11話 身に余る力の代償
〜ノロアに助けられた少女視点〜
「ぇ……?」
か細い声が漏れた。というより、漏れてしまったと言った方が適切だろうか。
それほどまでに、理解不可能なことが先ほど起きたのです。
いや、なにが起きたのかはわかっている。
私の悲鳴を聞いて駆けつけてくれた少年が、ゴブリン・エンペラーを倒したのだ。
しかし、どのように倒したのかがわからない。動きがまるで見えなくて、気づいたときには終わっていた。
「この少年は、一体何者なの……?」
私はこのような人を見たことがない。今まで立場上名だたる強者を目にしてきた私が言うのだ。
その人たちには悪いが、先ほど目の前で行われた圧倒的な体捌きと剣技を前にしては強さがかすんでしまう。
まさしく修羅と呼ぶべき戦いぶりだった。
特に最後の攻撃には身も心も震えた。今だって、全身に鳥肌が立つほどに興奮している。
しかし、妙なところもあった。
「もう勇者はこの世界に誕生しているはずなのに、最後の攻撃の瞬間――彼の手が淡く光ったような……」
見間違えることはない。あれはまさしく勇者の紋章だ。見たことがあるからそう断言できる。
……とはいえ、勇者はすでに生まれている。私が前々から知っている方が偽物なのか、それとも目の前にいる少年が偽物か……。
それをはっきりさせる必要がある。
幸いにも、目の前にいる少年は力を使い果たしたのか眠ってしまっている。
今のうちに手の甲に勇者の紋章があるかどうかを確かめよう。
そう思いながら、近づいて――私は息を呑んだ。
結果として、少年の手の甲に勇者の紋章はなかった。しかし、それよりも……だ。
「なんなの、これ……。こんなの、どうやったら……」
動揺が隠せない。今まで、戦地に赴いたこともあるが、このような大怪我をした人を私は知らない。
いや、むしろ全人類知らないはずだ。
だって……少年の体はふにゃふにゃになっていた。それが何を意味するのか……。
それは私にも容易に想像できた。
恐らく、体の骨が粉砕骨折している。これでは、筋繊維だってズダボロなのは確定だ。
内出血が激しいのか、血が皮膚に滲んでいて……とても痛々しい。
よく見れば、呼吸も徐々に弱く、浅くなっていっている。このままでは、この少年の命が……。
でも、私は回復魔法が使えない。一体、どうしたら……。
そう自分の非力さを実感していると……。
「そこにへたり込まれると邪魔ですわ。退いてくださいまし」
背後から幼い子どもの声が聞こえてきた。振り返ると、そこには黒のゴシック服に身を包む幼女が。
しかし、その雰囲気は子どものそれではなく、妙に大人びていて……。
「申し訳ありませんわ、ノロアさん。最終手段だったとは言え、あなたをこのように傷つけてしまうなんて……あの頃となにも変わっていませんわね、ワタクシは…………」
そう言う彼女の表情は、自責の念からか酷く歪んでいて……今にも泣き出しそうに見えた。
きっと、自分にもやれることがほかにあったのではないかと、悔いているんだろう。
それほどまでに、彼女にとって少年は大事な存在なのだと……無関係の私でも理解できた。
「もうこんなことは、これで最後に致しますわ。だから、許してくださいまし……」
そう言って、彼女はどこから取り出したのかは不明だが、少年にポーションのようなモノを飲ませる。
すると、少年の体は見る見るうちに回復していって……呼吸も安定した。
「そこの方、少し手伝ってくださいまし。ノロアさんを家まで運びますわ」
「ひゃっ、ひゃい!」
まさか声をかけられるとは思わず、私は素っ頓狂な声を上げてしまった……。恥ずかしい。
しかし、家まで運ぶと言ったがどうするつもりだろう? 肩を貸して歩くのが1番いいと思うが、私と彼女の身長は軽く20〜30センチメートルほど違う。
そのことを伝えようと彼女の方を向いた。
のだけど……。
「――――ッ」
その瞬間、私の時間が止まった。止められてしまった。あまりの……美しさに。
絶世の美女という言葉では足りないぐらい、目の前にいる女性は……現実離れしている容姿をしていた。
同性の私でさえ、息を呑んでしまったのだ。
きっと、男性が見たならば、その瞬間――気を失ってもおかしくはないだろう。
恐らく、さっきまでの幼女の姿は自分を偽るためであり、守るため……。
この圧倒的な美では、あまりにもこの世界は生きにくい……。
「あ、あの……あなたは…………」
「早くそちらの肩を担いでくださいまし。一刻も早く、ノロアさんの体を休ませてあげたいんですの」
「わ、わかりました!」
こうして、ノロアと呼ばれている少年に肩を貸したワタクシたちは村を歩き始める。
少年が住んでいる家に向けて。
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