛でも受けてるんじゃないかってくらい凄かった。魔法書を少し読むだけで理論を完璧に理解してたもん。まぁ、生まれたときから魔力量が桁外れだったしな」
「そうなんだ。凄いね」
「ああ、とにかく凄い。俺の知らない間に魔法学園に合格してたもん。でも、俺たちの家ってそこまで裕福じゃないのにどうやって入学したんだって不思議に思ってたら、あいつ――」
「――ノロアさん。外を見てくださいまし」
おぉい! 今から1番凄い話をしようとしていたのに! なんなんだよ、もう!
もうちょっとタイミングを考えてくれてもいいじゃんか!
そんな文句を内心で言いながら、隣に座っているジュジュが指差す先に視線を向けた。
「……なんだ、あれ」
そこには、とてつもない数の魔物が隊列を組んでいた。しかし、動く素振りを見せない。
ただ、そこに佇んでいるだけ。
その様子は『何か』を待っているかのようにも見えて……。
しかし次の瞬間、俺たちが向かっている『フェルド』に向けて、魔物たちは侵攻を開始した――!
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