13話 王女
いつもなら数分もあれば萎むはずの『あれ』がなかなか萎まず、苦戦を強いられることになった。
結局、十数分『あれ』と格闘することになってしまったんだが、なぜそうなったのかわからない。
だが、裸のジュジュが隣で寝ているのが原因なのは確実だから、止めるように伝えておいた。
当の本人は不服そうにしていて、これで万事解決というわけにはいかなそうだけど……。
そして今現在、俺たちはリビングで朝食が置かれたテーブルを囲んでいた。
「……おぉ。これが料理というやつか……!」
何と彩りがあって美味しそうなのか。匂いも良いし、食欲も湧いてきて無限に食べられそうだ。
しかし、残念ながら俺も馬鹿ではない。
この料理を作ったのがストーカー女なら、毒を入れているかもしれないからだ。
「一体、何を企んでいる……」
この女が俺を嫌っているのは明白だ。キノコを見せてしまったせいで、より嫌われたしな。
……くそ。こんなの生殺しだ。俺がお腹を空かせているのを知ってのことなのか……。
「……ぐぬぬぬぬ」
俺は頭を抱えて唸る。隣に座っているジュジュは普通にスープをスプーンですくって食べてるけど……。
いいなぁ。
というか、
「いま思ったんだけど、なんでそこのストーカーはジュジュをうっとりした顔で見てんだ? キモいぞ」
「喋らないで。耳が腐るでしょ?」
……おっと、辛辣を辛辣で返してきやがったぞ。コイツ、なかなかの毒舌キャラみたいだな。
まったく、どっかの妹みたいだ。アイツも俺のことを常に見下してきてたもんな。
ストーカー女と違って、まだ可愛げがあったけど。
「……はぁ。女って怖いんだなぁ。母さんが天使に見えてくるよ」
いま思ったら、母さんの弱点は料理が壊滅的に下手くそなことぐらいだ。
そりゃ、他人の物なのに要らないと感じたら捨てるのはどうなのかと思っていた時期もあったけど……。
それはもう慣れた。だから、気にならない。
俺、将来は母さんみたいな人と結婚しよ。
こんな人のことを馬鹿にしてくるようなやつらは、誰とも結婚できずに生き遅れてればいい。
そして、寂しい余生を過ごせ。
「しかし、お前も災難だったな。ゴブリン・エンペラーに襲われるなんて」
「気づいてたの? てっきり鳥頭のせいで、助けた相手の顔も忘れていたのかと」
「……酷い言いようだな。あーあ、こんなんだったら助けない方がよかったかなぁ、なーんて……」
「……そう」
「え?」
……ちょっと待って? もしかして、ネタで言ったことを真に受けちゃった感じ?
コイツのことだから、強気で言い返してくると思ったけど……そうでもないのか。
あーくそ、言わなきゃよかったよ。俺はこうやってしおらしくされるのが何よりも嫌いなんだ。
あのときは俺に自由意志なんてなかったし、仮にあっても100パーセント助けてた。
俺は非情な人間じゃないんでな。あんな悲鳴を聞いてしまったら、人として助けるでしょ。
それに、外見は可愛かったし。助けたらワンチャン惚れられるんじゃね? とも思ってたぐらいだ。
そんな理由で助けられたくはないとは思うけど。
「ノロアさん。さっきのはよろしくないですわ。今すぐ謝ってくださいまし」
「えー、謝らなきゃダメ?」
「ダメですわ。ワタクシが許しても、イリスさんが許しませんわよ?」
「……たしかに」
もし母さんが生きていたら、こっ酷く叱られそうだ。母さんは人を悲しませる人が大嫌いだからな。
そう思いながら、頭をポリポリかいて……
「……悪かったよ。本心でもないことを言って……。お前、その身なりからして貴族だろ? その権力で俺を煮るなり焼くなり好きにしてくれ。それでお前の心が晴れるなら」
……はぁ。なに言ってんだ俺は……。貴族っていうのは、基本くそしかいないから本当にやるぞ。
奴らは生まれてから勝ち組人生だから、人を舐めきってるからな。だから、平気で処刑だって下せる。
平民のことを同じ人間だと思っていないからだ。
しかし、
「そんな恩を仇で返すようなこと、私はしない。こう見えて、本当はキミに感謝をしているんだ。いろいろあったせいで、思ってもないことを口に出してしまいガチだけど。……改めてノロア。私を助けてくれて、どうもありがとう」
……ふむ。
どうやら、対面に座っている貴族令嬢はほかの貴族の野郎とは少しばかり違うらしい。
初対面の相手に、しかも明らかに俺の方が年上なのに呼び捨てなのはいただけないけど。
そこはまぁ、貴族といったところか。
「……そうだ。まだキミに名前を名乗っていなかった。私はヴェルティア王国の第二王女――オリビア・フォン・ヴェルティア。以後、お見知りおきを」
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