16話 出発
お墓参りを後にした俺たちは現在、村の西に存在している門の前に集まっていた。
門出にはとてもうってつけなほどに天気がよく、お天道様も俺たちを祝福しているみたいだ。
しかも、村の住人たちも送り出してくれるのかたくさん集まっていた。
……あぁ、なんて俺は幸せ者なんだ…………。
そう思っていたのは――ほんの一瞬だった。
「もう行ってしまわれるのですか、オリビア様」
「そのつもりだ。元々、長居するつもりもなかったのでな」
「行かないでくれ、オリビア様! まだまだこの村にはいいところがあるんだ……!」
「そうですオリビア様! 私たちはオリビア様に救われた身! ですから、いつまでもこの村に……!」
「……申し訳ない。そう言ってもらえて嬉しく思うが、私にもやらなければならないことがある」
「オリビア様……! なんて素晴らしいお方なんだ……!」
……なにこれ。茶番劇にもほどがある。……え? 見送る相手間違ってない?
ほんと村人全員でなにやってんの? オリビアもオリビアだ。お前、悲鳴上げてただけだろ……。
なにが『私たちはオリビア様に救われた身!』だよ。お前たちを救ったのは俺だし。
そもそも、避難していたお前たちは救われるも救われないもなにもないだろうが……。
まぁ、魔の紋章持ちのゴブリン・エンペラーなら結界をこじ開けてきそうな気はするけど。
だとしても、気に食わんなぁ。
「……どうしたんですの? ノロアさん。とてもブサイクな顔をしていますわよ?」
「ブサイク言うな……。単純に手柄を横取りされて嫌な気分になっているだけだ」
「そうでしたの。ワタクシ、ノロアさんのためを思って代役を立てたのですけど、無駄でしたわね」
「……あぁそっか。俺、村人たちに見られたくないって言ってたっけ? ありがとな、ジュジュ」
……てっきり忘れてた。急に強くなったところを見られたら怪しまれるってことだったな。
ジュジュはそのことを覚えてくれていて、オリビアを俺の代わりに仕立て上げてくれたわけだ。
……だとしても、やっぱ気に食わんけどな。なんで助けられた側のやつが礼を言われてんだよ。
まぁ、いいけどさ。
「当然のことをしたまでですわ。ワタクシ、ノロアさんが望むことならなんでも致しますもの」
「そっか」
「そうですわ。……ところで、頭は撫でてはくれませんの?」
「え?」
「ワタクシが手柄を立てた後、あの方はいつも頭を撫でてくれましたわ」
……『あの方』。ちょくちょくジュジュの口から出てくる存在。十中八九、昔の所有者だろう。
いつの時代のやつかは知らないけど、多分ジュジュにとって大事なやつだったことはうかがえる。
……はて、そいつもジュジュに呪い殺されたのか。はたまた寿命で亡くなったのか。
それはよくわからないし、聞く気もないけど……多分、後者だろうな。
普通、呪い殺した相手のことを口には出さないはずだし、なにより……表情が柔らかくなるんだよな。
……俺もいつか、そんな風に話してくれるんだろうか。話してくれていたら、嬉しいよな。
いつになるかわからないけど。
でも、そうなれるように……もっとジュジュと心を通わせていかないと。
このなでなでは――その第一歩だ。
「……ジュジュ、よくやってくれた。お前がいてくれたおかげで、村人たちを救うことができたよ」
「本当ですの?」
「ああ」
「嬉しいですわ。……ノロアさん、よろしければもっと頭を撫でてくださいまし」
「わかったよ」
ジュジュの要望通り、髪がくしゃくしゃになるぐらい頭を撫でてやることにした。
すると、ジュジュは『あの方』のことを話しているときよりもずっと表情を柔らかくして、目を細める。
そんなに嬉しいものかね、頭を撫でられるのって。
……いや、嬉しいだろ。嬉しかっただろ。母さんに頭を撫でられてさ。
「……ノロア。ジュジュさんとイチャついているところ悪いけど、出発の時間だよ」
「イチャついてないし」
「……本当に?」
「本当だ」
「ふーん」
あ、コイツ信じてねぇな? ニマニマしやがって。というか、イチャついてるってどういうこと?
俺とジュジュは恋人でもなんでもないし、呪具と恋人になれるわけがない。
それに、俺は幼女に興味はない。
「それじゃあ、行こうか」
「行くって言ったって、徒歩で行く気か?」
「まさか。門の外に待機させているよ」
「ならいい」
こうして、俺は14年住み続けた故郷から離れ、王都へ出発するのだった。
「……あれ? 俺、見送られてなくね」
……泣いた。
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