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0話 母親として、最期の想い

〜母親視点〜


 ……もう、そんな時間が経っていたんだ。毎日が楽しくて、いずれこうなることを忘れてしまってた。

 

 今日、私は――死ぬ。


 正確には呪い殺されるが正しいかな。私の家系は先祖代々、30から40の間に死ぬのが確定している。

 これでも20年も猶予を貰っているらしいんだけど、その『死』を回避することは難しい。


 それはひとえに、恐ろしいから。


 1500年以上、放置し続けている私たちがどうして殺さないでほしいなどと言えるのか。

 仮に言えたとしても、虫のいい話だと切り捨てられ――死期を早められるかもしれない。


 そういった恐れから、私たちは己の短い寿命を仕方なく受け入れ続けていた。


 ……そのはず、だったのに。


「死にたく、ないよぉ……」


 いざ『死』を目の当たりにすると、やっぱり恐ろしくて……誰もいないリビングで弱音を吐いた。

 きっと、こんなところあの子に見られたら、ガッカリさせてしまうだろうなぁ。


 私、今まで無駄に強がっていたから。


 本当は酒なんてまったく飲めないのに、カッコいいって思ってほしくて無理に飲んだりしてね……。

 ほかにもいろいろ強がってみたけど、苦しいとか辛いなんて一度も思ったことはなかったかな。


 私はあの子の理想の母親になりたかったから。


「だって、あの子おバカだもん……」


 落ちている物は何でも拾っちゃうし、あろうことかそれを食べてしまう。

 そのせいで数えきれないくらいお腹を痛くしちゃって、そのたびにわんわん泣いちゃうんだから……。


 だから、私はあの子の理想になりたかった。私を目標にして立派な人に育ってほしいから。


「でも、私はもう……あの子の成長を近くで見届けてあげられないんだね」


 そのことが酷く心惜しい。だけど、あの子は誰よりも優しくて、強い人になってくれる。


 それがわかってるだけ、安心かな。


「…………」


 ……もうそろそろダメみたい。すでに意識は朦朧とし始めていて、今にも眠ってしまいそう。

 もちろん、その状態で全身に力なんて入るわけもなく……座っていた椅子から転げ落ちた。


 でも、そのお陰で……。


「……もう時間ですわ」


 今にも私を呪い殺さんとする女の子を一目見ることができた。そして、ときを同じくして……後悔した。

 この子が呪具に宿る人格なら、歩み寄って使ってあげればよかったかな……。


 そうすれば、今は死なずに済んだのに。


 もしかしたら、私のお母さんもおばあちゃんもご先祖様も……みんな後悔したのかな。

 

「最期に、頼みごとくらい聞いてさしあげますわ」


 ……ほら、やっぱり優しい子じゃない。

 生きる意味を奪い続けている私たちに、手を差し伸べてくれるだなんて……。


 どうやら、あの話は本当だったみたい。


 それなら……。


「きっとあなたは私を殺した後、私の夫に手をかけると思う。だけど、その際はどうか……苦しむことがないように安らかに逝かせてあげてほしい。私と違って、堪え性がない仕方のない人だから……。ねぇ、あと2つ言ってもいいかな?」


「……言ってくださいまし」


「ありがとうね。……私には息子のほかに、目に入れても痛くないぐらい可愛い娘がいてね。だけど、あの子は素直じゃないから、誤解を招きやすくて。だから、もし会うことがあったら何を言われても許してあげてほしいの。本当は優しい子だから……」


「……最後の頼みは何ですの」


「多分、次の所有者は私の自慢の息子――ノロアになる。きっと、あなたも気にいるはずよ。私たちを殺したあなたでも、受け入れられる器量を持ってるから。でも、あの子はいろいろ危なっかしいところがあってね? だから、あなたには守ってほしいの。そして、ずっと一緒にいてあげてほしい。あの子は、寂しがり屋だから……お願いね」


「……叶えられるかどうかは保証できませんけど、努力は致しますわ。……それでは、さようなら」


 ――その瞬間、私の意識は強制的に途切れた。


 でも、もう……大丈夫。言いたいことは言えた。後は、あの子たちが頑張ってくれる。

 きっと、この悲しき呪いの連鎖を――あの子たちの代で終わらせてくれるに違いない。


 そう……私は言い切れる。

 だって、私は2人の母親だもの……。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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