10話 VSゴブリン・エンペラー
「ぐえええぇぇぇぇぇ……」
最悪だ。ゴブリン・エンペラーの肉体に顔面からぶつかってしまった。……くそ、痛ぇし、臭ぇ。
しかし、それは上手く避けなかった俺が悪い。そんな俺とは裏腹に、俺の体はすでに戦いに興じている。
流石は勇者の身体能力に剣聖の剣技。動きが速すぎて、俺が唯一動かせる首から上が着いて行かない。
そのせいで頭がぐわんぐわんなって、なにがどうなっているのかわからなくなってくる。
果たして、俺はいま正面を向いているのか、上を向いているのか、はたまた下か。
すでに方向感覚は失われていて、視覚も役に立たない。あと、嗅覚も死んだ。
ぶつかった衝撃で鼻血を噴き出していて、呼吸がままならなくなっていて――文字通り死にそう。
「は、早く終わってぐれぇ……」
俺の口から情けない声が漏れる。だって仕方ないじゃん。しんどいし、つらいもん。
こんな頭ぐわんぐわんなってたら、今にも吐きそうで……なんとか必死に抑えている状態だ。
ちなみに、死ぬほど食った虹色の果実だが、あれはすでに腹の中には存在しない。
ジュジュ曰く、食べた瞬間に消化されるらしい。そのお陰で、一瞬で魔力が増えるとのこと。
というのはさておき、そろそろ決着をつけなければ。いよいよ魔力が底を尽きそうだ。
しかし、
「や、やべぇ……。ゴブリン・エンペラー強すぎる……」
なかなか戦闘が終わらない。どうやら、勇者の身体能力を以ってしても攻め切れていない様子。
それだけ魔の紋章が強力ってことか。まぁ、ゴブリン・エンペラーが強いってのもあるだろうけど。
「ジュジュ、一体どうする。もう魔力が……」
「申し訳ありません、ノロアさん。魔の紋章に対抗するには勇者の紋章が必要だと忘れておりましたわ」
「……マジか。勇者の紋章は流石のお前でも無理だよな?」
「えぇ。あれはワタクシでも投影できません。ですので、少々強引な手を使わせていただきますわ」
「それで倒せるなら、頼む」
その瞬間、全身に凄まじい痛みがほとばしる。
なんだ、この激痛は……。
体が軋むとかそんなレベルじゃない。一体、ジュジュは俺になにをしやがった……。
何百、何千倍にも圧縮したであろう鋭い痛みと鈍痛が、間髪入れずに襲いかかってきやがる。
もはや、体が爆散したんじゃないかと錯覚してしまうぐらいの痛みだ。
その甲斐あってのことなのか、俺の動きは完全に停止した。どうやら、ゴブリン・エンペラーの討伐は成功に終わってくれたみたいだな。
どうして『みたい』なのかと言うと、目が回っていて視覚が終わっているから。
ちなみに、魔力も底がついたみたいだ。糸が切れた操り人形のように、俺は崩れ落ちてしまった。
もちろん受け身なんて取れるはずもなく、またまた顔面から衝突した。ガチ痛ぇ……。
「……もう、無理」
呼吸するだけで全身が痛む。臓器にもダメージがいっているのではないだろうか。
だから、もう絶対に体に見合ってない力は使わないようにしよう。
こんなの、体がいくつあっても足りないし。
……でも、まぁよかった。これで村は守られた。俺たち家族の思い出も守ることができたんだ。
その次の瞬間、俺の意識は微睡みに落ちた。
今までに感じたことがない達成感とともに……。
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